ワールドホライゾンが16番目に到達した世界
エデン。
そこは
勝者(ウィナー)と
敗者(ルーザー)たち
決闘者(デュエリスト)が戦い続ける
“勝敗の世界”でした。
ですが、エデンは長く続く敗者との戦いに疲れており、
加えて、最近では怪物フェイルの出現もあり、
限界を迎えようとしていました。
ワールドホライゾンの市長
紫藤 明夜は、
この状況が何者かによって仕組まれたものだと判断し、
エデンを管理する十二家門の一家、
セクターEを治める
レオ家の私兵の決闘者として協力して、
エデンを救うため調査を開始しました。
□◇■◇□
――セクターE、レオ家
「
決闘者を黄金に変えるフェイル“黄金獣”じゃと……こいつはちと厄介じゃな」
『サイガ様のご協力を仰げればと』
セクターEを管理するレオ家当主
獅子 サイガ(サイガ=レオ)の元に、一本の通信が入っていました。
相手は、セクターCを管理するジェミニ家から“人材管理”を任されている
ナーガという女性です。
パリッと糊の利いたスーツを着、タブレットを持った彼女は、バリバリのキャリアウーマンに見えます。
現在、セクターCの敗者エリアでは、決闘者たちが臨戦体制にありました。
“黄金獣”と呼称される獣型のフェイルが、セクターDで出現した後にセクターCへと侵入し、敗者が集って住まう敗者エリアの一角を支配してしまったのです。
セクターCの決闘者は、対フェイルの経験は十分に積んでいたそうですが、それでもこの“黄金獣”を倒すことは出来ず、敗者エリアへと逃亡されてしまったとのことです。
“黄金獣”は戦った決闘者たちを黄金に変えたことから、この名前で呼称されています。
それだけではなく、“黄金獣”の力に引き寄せられるように、他のフェイルたちが集まっていました。このフェイルたちは、何故か敗者を優先して襲うようになっていました。
「くわばわくわばら、といいたいところじゃが、よいぞ、中立区域同士、仲良くするのは当然じゃ。こっちも決闘者を鍛えるいい機会だと思っているのじゃ」
サイガは煙管から煙をくゆらせながら言いました。
レオ家とジェミニ家は親交が深く、お互い、こうして依頼し合うこともしばしばあります。
『そう言って頂けると助かる』
「とはいえ、こっちも決闘者を派遣する以上、そっちで持っている“黄金獣”に関する情報を提供して欲しいんだが」
『当然だ』
ナーガはそう応えると、“黄金獣”について説明を始めました。
“黄金獣”の正体ですが、その偉能力からナーガは確信を得ていました。
14世紀のマリ帝国の王
マンサ・ムーサです。マンサ・ムーサは、地球史上でも最高の資産を有していたとされ、巡礼の際に立ち寄ったカイロでも惜しみなく金をばらまいたため、10年以上金相場が暴落したといわれています。
「なるほどのぉ。故に決闘者たちを黄金に変えたりできる、と。派遣した決闘者たちが黄金に変えられないとも限らないからのぉ。元に戻す方法はあるのか?」
『“黄金獣”固有の偉能力と考えられる。なので、“黄金獣”を倒せば元に戻るはずだ。黄金に変えられてしまったとしても、“黄金獣”を倒すまで保護しておくことを勧める』
「溶かしてインゴットにするとかしないから大丈夫じゃ」
続いて、“黄金獣”の周りにフェイルが集まっている理由ですが、ジェミニ家では黄金獣が自身を守るためにそうさせているのではないか、と推測しているそうです。
「“黄金獣”を倒すにせよ、捕らえるにせよ、集まったフェイルを倒さないと邪魔してきそうじゃな」
『捕らえるのは賢明ではないな。フェイルとなった偉人とはもはや契約できず、偉能力で倒して偉界へ送り返すしかない。こちらでは何人かの決闘者が黄金に変えられている以上、倒して元に戻すしかない』
この情報を流したのも十二星であり、十二星の中にはその力をものにする手段を握っている者もいる、と、ナーガは私感を付け加えました。
そこまで話すと、彼女の後ろにメイド服を着た女性が現われました。
『今回の依頼は、私たちが“黄金獣”を逃してしまった責がある。私とこちらのアルマが、“黄金獣”討伐のサポートに付こう』
「そうしてもらえると心強いのじゃ。こっちは私兵の決闘者たちに“黄金獣”討伐の依頼を出しておくから、合流して欲しいのじゃ」
サイガはナーガとの通信を切ると、私兵の決闘者として雇っている
木戸 浩之へ、“黄金獣”討伐の依頼を出しました。
直ちに木戸から、ワールドホライゾンの特異者たちへ依頼が伝達されるのでした。
□◇■◇□
――セクターC、敗者エリア
「やれやれ、“黄金獣”を手に入れろとか、
あの方も無茶を仰る」
「
十二星直々の依頼なんだから、失敗は許されないわ」
「分かってますよ。“黄金獣”というより、その偉能力が欲しいんだろう」
「それはあの方が考えることよ。私たちはあれこれ考えないで、依頼を完遂すればいいのよ」
そんなことを呟きながら敗者エリアへと歩く、
男女の調律者と偉人の姿がありました。
調律者の男性は調律者らしい魔法使い風の服装をしており、偉人の女性は薙刀と弓矢を携え、女武者風の服装をしています。
そして時を同じく、敗者エリアへと足早に向かう決闘者の一団がありました。
彼らは“黄金獣”の検問突破にかこつけて侵入を果たしていた、セクターDの決闘者たちでした。
「“黄金獣”はセクターDの繁栄と維持のためにも必要よ。命を賭しても手に入れるのよ」
その一団の中の紅一点、黒い獣を従えた女性――
ソロウ――が一団にそう言い放っていました。
□◇■◇□
こうして“黄金獣”――ゴールデン・フェイル――を巡る争奪戦が始まろうとしていたのでした。