無数に存在するアーキタイプの遺跡。
今まさにその一つが、崩れようとしていました。
大きさにしてルインの街が丸々入ってしまうのではないかという程の巨大な遺跡が、
“内側から外側へと”崩落しています。
巨大な地響きと共に遺跡の上部が崩れ、周囲の木々を押し倒します。
「…………」
崩れゆく遺跡の中、一人の少女が、目を覚ましました。
□ ■ □ ■ □ ■ □
トレジャーハンター協会本部では、机をはさんで
ケチュア会長と
リサ・グッドマンが苦い顔をしながら座っていました。
「トーナメントの決勝がいつ行われるかわからないとはいえ、こと今回に関しては早急な対策が必要だね……
すでに応援は要請済、すぐにでも準備を開始しよう」
「TRIALとしても放っておくわけにはいかないのん。
遺跡の調査用に幾人か精鋭を準備してあるわ」
「……そりゃ助かる」ケチュアは短くそう言うと、立ち上がり、窓の外を見ます。
そこには、巨大な遺跡が崩落している様子が見て取れました。
「あれだけ巨大な遺跡が崩れるほどの何か。絶対に何かが起きているはずだよ
調査隊の準備が完了し次第すぐに出発する。私が直接指揮させてもらうよ」
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――崩落した遺跡付近
崩落した遺跡の残骸が転がる場所にいたのは、白く長い髪を持つ少女でした。
ケチュアが近づくと、少女はそれを薄ぼんやりと見上げます。
「こんなところにいたら危ないよ、近くに……
ケチュアがそこまで言ったとき、少女がケチュアを突き飛ばしました。
そして、先ほどまで彼女がいた場所には、その体よりも大きな腕が振り下ろされていました。
「これはっ! 界霊!!?」
「動かないで頂けると、嬉しいです。すぐに、終わりますから」
誰かが動き出すよりも早く、界霊の前にセラフィは立っていました。
そして、どこから出したのか巨大な剣を構えると、
「ーーーーーーッ!!!!!」
界霊を真っ二つに切り裂きました。
「……アンタ、いったい何者だい?」
「私……私はセラフィ」
斬られた界霊が消滅していく中、ケチュアはそう問いかけましたが、
少女から帰ってきた返答は名前のみ。
「お~いおいおい。こんなとこにいたのかよ旧文明の小娘」
そこに現れたのは、白いスーツに白いステッキ、白いハットを被った男。
「俺がちょっと目を離した間にどっかいきやがって。これだから知識が伴わない旧文明の遺産はヤなんだ」
男は一人でぺらぺらとしゃべると、スーツのポケットから小型のヘッドギアのようなものを取り出します。
そしてそれを指先で回しながら、セラフィの方へと近づいてきました。
「誰ですか?」
警戒するセラフィをよそに、男はへらへらした様子で口を開きます。
「俺はヴィト。よろしく」
そして手に持ったヘッドギアをセラフィへと被せようと両手を挙げます。
その手をセラフィが払いました。
「おいおい。せっかく俺がつけてやろうってんだぞ?」
「知らない人から物をもらうなと言われているので」
「また変なのが出てきたね……あんた誰だい?」
ヴィトの呟きに対し、セラフィとケチュアがそれぞれ反応しましたが、
ヴィトはそれに答えることなく、地面に落ちたヘッドギアを拾い、砂を払いました。
「あー、うぜぇうぜぇ。
協会のババアと旧文明の小娘ごときがよぉ……」
ヴィトと名乗った男は懐から手帳大の機械を取り出すと、それを何もない空間に向かって操作しました。
「……てめぇら特異者は俺らに管理されときゃいいんだよ!!」
ヴィトがそう叫ぶと、彼が機械を向けた方向、何もない空が広がっていたその場所が“裂けました”。
そしてその空間からは先程と同じような界霊が姿を露わしたのです。
界霊が現れ、セラフィが武器を構えるまでのほんの一瞬。
ほんのわずかに気がそれる瞬間に、ヴィトはセラフィの背後へと回り込み、彼女の頭に先程のヘッドギアを被せました。
「う……うぁあ……うぁああああああああ!!」
「へいへいへい。いい感じじゃねぇの。さすが俺が作った装置」
ヴィトは興奮し、セラフィはヘッドギアをつけられた瞬間から叫び、苦しみ始めます。
そして苦しんでいるセラフィにケチュアが近づこうとしたとき。
少女の背後に、赤い巨大な界霊が立っていました。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
現れた界霊は叫び声をあげながら徐々に大きさを増していき、そして驚くことに、
界霊が大きくなるのと共に、いくつもの空にのひずみが起こり、さらに複数の界霊が姿を現しました。
「さてお前たち、このままじゃこの世界だけじゃなくて、三千界全体が危ういぜ?
そんなお前たちに、俺からの特大ヒントだ。
すべての原因はコイツ、この小娘だ。
コイツはある旧文明の遺産でな。研究の一環として生み出された“界霊を寄生させられたパラサイト”なんだ。
俺の研究のサンプルになると思って捕まえに来たが、とんだ無駄足だ。
寄生している界霊だけはいっちょ前みたいだが、操り切れていないんじゃ話にならん。
おまけに俺の管理外の界霊まで呼び出しやがって」
「まぁいいさ」ヴィトはそう前置きすると、両手を広げ笑みを浮かべます。
「こんな状況も面白い。さぁ、お前たちの手で“界霊を呼び出す界霊”を倒してみるんだな!
それが無理でもせいぜい時間稼ぎぐらいはしてくれよ?」