ワールド・ホライゾン。
マーケットの路地裏で
猫が死んでいたのは真夏日の事でした。
「サンディを異次元に飛ばしたのが堪えてたのか。
……おい、さんぜんかい いきたねこの墓作るから手伝ってくれ!」
マーケットの主である
境屋はさして悲しむ様子もなく、
ホライゾンの墓地に、さんぜんねこの墓を掘り始めました。
「人でなしに見えるか?
まあ、これが普通の人間だったら俺も悲しむさ。
だが、こいつはもう生まれ変わっているはずだ。
ホライゾンのどこかにいるから探してきてくれねえか?」
「わ、分かった。……だけど、ひとつ聞きたいことがあるんだ」
手伝っていた特異者の一人が、耐えられない様子で口を開きました。
「生まれ変わったってことはさ、三千回生きたじゃなくて……」
言いかけた所で境屋が口を挟みました。
「それは答えられれねえな。
口で言うのは簡単だが、あいつなりのポリシーもあるんだ。
直接会って聞いてみてくれ」
その後、特異者たちの調査で、さんぜんねこは、ホライゾン庁舎から離れた地区、
通称
“ためらい街”にいることが分かりました。
この地区は特異者としてホライゾンに来たものの、
三千界の調査を恐れている者が多く集まっている地区で、
特異者の増えてきた現在、あまり治安も良くありません。
生まれ変わったばかりのさんぜんねこは子猫で、
早く探さないと再び死んでしまう可能性もあるのです。
* * *
その頃、庁舎では紫藤明夜とクロニカ・グローリーがモニターを、
真剣な面持ちで見ていました。
「界霊……それもこのサイズは……」
「ええ。ホライゾンが呑み込まれかねません」
モニターにはホライゾンを覆いつくそうとする暗黒の霧が映っていました。
二人が界霊と呼んでいるのはこの霧のことです。
「本来ならこんな場所に出るはずがない。
三千界の乱れが原因とでも言うの?
……至急迎撃態勢を整えましょう」
明夜はホライゾンにいる特異者たちに緊急出動を要請しました。
場所は、ホライゾンの先端部にあたる
狭間の岬。
そこで迫ってくる界霊を撃退するというのです。
そこには普段はホライゾンの森から出てこない
ヴォーパルもいます。
「界霊は特異者でなくては撃退できないけど
なりたての特異者は逆に界霊にジャックされる可能性もあるわ。
避難の準備もしておかないと……」
明夜は来たばかりの特異者たちを
シェルターに避難させる準備も行うことになりました。
しかし、界霊の力の影響で、すでに一部の特異者が暴れ出していたのです。
* * *
ためらいの街で。
「ミャあ。……早く行かないと危ないミャ」
小さなさんぜんねこは焦っていましたが、その歩みはゆっくりとしていました。