――マタ、アソボウネ。
その時私たちは
モモを助けることが出来なかった。
だから、私は決めたんだ。
■□■
今より約半年前。
海洋の世界ゼスト、海軍本部。
「本気かニャ?」
現在のゼスト連合軍のトップ、
さんぜんねこの
山本二九九(やまもとにくきゅう)元帥に、
マリナ・アクアノート(RWO名アクアマリン)は
退官届を差し出しました。
マリナは若いながらも連合軍で長年エースとして活躍しており、
いずれは軍のトップになるのも確実とされている英雄なのです。
二九九の言葉にマリナは頷きます。
「ゼストはしばらく安全だから」
「いや、そうとも言えない。
異世界からの界賊の脅威はある。
マリナには海軍大将になってもらい界賊と……」
「私は漫画よりゲーム、
RWO(レディアントワールズオンライン)が大事。
モモが“帰って”、アヴィは受験、セルジュは彼氏の配信の
手伝いで忙しいし……
このままだと新たな脅威の前にRWOは滅びる。
私が守護らないと。
いえ、育てないと
新しい力を!」
マリナは以前から三千界全体で遊べるオンラインゲーム
RWOのヘビーユーザーでしたが、それでも軍をやめるなどは
言い出しませんでした。
その言葉に二九九は激高しました。
「ゲーム内の事情など知るか、ふざけるなマリナ!
軍はそう簡単にはやめられない。
ただでさえお前は機密を多く知っている。
辞められたとしても生涯監視は続くぞ」
「なら軟禁状態でもいい。むしろRWOに集中できる。
RWOに繋がるブルー粒子端末さえあれば」
(ダメだ。こいつ完全にイッてるニャ。
それにしてもこの焦りよう。RWOに何がある?
過去に二度ぐらい三千界崩壊につながる危機はあったが
それは回避出来て、落ち着いていると聞くが……)
と考えていた二九九ですが、
今のマリナに何を言っても無駄という事を悟り
とりあえず1年間の休暇を与えるということで落ち着いたのです。
■□■
今から二カ月前。
RWO、ポリアナード王国のサルマティアの街。
「うわあ、ここがヴォルテックスとスパイラルのある
サルマティアの街なのね!!」
シンプルな格好をしたエルフの少女
リディア
――RWOの新規ユーザーがRWOの名所でもあるサルマティアを
訪れました。
そしてどこから遊ぼうと迷っていると。
「この街は、はじめてかい?」
と
ヒンメルと名乗る男がリディアに話かけてきました。
「はい。RWO自体、はじめたばかりで!」
「なら、案内しようか。
あ、無理にとは言わないけど……」
「大丈夫ですよ^^
ぜひ案内して下さい」
そのあと1時間ほどサルマティアの街や、
スパイラルやヴォルテックスの1層などで遊んだのです。
(親切な人だなあ。
戦闘はちょっと下手だけど、RWOにすごく詳しいし
私が初心者だから優しいのかな?)
そして二人は
サルマティアの街が見下ろせる丘にやってきました。
「すごい!ヴォルテックスとスパイラルの両方が見える!
それにお城より大きいツインタワーも!」
「あのタワーはヴォルテックスとスパイラルの両方をクリアした
伝説のギルド、
24時間騎士団の本拠地さ」
「24時間騎士団!!!
三千界中のRWO端末を破壊して、世界を救った伝説の!!
すごい、私憧れてたんです。24時間騎士団に」
「そんなことまで知ってるんだ」
「RENKINさんの配信で見ました!
みんなはあの話が創作だと思ってるみたいだけど、
分かるんです。私には」
「そうか、やはり特異者だったのか。
――黙ってて申し訳なかったが、
キミの適性を見せて貰っていた」
「?」
「俺は24時間騎士団の副団長でね。
ぜひ入らないか、24時間騎士団に!」
「ええーっ!?」
驚きつつもリディアは24時間騎士団に入ることにしたのです。
■□■
そして現在。
24時間騎士団ツインタワー内部。
ヒンメルはアクアマリンに報告をしていました。
「今日は四人新人を勧誘出来た。
いずれも初心者だが、俺よりRWOの適正はある。
マリナメソッドによる特訓を一か月も受ければ
すぐに追い抜かれるさ」
「ふむ」
かつてはゆるふわ系のアクアマリンでしたが、
この半年で眼帯を付けた威圧感のある風貌に変化しています。
「四人なら丁度パーティーを組める。
24時間騎士団48番隊としよう。
それに卑下するな。
ヒンメルが勧誘してきた新人は皆スジがいい。
ヴァンガードや同盟、
いつでもインしてるほえみさんの手も借りているが、
人はいくらいても足りないんだ。
――
今日もアンチボディが騒がしい」
アクアマリンの眼前にはRWOのワールドマップと
その各地で発生するアンチボディと呼ばれる
RWOのセキュリティシステムであったはずの怪物の
出現状況が表示されていました。
ここ数カ月、
暴走するアンチボディの出現が増えており
それは各世界の運営会社の手に負える物ではありませんでした。
そしてアンチボディの中でも
特に強力な個体はインカーネーターと呼ばれ、
かつてのレプリカントのように冒険者に憑依することもあります。
その強さはROWの歴戦の猛者たちがパーティーを組んでも
苦戦するほどだったのです。
その出現は特異者の多い素数サーバに集中していたため
一般のユーザーの多くはまだ気づいていませんでしたが、
このままではRWOのゲーム自体、
ひいてはRWOとつながる各世界に悪影響を及ぼすと
考えられていたのです。
アクアマリンはその危機にいち早く気づき、
その先の事態にも備え、24時間騎士団を巨大組織化
多くのメンバーを勧誘することにしたのです。
「そうだよ!
ヒンメルは優しいから新人にとっても慕われてるよ。
おかげで定着率も伸びてるし……」
「いやいや。勧誘のラストで、
クレインが作ったツインタワーを見せてるお陰で
うまくいっているいるだけさ」
「え、そうかな。
あれは専門学校の卒業制作で作っただけで。
あ、ありがとう……えっ!?」
――ザクッ! 3526ダメージ!!
照れたクレインの脇腹にナイフが刺さり、
大ダメージが与えられました。
「……クレインさん、取らないでよ。
私には……私にはヒンメルさんしかいないんですからああ!!!」
それは二カ月を経てチャンピオンとなったリディアでした。
彼女の体は真っ白に……そう
インカネーターと化していたのです。
■□■
そしてサルマティアの街の裏の裏。
「……バカが。バウアーが旧知のヒンメルを
24時間騎士団にいれなかったのは
その魔性を知っていたからだ。
このままだと、RWOは今度こそ滅びるかもなあ」
「今回は助けてあげないの? ウラバイヤー?」
「バカが、前に協力したのは司法取引がったからだ。
だれかRWOを守るか。
それにな、今回の現象は新しい時代の到来の幕開けだ。
どうなるかはこれからだ……」
ウラバイヤーはギルドメンバーの
ユクの前で
ヒヒッと笑ったのです。