ワールドホライゾン最大の戦いともいえる、三千界統合機関との決戦が終わって数週間。
機関長
シヴァを退け戦いに勝利した特異者たちでしたが、ワールドホライゾンの被害は小さくはありませんでした。
ウロボロスや界霊ジアーズによってビーチは壊滅、
マーケットは辛うじて営業できてこそいますが、周囲の瓦礫はまだ残ったままの状態になっています。
「さぁ! へこたれてばかりはいられない!
皆で盛り上がって復興しようじゃないか!!!」
凄惨な状況の中、一際大きな声が響き渡ります。
声の主、ジョニー・ハワードはまだ少し荒れている広場の真ん中で両手を振り上げています。
「せっかくたくさんの世界と繋がったんだ、
ExcitingでVery funな復興フェスティバルを開催しなければ損ってものさ!
楽しんで、復興する! それこそがホライゾンのあるべき姿だと思わないか!」
「「「おーーーー!!!」」」
ジョニーのその言葉に、広場は謎の盛り上がりを見せ、勢いよくこぶしを突き上げます。
それにつられて、パラミタやフェスタから来た人たちも、笑顔を浮かべこぶしを突き上げました。
「ハハハ! この調子なら当日もいい具合に盛り上がりそうだ!
題して『ようこそ三千界へ!』。
パラミタ、フェスタ、そしてローランドの子たちにも楽しんでもらえるようにしないとな!」
■ □ ■ □ ■
――ホライゾン 広場
「みんなー! 今日は集まってくれてありがとー!」
そして
“復興祭”当日。
ホライゾンの広場、その中央で“オニキス”は大量の男性特異者に囲まれていました。
少し高台にいるオニキスは下から見上げられるばかりか、カメラで写真を撮られたり、双眼鏡で見られたり、とされたい放題です。
(なんで俺がこんな目に……でもアドルフさんから任せられたこの役目、果たしてみせる)
そう、RWOプレイヤー、
オニキスこと一條 勇人は、
アドルフ・ワーグナーからこの復興フェスティバルの重要な役目を任されていたのです。
勇人が女性キャラオニキスになってまでやり遂げようとするその役目とは……
「では、これからクロスワールド交流!武闘大会を開催しまーす!!
参加する方はこの申込用紙に名前とサインをしてねー!」
アドルフから任された役目、それは新たにつながったパラミタやフェスタ、ローランド含めた様々な世界と交流する事。
勇人はその手段として交流模擬戦を提案したのでした。
オニキスの姿なのは「その方が受けがいいだろ」とアドルフに言われたためです。
「なかなかいい感じに人が集まってるじゃないか」
瓦礫を並べただけの客席に腰かけ、アドルフはそうオニキスを見やります。
「ふぅ、お待たせ」
観客席に
紫藤 明夜が蒼空学園の校長、
御神楽 環菜を伴って合流しました。
ホライゾンの市長として挨拶をした後、そのまま観戦にやってきたのです。
「この機会に私も特異者のことをちゃんと知っておきたいと思ってました。丁度いいわ」
「楽しそうねぇ……パラミタやフェスタ、今まで見たことないような戦い方をする人が出場するんでしょうねぇ。
ねぇ、アドルフ。私も経験として出場しても……」
「ダメだ。自分の体の状況くらいわかるだろ?」
「はーい……」
アドルフに言われしょぼくれた明夜でしたが、その目は何故か死んでいませんでした。
「そう言われても、ねぇ。ふふふ……」
既に出場者一覧の中には「“帰ってきた”謎のOL EX」の名前が……
それを目にとめたアドルフは、大きくため息を吐きました。
■ □ ■ □ ■
その頃、ホライゾンと同じく復興は進んでいるものの、未だ瓦礫が散見されるTRIAL。
その一角に設営された特設ステージで、
リサ・グッドマンが観客席を見下ろします。
「ってワケで、TRIALも適当に盛り上げてねってお達しなのよね。
お姉さんも伸びる猫持って応援してるから、アイドルを囲いつつ適度に楽しくやっちゃって」
「きゃはは、ゆるい開幕! まあ、これくらいが気楽よねぇ。聖歌庁でもこんな上司が欲しいわー」
観客席後方の関係者席で手を叩いたのは、ヒロイックソングス!のアイドル達を指揮する政府組織
聖歌庁から派遣された
アンラ・マンユでした。
誰よりも早くワールドホライゾンに到達し視察を行ったアンラは、周辺組織含め着々と人脈を広げていたようで今回の復興祭にも進んで協力を申し出たのです。
TRIALからは
キョウ・サワギと
ブレイク・マグノリアの二名がフェスタのある地球に出向いており、
緩い協力体制が築かれています。
パラミタとも、再建のための資材提供を受ける代わりに自衛隊の神代琢磨が
蒼空学園に向かうなど、
各々が自分に出来ることを推し進めているようです。
「折角の機会だし、私もアイドルってやつに挑戦してみようと思うんだ。色々教えてくれないかな?」
「ぜひぜひっ。皆さんのライブ、私も楽しみです!
私やアンラさんの“芸能神”の力で……少しでも復興の一助になれたら嬉しいです」
可愛らしい衣装を着た
リーゼロッテと、フェスタから応援に駆け付けた
木 花子(もく はなこ)は
簡易テントで仕切られただけの楽屋から開会式をそっと見守っていました。
「そうそう。
キョウちゃんの提案だけど、無理に歌って踊らずにファッションショーにしてもいいよん。
うーん、それなら楽そうだし私も出演しちゃってもいいかもねぇ」
思い出したように付け足すリサに、会場から歓声が上がりました。
TRIALは基本運営側ですが、誘えばライブを共演してくれる者もいるでしょう。
■ □ ■ □ ■
――ホライゾン マーケット跡地
「さって、どこから手を付けるか……」
境屋は瓦礫に腰かけ、煙管に火をつけながらそう零しました。
かつて栄えていたマーケットも、今となってはかろうじて建物の形こそ残っているものの、
戦いの衝撃波によって中はぐちゃぐちゃに壊れているものがほとんど、
かつてのようなマーケットの再開には時間がかかる事が予想されます。
「さすがに、困ってるみたいですね」
煙管を吹かす境屋に声をかけたのはクロニカでした。
瓦礫を避けるようんして現れたクロニカは普段のスーツよりも少しラフな格好をしています。
「別に困っちゃいなぇが……
それより、スーツ以外の格好なんて珍しいじゃねぇか」
「体を動かすならそれなりの格好をしないとね
これ、境屋さんがやったんでしょう? 私もぜひ参加させてもらおうかと思って」
クロニカの手には、一枚の書類が握らていました。
■新マーケット出店店舗募集■
マーケットを建て直すついでに、
希望があればお前達にも店を持ってもらおうかと考えてる。
希望者は再建用の素材を集めて俺んとこに持ってこい。
まぁ、あとはあれだ、直接来た時に話す。
境屋
「あぁ、それか……それだったらまだ準備中だ」
クロニカに紙を見せつけられた境屋はシブそうな表情を浮かべ、後頭部を掻きました。
「途中でめんどくさくなったんでしょう?
私は自分の店を持ちに来たわけではありません。ここの管理も私の仕事の一つですから。
手伝いますよ境屋さん」