“流浪の世界”
アーク。
超巨大浮遊大陸アークを起動したアーケディア王国の第一王女
ロミア・レンスターは
謎の敵
バルバロイに対抗すべく異世界召喚を行い、
「外法の者」を呼び集めました。
異世界から来た者たちはアーケディア王国騎士団と共に、アーク防衛を任されます。
伝説の楽園
「シャングリラ」に辿り着くために――。
■□■
――アーケディア王国、レンスター城。
「アークは無事に起動しましたわね。ミレナス、王都の状況はいかがですか?」
『まだ多少の混乱が起こっています。
無理もありません。突然王都が空を飛び始めたのですから』
アーケディア王国第一王女
ロミア・レンスターはオペレーションAIである
ミレナスから、王都レンスターの状況を聞きました。
「結界、動力共に安定。ひとまずバルバロイも振り切ることができました。
しかし引き続き予断を許さない状態です」
浮遊大陸アークの“航界士”であり、
ウィックロー魔法師団の団長である
ルイーズ・ウィックローが報告します。
『定期的に補修・整備を行っていたとはいえ、起動は3000年ぶりですからね。
現在、各部の精査を他のアポストルと共に進めてますが、データがまとまるまでにはもうしばらく時間がかかりそうです』
ミレナスと共に映し出されている背面ののモニターには様々な数字や記号の羅列が流れていました。
『先の戦いにおける全騎士団の損耗率は1.222%。バルバロイとの戦いが始まって以来、最も小さいものとなっています。
これも外法の者たちの力あってのことでしょう』
「やはり彼らこそが予言にある『楽園へ導く者』。
亡き国王の遺言に従い、異世界召喚を決断なされたロミア様のご判断は正しかったのです」
「ぬか喜びしている場合ではありませんぞ、ロミア王女」
そこへ、
マンスター騎士団の団長
ゼピュロス・マンスターが嫌味ったらしい顔をしながらやってきます。
「数字の上では過去最も低い損耗率かもしれませんが、犠牲者の中には将来有望な伯爵・辺境伯家がおりましてな。
ロミア様がもっと早くご決断なさっていれば、未来を担う貴族の若者が失わずに済んだかもしれませんぞ。
有象無象の庶民どもと貴族。どちらが大局を担っているかもお判りでしょう、王女様?」
「あなたは“レンスターの鉄門”なのですから、子飼いの騎士数名の損耗くらいで右往左往しないで、もっとどっしりと構えましょうぜ」
「貴様のような者が貴族の品格を落としているのだ。口を慎め、クローヴィス」
「はいはい公爵サマ」
キルデア騎士団の団長、
クローヴィス・キルデアが王女とゼピュロスの間に割って入りました。
「ロミア様の御前です。見苦しい言い争いはお止め下さい。
貴族は民を導く者。そして騎士団長である我々は、貴族の見本とならなければなりません」
ルイーズが両団長を諫める中、ミレナスのモニターにアラートの表示が出ます。
『姫様、バルバロイの強襲です! 数……500!!』
「500か。バルバロイの連中、本当に倒しても倒しても沸いてくるなぁ……」
「フン、丁度いい。せいぜい外法の者共には最前線で働いてもらうとしよう。
よろしいですな、姫? それで死ぬようなら予言の者ではありますまい」
「……分かりました。ですが、マンスター騎士団には彼らの支援を命じます」
いやらしい笑みを浮かべ、ゼピュロスが恭しく一礼しました。
「ゼピュロス様に同意するつもりはありませんが外法の者たちの力、そして星詩の力を確かめる良い機会です。
未だ星楽、特に星詩による実戦データは多くありません。
外法の者たちは召喚と同時にいずれかの因子に目覚めます。
その相乗効果がもたらすものが、今後のバルバロイとの戦いに大いに役立つかもしれません」
「そうは言っても、まだ実戦経験が乏しく、数も数だよ、ルイーズ?」
「……ヴィス、もちろん、私にも考えはあります。ミレナス」
『はい。アークそのものも戦闘能力を有しており、兵装による迎撃が可能です。
500程度ならばまとめて殲滅する事も可能でしょう』
しかし長らく使用していなかったことから、確実にするためには調整が必要なこと。
ある程度敵を誘導しなければならないことから、騎士団がバルバロイを食い止めなければなりません。
加えて、大陸の一部を動かすことから、市民の安全確保をした上で行うことも前提となります。
「市民の避難はウィックロー魔法師団が請け負います。
今は不安でしょうから、彼らにも星詩を聞かせてあげましょう」
「よし。じゃあキルデア騎士団は前線に出てバルバロイと」
「ヴィス。申し訳ありませんが、キルデア騎士団には別に頼みたいことがあります」
ロミアの指示を受け、ミレナスが依頼内容をクローヴィスに伝えました。
外法の者との接触か、あるいはアークが起動したことによるものか。
これまでアクセスできなかったデータ領域にアクセスできるようになり、
遺跡の中に因子に深く関わるものがあることが判明したのです。
『今後の戦いに向け、戦力の拡充は必須です。
外法の者がいることで、何らかの反応があるかもしれません。ただ、問題があるとすれば』
遺跡がちょうど兵装の射線上にあり、人がいると展開に支障が出てしまいます。
「僭越ながら姫様、この状況で調査を急ぐ必要はないのでは?」
「兵装の展開には時間がかかります。それに、これから先もバルバロイの襲撃は突然あることでしょう」
ロミアは『遺跡を貴族の派閥争いに利用される前に』と、クローヴィスにこっそりと伝えます。
「……そういうことなら、お引き受けしましょう。
こちらも外法の者たちには声を掛けさせてもらいますよ」
■□■
――王都レンスター市街。
「街が浮いてる?」
『市民の皆さん、落ち着いて聞いて下さい。アーケディア王国はこれより、旅を始めます』
突然王都が浮上したことから、避難民は混乱の渦中にありました。
騎士団から市民への説明も行われていますが、すぐに飲み込める者の方が少数です。
故郷に二度と戻れないと知り、大きなショックを受ける者も少なくありません。
「俺たち、これからどうなっちまうのかね」
「王女様がどうにかしてくれんだろ、多分」
「どうかな。公爵様を王にしたがってる貴族様も多いみたいだし」
ふと、街の一角で歌声が響き始めました。
狼狽していた市民がその声に魅せられ、大人しくなります。
「おい、あれって確か」
「あの格好、ナカツクニの民族衣装。それにこの声……」
それはナカツクニで名の知られたトルバドールである
スイランだったのです。