ヒロイックソングス!でアイドルデビューを予定していた、特異者組織TRIAL発のアイドルユニット
『TRY-R』。
しかし、
彼女たちはアイドルを選別し淘汰するアイドル業界の新たな仕組み
『新世紀アイドル規格』の壁にぶち当たり、デビューすら危うい状況に陥っていたのでした――。
★☆★
「で、この
認定テストに合格すれば手っ取り早く規格を満たせるんだよね」
「そうしたらきっと『TRY-R』もイベントに出演させて貰えて、デビューライブのお披露目もできます……!」
お揃いの衣装を着て互いに頷き合う、
リーゼロッテと
ノエル。
今日はTRY-Rだけではなくフェスタやワールドホライゾンの仲間たちと共に、非常に危険かつ難関と言われるテストを受けにきたのでした。
その認定テストは最新のバーチャルルームにて行われるようで、
受験者たちはそれぞれ案内された部屋でスタンバイしている状態です。
「業界は規格を満たすアイドルだけを求めている――つまり、合格さえすれば大ブレイクが約束されていると言っても過言ではない。
何やら大きな力が働いているようだが、テストの突破など造作もないよ。プランは既に用意してある」
同じくお揃いの衣装を着て不敵に笑うのは、3人分の衣装を手掛けた本人
キョウ・サワギです。
彼女の言う通り、特異者としても実力のあるTRY-Rは現役アイドルにも引けを取らないポテンシャルを秘めているのは確かでした。
しかし……
『やっぱり今日は面白い子たちがテストに来てくれてますね、
マナPさんが教えてくれた通り!』
テスト内容を説明するモニターに突如映し出された赤と銀のツートンカラーのツインテール。
それは、かつてワールドホライゾンを脅かした三千界統合機関の生き残りの特異者
アマネでした。
こちらの世界では彗星の如く現れた新人バーチャル動画配信者として注目を集め、“主催者”の意向で認定テストの進行役を任されていたのです。
「よりにもよってあの女か……」
キョウの自信満々な表情が途端にスンと消えてしまいました。
と、同時にバーチャルルームに現れたのは、
全盛期の頃の衣装をまとうトップアイドル咲田 茉莉花の幻影でした。
他の部屋で同じ幻影と対峙したアイドル達の中には、その圧倒的な輝きで多くのアイドルの心を折ってきた彼女の異名――
“アイドル潰し”の名を思い出した者も少なくないでしょう。
「随分と容赦ないことをしてくれる。雑魚散らしのためだけに最強のカードの一枚を切ってくるとはね」
事前の調べでヒロイックソングス!の有名どころは網羅していただけに、TRY-Rの受けた衝撃も大きいものでした。
『ようこそ、高みを目指す者たちよ! 今君たちの目の前にいるのは、かつてのトップアイドル。
新しい時代を担うに相応しいアイドルになりたくば“過去”に打ち勝ち、“未来”を示すのだ!』
モニターに映るアマネがメガホンを手に、大仰な演説を始めます。
そして、
『そして今日は、サプライズな挑戦者がいます! さあ、どうぞ!』
「え……!?」
バーチャルルームの扉が開く音に、ノエルが驚いた声を上げました。
幻影の茉莉花とはどこか雰囲気の違う、本物の茉莉花がつかつかと入って来たのです。
『偽物の後ろから本物登場です♪ なんとマリカ様も一緒にテストを受けてもらいます。
“全盛期”ではなく、“生まれ変わった”マリカ様の勇姿、目に焼き付けておいて下さい。
期待していますよ、TRY-Rの皆さん。キミたちと“最終試験”で会えるのを楽しみにしています。
……勝負はフェアに。正々堂々といきましょう!』
「本当に、あの茉莉花さん、なんだよね?」
リーゼロッテの問いに、茉莉花は静かに頷きます。
「今の私には、果たすべき使命がある。だからまた、私もここで証明するわ。
そして“潰す”。新たな風を起こそうとする若い目も――過去の私も。
でも……そう簡単に“アイドル潰し”に潰されない輝きがあることを期待しているわ」
この程度も越えられないようなら、TRY-Rという新人はそれまで。
茉莉花の瞳には迷いのない、強い意思が宿っていました。
★☆★
一方、会場の外では。
「お疲れ様、花子! 結果はどう……」
「ぐすっ、先輩っ……! いえ、もう私は後輩でも何でもなく、ただのだめだめな自宅待機のお茶の間ですっ。
やっぱり落ちこぼれの私は、アイドルはもうこれっきりにします――!」
同じくテストを受験したものの茉莉花のライブを純粋に楽しんでしまい失格となってしまったらしい
木 花子が
彼女を応援に来てくれた
泉 光凛に泣きついていました。
「そ、そんな……。私、花子のあったかいライブが好きなのに。
だいたい、よく分からないルールのせいでどこにも出演できないなんておかしいよ……!」
「そうだそうだぁ! もうこんなアイドル業界なんてまっぴらだぁ!」
「どうせアイドル辞めるんなら、最後にもう何もかも失ってやるぜ!」
「は!?」
同様にテストに失格したらしく泣いたり絶望したりしている者に混ざって、
モヒカンのアイドル(?)達が自棄を起こし暴れ始めていました。
自分のアイドル衣装をビリビリに破こうとしている者までおり、このままでは警察沙汰です。
「ま、待って待ってみんな! 今はどんなに苦しくても……アイドルを諦めちゃだめだよっ!」
★☆★
そして会場では、いよいよTRY-R&茉莉花の順番が回ってきましたが……
「おや、バーチャルルームの様子がおかしいですね。これは――ノイズ?」
進行役の裏でシステム管理も行っていたアマネが、バーチャルルームの異常に気付きました。
全盛期茉莉花のデータが複製され続け、異常増殖していたのです。
その上、精神負荷が大きく、負の感情が増幅されるようになってしまっており、
試験に落ちた者たちの無念が「電子怨霊」となって受験者を引きずり込もうとしています。
(困りましたね。サポートはありがたいのですが、アマネさんが望んでいるのはこういうことではないのですよ。
強制遮断は危険ですし、本物のマリカ様に何かあったら困ります)
こういう「後ろ向き」なやり方は好きではない。
そこでアマネは、ある方法を思いつきました。
「ここはアイドルらしく、“応援”してもらうとしましょう♪」