“空想の世界”ワンダーランド
「昼」と「夜」とが分かたれた世界で、
“アリス”と呼ばれる者たちが、
世界を救う鍵となる「空想の欠片」を手に激しい戦いをしていたのはほんの少し前。
「夜」が落ち着きを見せ、徐々に平穏が訪れ始めたワンダーランドでしたが、
ワールドホライゾンの特異者によって、鏡の国で何かが起きていることが突き止められたのでした。
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――トランプ城
「何かが起きている……?」
「そうですわ。一大事ですの!!」
穴門由紀乃は、
巻髪の横に立つ
白の騎士に視線を向けました。
「あぁ、我から説明しよう。
お前たちが調査した際に確認された“鏡の国”で【昼】が発生している事案だが、
これがかなりまずいことになっている」
鏡の国。
“創造主”アリスが創り出した、ワンダーランドの人々の負の感情を押し込めるための小世界。
アリスハザード以後、ワンダーランドと鏡の国の感情の流入が止まったことで、
お互いのワンダーランドでは【夜】、鏡の国では【昼】が起こらなくなったと考えられていた。
しかし、少し前の特異者達による調査によって、
ワンダーランドにおいて時折【夜】が起きるのと同じように、
鏡の国でも、時折【昼】が訪れていることが確認されたのでした。
「報告を聞いてから我も何度か調査に行ってみたのだが……
どうやら、【昼】に適応しつつあるジャバウォックが生まれつつあるようだ
お前たちがジャバウォックの力を操ることができるのと同じように、
ジャバウォックの中には【昼】の力を操るものが出てきている」
以前の調査で、原生種のジャバウォックは【昼】の光に包まれると消滅することが確認されています。
「でも、それなら危険なジャバウォックが浄化されて平和になるんじゃ?」
「あぁ……そうなればよかったんだがな。
我も調査に行ったといっただろう?
その時共に行ったトランプ兵数人が、そのジャバウォックに襲われた際にはぐれて、まだ戻ってきていない。
襲ってきた理由はわからないが、突然襲ってきたやつの力は圧倒的だった。
おそらく光の中にいながらもジャバウォックと同等、もしくはそれ以上の力を持っている……
幸い奴はこちら側……ワンダーランドにくる方法はまだ発見していないようだ。
今のうちに奴を止めなければならない。
もう一度、我に協力してくれないか」
白の騎士の言葉に、由紀乃は力強く頷きワールドホライゾンに連絡を取るのでした。
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―――鏡の国
熊のような大きな体を持ったジャバウォックが歩いていました。
足を引きずり、体から体液を溢れ出している姿から、“何か”によって襲われたことがうかがえます。
その後ろから、白い光が迫っていました。
やがて光に包み込まれた熊型のジャバウォックは塵のように細かく消滅してしまいます。
熊型のジャバウォックを飲み込むと、徐々に光は中央に向かって小さく収束していきます。
光の中央には、三匹の動物が見て取れました。
白く輝く毛並みを持ち、狼のように鋭い眼光の犬
明るいオレンジ色の毛並みを持つ猿
鮮やかな緑色をし、二匹の上をゆっくりと旋回する雉
三匹の動物は、光が小さくなるにつれてその身を寄せるように小さくまとまっていく。
やがて光が消えたとき、三匹がいた場所には
一匹の人型ジャバウォックが立っていました。
「あぁ……またこの姿に戻っていしまった……
早く世界を浄化しないといけないのに……」
袴を履き、陣羽織を羽織った少年のような姿のジャバウォックは、
目の前に差す光へ足を踏み入れながら消え入るような声で囁きます。
「全てのジャバウォック、いやこの世界に生きるものを浄化するんだ。
負の感情も、負の感情を生み出す原因も。全部悪者。
悪者は消さなきゃいけない……消さなきゃいけないんだ…
そうだよね……おじい様、おばあ様……」