マナPこと芸能神
マナシジャの思惑、そして彼女の追放のどちらも阻止し、
さらに
シヴァに傾倒していた彼女の心を自分たちに向けることに成功したアイドル達。
フェスタ側の交渉と聖歌庁職員
アンラの口利きもあり、
マナPの身柄は条件付きで秘密裏にフェスタに置かれ、しばらくの間保護と観察を行うことになりました。
◇◆◇
――フェイトスターアカデミー。
ここ数日、校内の空気は何だかピリピリしていました。
それもそのはず、敷地内のあちこちに配置された聖歌庁職員が常にアイドル達を監視しているのです。
「いくら私が有能だからって、お手洗いにまで監視を付ける必要があるんでしょうか?
人権……いえ、神権侵害ですよねぇシヴァ様? 私、もう滅多なことはしないって約束したのに」
シヴァを模していると思われるぬいぐるみをぎゅっと抱いて、マナPはわざとらしく悲しそうに目を伏せました。
実際にマナPはアイドル達に大きな恩を感じているようで、「フェスタのアイドル箱推し」と自称すらし始めましたが、
彼女にとっては推しが増えたという認識でシヴァへの憧れは消えてはいないようです。
フェスタで監視の指揮を取っている
アンラ・マンユは長く大きな溜息を吐きました。
「あのね、保護初日にトイレの窓から脱走してフェスタ生達の寝顔を盗撮しに一晩で数十件の不法侵入をしたのはどこの誰です!?
大人しくしてくださっていれば、監視もすぐ終わるはずなのに……
あなたがそんなだから、こっちも超増員するはめになるんですって」
「でも、寝顔を撮られただけ……あと皆の私物がちょっと無くなっただけ、それだけよ。
マナPは前みたいな『本当に悪いこと』はもうしないわ」
「アルカ、それはさすがに……いや、もう何も言うまい。それもまたお前の長所で才能だ。
それで、もう準備は済んだのか?」
大荷物を抱えた
アルカ・ライムと、一緒に荷物を抱える
司馬八咫子。
一時的にフェスタに籍を置いていたアルカでしたが、八咫子とも和解しグランスタに戻ることを決めたようです
「最後に木校長にもお礼を言いたかったんだけど……。あの日以来、全然会えないのよね」
「ああ、それは……」
アンラが何かを言いにくそうにしていると、近くでガシャンと何かが落ちる音がしました。
振り返ると、
木馬太郎校長の姪である
木花子がスマートフォンでニュース番組を見ながら震えていました。
側にはかわいいお弁当箱が無残に落ちています。
『本日、アイドル育成学校フェイトスターアカデミー校長の木馬太郎容疑者(年齢不詳)が公務執行妨害の疑いで逮捕されました。
聖歌庁の発表によれば、聖歌庁が身柄を確保していた人物の逃走を木氏は故意に援助し――』
「お、お、お……おじさまがっ、逮捕……!!??」
マナPを追放すべきという聖歌庁の要請を拒否したアイドル達。
木校長は生徒たちを庇い、自分が“無”へのゲートを閉じたように見せかけて聖歌庁の非難を一手に受けたのでした。
それを差し引いても、聖歌庁ではフェスタを制御不能な集団として警戒の目で見始める動きもあるようです。
膝から崩れ落ちる花子を皮切りに動揺と衝撃がフェスタに広がっていきます。
と、その時。皆の心に直接呼びかける声がありました。
――フフフフ、安心してください。連行されたのは私が擬態した根の一部、ただの切り離された木片です。
本体はずっとここにいて、変わらず皆さんを見守っていますから。
「だそうよ、外の世界樹を見てみなさい。
秋太郎も分かってて、あんたたちへの牽制というかポーズとしてやってるところもあるのよ。
これ以上変なことをしなければすぐ釈放されるはず。
……秋太郎が激おこなのはマジだけど」
アンラの言う通り、窓の外では相変わらず山のような大樹――木校長の本体が悠然と聳えています。
生徒たちは少しは安心した様子でしたが、反対に驚いていたのは事情をよく知らなかった様子のマナPでした。
「えっ! つまり、いま拘置所にいるのは校長さんじゃないってことですか?
私、てっきり……ええと、フェスタの推しくん推しちゃんの皆のためになると思って……」
口ごもり始めるマナPにその意味を聞き返す前に、先程花子が見ていたニュース番組に速報が流れました。
『速報です。聖歌庁管轄の拘置所が何者かに侵入され、拘置中の数十名が脱走したとの情報が入りました。
正確な情報は確認中ですが、聖歌庁は近隣地域に聖歌隊を派遣し――』
「た、大変ですっ。聖歌庁管轄ってことは、こわい凶悪犯がたくさん収容されっあわわわわわわわ」
花子がさらにパニックになります。
――あわわわわわわわ。
木校長もこれはさすがに予想外だったようです。
マナPはしゅんとしながら、しかしどこかまたアイドルの活躍が見られることに期待しているような様子で舌を出しました。
「う~……校長さんを助けるようにちょーっとだけ
聖歌庁の子に『お願い』をしたんです。
それがどうも上手くコントロール……じゃなくて意思疎通できてなかったみたいですね。
悪気は無いの、喜んでほしかっただけ。ぴえん♪」
◇◆◇
――グランスタ本部。
グループの重役達が集う役員会議には緊張した面持ちの幹部たちが揃っていました。
しかしその中で一つだけ空いているのは、マナPが退いた今再び空席となった『総裁』の席です。
「確かに返してもらったぞ、私のグランスターホルディングス。
お前達、私は慈悲深い。これまでの非礼はグランスタへの更なる忠誠で償うがいい」
マナPによるマインドコントロールの解かれた役員たちは、確かな実力を持つ指導者である
烏扇の帰還を歓迎しました。
しかし、烏扇が再びグランスタの総裁に返り咲くことには難色を示す者もいるようです。
「わ、我々は元会長を信頼しておりますが……取引先やグループ各社の反発は免れないかと」
「つまり、私ではなく、他の者を新たな総裁に立てようと?」
会議室に緊張した空気が流れます。と、そこへ――
「はーい、
それならアマネさん達が総裁に立候補します!
マリカ様と組んでるんですから、私達
Project A.Mも一応グランスタ所属ですもんね!」
突然乱入してきたのはまた楽しそうなことを見付けたとばかりにいい笑顔の
アマネと、半ば引きずられてきた
茉莉花でした。
「時代は2030年ですよ、おじさんの独裁経営なんてもう古くさいんじゃないですか?
私達が総裁になった暁には、
明るく楽しく元気でクリーンなグランスタを実現します!」
「……まあ、うちの黒い噂やイメージを払拭したいのは同意。
バラエティ番組で散々言われるのよ。グランスタが無理なアイドル育成で廃人を出してるとか、役員が男アイドルにしか興味ない性癖だとか、裏ではヤバい人造ゾンビサメを作ってるとか……」
「フフ……ははははは! 面白くない冗談を言ってくれるな、小娘が!」
早速派手に火花を散らし合う烏扇とアマネ、そして半ば呆れ気味に呟く茉莉花。
グランスタの未来を懸け、新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしていました……!