――“幻想の世界”アルテラ、コルリス王国
「……なんだって?」
ウェンディールの使者から報告を受けた
ルキアは愕然としました。
とてもにわかには信じがたい内容だったのです。
「ええ、何処から来たのか分かりませんが、突如
“竜”が現れ、ウェンディールに侵攻しています!」
「竜だと? ……まさか、ハダル以外にも生き残りがいたというのか」
「竜の特徴は伝え聞いております」
情報によれば、現れた竜族の中に、グラナート同盟最高指導者を名乗っていた
ハダルの竜形態と思しき姿もあったようです。
グラナート同盟に突如現れた“最高指導者ハダル”は自身が竜族の末裔であることを明かし、
特異者との戦いで大きな怪我を負いながらも、その姿を消しました。
「しかしなぜ、ウェンディールなんだ……?」
「それについても分かりません。ただ、群を率いている“黒い竜”は明確に破壊の意志を持っているとのことです。
このまま上陸すれば、ウェンディールはもちろん、いずれはコルリスも……」
「国境の第二兵団には既に通達済みです」
「私も合流する。
ユリウス王子もな。あとは……“彼女”の手を借りれれば心強い」
ルキアは非公式に、神聖エテルナ帝国の
メリッサにこの事態を報せました。
――“幻想の世界”アルテラ、ウェンディール近く
「ハハハハハハ! 素晴らしい!
これより、世界は竜の時代へと回帰する。これもお前のおかげだ、
リー」
「恐縮です。ですが、彼らの理性は元の時代に置いていかれたようです」
オリエンティアに封じられていた「一なる魔法」の封印解除は失敗。
“世界をやり直す”ことはできず、これが一なる魔法とは別の要因であることにリーは気付いていました。
しかし、歓喜に震えるハダルに言えずにいました。
「かつて、時空への干渉を目論んだ者がいました。彼女の名は
マラキア。おそらくウェンディールの地には、その時の名残があるでしょう。それを用いれば、完全なる竜の復活が成し遂げられます」
『人族がわが物顔でのさばっておるとはな。この世界は我ら竜のもの。故に取り戻さねばならぬ。
……ハダルといったな。貴様は我らに仕えることを許そう』
「有り難きお言葉です。
黒竜王様」
唯一言葉を話せる竜は自らを六の竜王が一人、黒竜であると告げ、ハダルを配下に置きました。
(……竜王様は話せるようですが、周囲の竜は狂化しているように見受けられます。
何かがおかしい。ハダル様の身に何もなければよいのですが)
■□■
――“灰色の世界”ガイア、メトロポリス
「……と、いうわけで、皆様にもホワイト・タワーの警備に参加してもらうことにいたしました。実力のほどは、わたくしがよく存じておりますわ」
ギアーズ・ギルド総代表
シェリー・バイロンに殺害予告が出されたのは、昨日のことでした。
総代表から直接指名を受けたシャーロット・アドラーは、仕事仲間のジェーン・モースタンたちと共に警備につくことになり、第七支部を預かる身として特異者たちにも警備依頼を出しました。
「総代表への殺害予告、これで何度目だ? 五十回くらいだっけ?」
「暗殺未遂も含めれば、十七回目ですわ。今のところ、全て失敗に終わってます」
「そりゃ、成功してたら総代表は別人になってるわな」
ふたりがホワイト・タワー入り口付近を警備中に軽口をたたいていると遠くを巡回していたウィザードの一人が武器を構え仲間を呼ぶ声が響きます。
「なんだお前! ……!?」
メトロポリス最上層に正体不明の人影が、突如として複数出現したのです。
フードを被った人影は、二人と共に警備についているウィザードたちへと向かってきました。
「正面から来るとは、よほどの自信家か勢いだけの馬鹿か」
「あるいは……」
ジェーンとシャーロットの顔つきが険しくなります。
人影を捕らえようとした汽人が“人影に触れられた瞬間”倒れました。
攻撃することなく汽人を倒した人影は、そのままウィザードの中を、進んできます。
「くそっ! なんで攻撃が当たらないんだ!」
もちろん、駆け付けたウィザードたちは人影に攻撃を当てようとしますが、
それらの攻撃は“人影が避けている”のか“武器が避けている”のか、一向に当たりません。
「まるで幽鬼ですわね……ジェーン、容態は?」
シャーロットは倒された汽人へと近づき様子を見ていたジェーンへと聞きました。
汽人に外傷はなく、ただ眠っているだけのようにも見受けられます。
「うん。意識は失ってるけど、命に別状はないよ。
ただ……これは、なんだろう、マナが根こそぎ奪われてる……?」
「そやなぁ……彼らは“そういう存在”やからな」
汽人の様子を見るジェーンとシャーロットの前に現れたのは
「久しぶりやね、シャロちゃん。元気しとった?」
メトロポリスに似つかわしくない着物姿に和傘を持った少女、
桔梗院 桜華でした。
「なぜ貴女がここに? 既にメトロポリスを離れたと思ってましたが」
「もう来るつもりはなかったよ。そやけど、事情が事情やからね」
桜華はすでに入り口近くまで接近している幽鬼を指さします。
「幻獣、精霊の成りそこない。色々な呼ばれ方してはると思うけど……
“生まれることのできなかった可能性の残滓”。それがしっくりくるな。
こっちの三千界にいちゃならんもんが、そこかしこに湧いとる。どうにかせんと、歪みが世界を飲み込むで」
そう言って幽鬼の前に割り込んだ桜華は手に持った傘を軽く振りました。
他のギアと同じく傘そのものは当たりませんしたが、それによって起きた風圧は幽鬼たちを現れた場所付近まで戻します。
「ど、どうやって……! いままでいくら攻撃しても当たらなかったのに!」
疲労によって膝をついたウィザードがそう聞きますが、桜華は素知らぬ顔で答えます。
「マナを抑えな。さもなくば“喰われる”で。今のができる必要ないけど、対抗策はある」
傘を幽鬼にねじ込み、桜華はギアを起動して引き裂きました。
「マナの痕跡を可能な限り消して、内側で爆発させる。やってみ」
■□■
――“ヒーロー世界”ユーラメリカ、デルタシティ
「“アベンジャー”と“スーパーニャン”までやられるナンテ……!」
「アイゼン市長! なんとかなりませんか!?」
突如デルタシティに現れた、7人のevil。
アイゼン・ハワード市長の緊急招集を受けて集ったヒーローたちが次々と倒され、A級ヒーローの“アベンジャー”、“スーパーニャン”までも戦闘不能となってしまいました。
桁外れに強いevilに対処すべく、
アイゼン・ハワード、そして
コトネ・カッシーニは現場へ急行したのでした。
そこで今もヒーロー相手に暴れまわるevilを見て、アイゼンは目を丸くするのでした。
「あ、あれは……Incredible! 歴代のMiss.アルティメッツたちジャナイ!?」
「まさか、ヒーローの殿堂『ヒーロー・ホール・オブ・フェイム』の蝋人形たちが動き出したのですか!?」
「それならbetter goodデスが……人形にあそこまでのmoveはデキナイワ」
アイゼン市長とコトネはヒーロースーツに身を包み、7人のMiss.アルティメッツたちの元へ向かいます。
謎のマスクによって表情を伺う事はできませんが、その目には狂気にも似た何かを感じ取る事ができました。
「我々はデルタシティを浄化し、このユーラメリカを平和な世界にする!」
八代目でもあるアイゼンを目にした初代Miss.アルティメッツは、拳を空につき上げ宣言します。
「このユーラメリカは戦いに溢れている。
ヒーローたちを一掃し、異世界とのつながりを全て断ち、戦いを無くすのだ!」
初代はそう宣言し、どこかへと飛び去って行きました。
それに見て、他の6人も追従するように立ち去ります。
「そんな……そんなの、真のpeaceジャナイワ!
不思議だったけど、さっきの言葉で確信シタワ。アレは本物のMiss.アルティメッツジャナイ!
デルタシティの敵(evil)ヨ!」
「でも、あの実力は本物でした。一体どうやって倒せば……」
コトネの言葉に、アイゼンは華麗なウインクを決め、笑顔を見せます。
「悪が栄えるところには善もまた栄えるのデス!
今は敵味方言っている場合ではnotthingなのデス!」
アイゼン市長は今のデルタシティを、そしてユーラメリカを守るべく、
かつての敵・味方の枠組みを超えて、緊急招集をかけたのでした。