――ワールドホライゾン 市庁舎
「ホライゾンが第二の特異点――地球になりつつある?」
「それは……どういうことです?」
ヴォーパルの報告に、
紫藤 明夜と
木戸 浩之は首をかしげました。
ホライゾンに長くいるほど、その言葉はにわかには信じがたいことだったのです。
「これまで、特異者たちは多くの世界……三千界の外界、内界、そして別次元と繋がり、それらの力を集めてきました。
神域へ至るために必要な
聖具も集まりつつあります。
それらが影響を及ぼし、ホライゾンは新たな大世界、
地球と同様の特異点になろうとしているのです」
しかし、ホライゾンの進化によって近界域は不安定な状態になっており
今はヴォーパルが結界を張ることによって平穏が保たれているとのことでした。
「結界の外はどうなってるの?」
「ホライゾンの力に刺激されて、界霊の活動が活発になっています。
そして大世界ともなれば、
界賊に座標を特定される危険もあるでしょう」
界賊。
それは三千界の各世界で破壊や略奪を繰り返すものたちの総称です。
目的は私利私欲から三千界の破滅まで様々ですが、いずれもホライゾンとは敵対している集団でした。
特異者たちは恐るべき界賊『セレクター』を辛くも退けましたが、構成員はいずれも健在であり、
三千界の破滅を標榜する
ギャラルホルンも今なお、セレクターやあまたの界賊にその意思を吹き込んでいます。
「いまのところは何も起こっていませんが、
こちらに探りを入れているものがいることは間違いなく――
……っ!」
そのときヴォーパルは話を止め、はっと外へ顔を向けました。
「噂をすれば影が差す、ですか」
「そういうことね」
浩之がそう言うと、明夜がうなずいて答えました。
しかしヴォーパルは、二人が思うよりもさらに危機的な状況であることを告げます。
「セレクターの存在も感じます。しかし、今警戒すべきは――
結界に、
複数の界賊が取り付いていることです」
■□■
――セレクターのアジト、その一室。
ホライゾンの結界へ集まりつつある界賊たちの配置を盤と駒で描きつつ、
“鬼神”
ヤナギ サヤはつぶやきました。
「そろそろホライゾンの連中も気づくころかのう。
でなければ、こちらも張り合いがないんじゃが」
「よく言うよ。高みの見物の立場でさ」
そう答えたのは、天使の姿をした悪意――
ギャラルホルンでした。
「ホライゾンの戦力は十分“敵”に値する。じゃが、何よりも奴らの強みなのは成長の速さじゃろう。
……新たな力に目覚めている可能性も考慮し、こちらも少しばかり増強しておきたい」
「でも、足手まといはいらない。
だからボクらのネットワークを使って、結界の位置をリークした。
他の界賊をホライゾンにけしかけて、『セレクター』のメンバーに値する逸材を見出せるように。
ホライゾンを使った耐久テストってわけだ」
ギャラルホルンの言葉を、サヤは沈黙で肯定しました。
サヤは自分たちセレクターが、ギャラルホルンの求める『世界を滅ぼしうる存在』として有望であることをだしに、
ギャラルホルンを利用し、戦力の拡大を図っていたのです。
「
ネオ・ネバーランド。
星界連合。
百鬼夜行。
あ奴ら程度で特異者どもを倒せるなどとは思うておらんが、せいぜい選び甲斐のある戦いをしておくれ」
■□■
――ワールドホライゾン近界域。
「ラッパ吹きにそそのかされたと言えば、その通りだけど
私たちは目の前にいる仇を放っておけるほど、悠長な子供じゃない。
感じる、憎き“アリス”を……。
さあ、“飛ぶ”わよ!」
そう言ったのは、ネオ・ネバーランドを率いる
ウェンディです。
「委員会にせめて一太刀、皆がそう考えていることだろう。
奴らが未だ健在ということは、中佐たちも地球には辿り着けなかったということだ。
ならば我らに出来ることは、この三千界にいる仇敵を討つのみ。
総力を結してホライゾンを叩く! 総員、戦闘開始!」
クレイグ提督の号令に、星界連合の部下たちが威勢よく応じます。
「野郎ども! 手あたり次第にぶっ壊せ!
どうせ俺たちゃ三千界の鼻つまみ者、どうせ散るなら派手に咲こうぜ!」
鬨の声を上げた百鬼夜行の異形たち――
その中でもひときわ存在感を放つのが、彼らのカリスマ的存在
九頭龍です。
「よくぞ集まった、絶対悪の同志よ。
界賊連合、今こそその威をホライゾンに示すのだ!」
「「「いや誰だよ!?」」」
そしてなぜか彼らの先頭に陣取った
田中 是空がまとめ役っぽいことを言い、全員から総ツッコミを食らいました。
ちなみに界賊連合は是空が勝手に名前を付けただけで、界賊たちは連携しているわけではないようです。
「連合総帥にして絶対悪である俺の顔を忘れるとは……」
「全員初対面でしょ。総帥でも何でもないし」
隣で呆れているのは大剣を携えた傭兵
デュランダルです。
是空にツッコむときりがないので、雇い主とはいえ相手をするのに疲れはじめていました。
(こいつがいればホライゾンには侵入できる。無害すぎるからね。
まぁ、今回は迎えがいるんだが……あのドMの変態、いつの間にかアタシの連絡先まで掴んでたし。
サヤに挑むつもりなら、アタシの本気について来られないと話にならない……
今のアイツらに、それだけの力があるか。図るにはいい機会だ)
是空とデュランダルをホライゾンに手引きしたのは、
鄭国然です。
彼は狭間の岬で待っていると、連絡してきました。
(アイツにも何か思惑があるようだが……それともただの趣味か。まぁ、アタシにとっちゃどっちでもいい)
界賊たちの反応を無視し、大層な演説をしていた是空が勢いよく手を突き出しました。
「さあ始めよう。
異界(いかい)での界賊同士のデスゲーム、つまり
イカゲ……」
「
異界ゲームだね」
デュランダルが是空の言葉を遮ります。
――かくして。
『セレクター』の一員、サヤによって仕組まれた
界賊たちによるホライゾン侵攻という、
(界賊が生き残りをかけた)デスゲームの火蓋が切って落とされたのでした。