――ワールドホライゾン。
「凄い景色ね。もう一日、二日じゃ見切れないくらいに新しいホライゾンが広がってるわ」
「そりゃあそうだろうさ。大きな街、くらいだったのが惑星規模になりつつあるんだ」
新世界創造計画によって広がりつつあるワールドホライゾンの空を、一機の軽飛行機が飛んでいました。
操縦するのは
アドルフ・ワーグナー、後部座席には
紫藤 明夜が座っています。
「色んな世界の特徴が混ざり合っていて、なんというかこう、特異者の歴史を感じさせるわね。
ねぇ、アドルフ。まだ発展途上ではあるけど、今のホライゾンで最速決定戦をやってみるのはいいと思わない?」
「最速決定戦、前にやったやつか。いいんじゃないか。
とはいえ……新しく創られた土地は、各々の特異者に管理を任せてるんだ。
コースを整備するにしても、今から一人一人許可取るのは大変だろ?」
「それなら問題ないわ。
そのくらい大規模なのもやってみたいけど、ちゃんと私たちの管理する土地だってあるんだから、まずはそこを使うわ」
そう言って明夜が指したのは、
バレンタインイベントの一環で作られたおかしな世界でした。
特異者によって創られたエリアもありますが、現在は元界賊『ネオ・ネバーランド』のリーダー
ウェンディが管理を行っています。
アドルフは進路をおかしな世界に向けました。
「それで私にも運営を手伝ってもらいたい、ってことね。別にいいわよ。
気晴らしになるし、他の子たちもこういうイベント事は大好きだからね」
ウェンディが快諾し、アドルフ、明夜と共にコース設定を行う事ととなります。
準備が完了したところでふと、レースのスタート地点となる世界の中心に黒い渦があるのにアドルフは気付きました。
「あれはなんだ、ウェンディ?」
「ブラックホールよ。あれに吸い込まれたらリタイア。
広がっていくあれから逃げ切り、一番早くゴールした人が優勝になるわ」
「おい、それシャレにならねぇぞ」
「大丈夫よ。厳密にはブラックホールじゃなくてブラックコーヒーだから。
ブラックコーヒーホールってわけね」
コースは今回も陸上部門(生身)、陸上部門(車両)、空中部門の三部門ですが、スタート地点は世界の中心で共通。
そこから螺旋を描くようにして外へ向かっていき、外周へと到達することでゴールとなります。
中央のブラックコーヒーは徐々に拡大していくため、遅い人はそれに飲まれてリタイアとなってしまいます。
「あなたたちの想像するコーヒーより遥かに苦いけどね。全身がマヒして動けなくなってしまうくらいに」
「でも飲まれたら無条件でリタイアじゃ味気なくない? ブラックなだけに」
明夜に対し、ウェンディがあるルールを提案します。
「ここはおかしな世界。苦味を中和するためのあまーいものだってあるわ。
それがあれば苦さに耐え、コーヒーのエネルギーを使ってブーストをかける事ができる。
一度だけね。そういうのはどうかしら?」
「ちょっと突っ込みを入れたいところだが、それはそれで面白いかもな。
この世界にあるものが一番効果的だが、“甘い物”であればチャンスはある。あとはそいつ次第」
アドルフもまた、二人の話を聞きながら意見を出しました。
「迫り来るコーヒーから真っ先に逃げ切ったヤツが最速、それは元々の趣旨だからいいだろう。
こういうコースの仕様だ。
飲まれないギリギリのところを走り続け、リタイアせずに最後にゴールした奴も入賞にするってのはどうだ?」
「むしろ最速を目指すよりも難易度高いんじゃないかしら。最遅賞も入れましょう!」
「……その賞の名前はなんとかしたいところだけどな」
こうして最速決定戦改め、最速&最遅決定戦がスタートします!