そこは、つい最近発見された小さな小さな世界です。
ドラゴンとドワーフが共存する、一年中雪に覆われたその世界の名はユヴェーレニア。
大きな山脈と、沢山の小さな鉱山に囲まれた村で彼らは仲良く生活していました。
ドワーフが毎日のように鉱山へ出向いて鉱石の発掘に勤しみ、時たま現れる害獣をドラゴンが退治する。そうやってお互いの信頼関係を保っていました。
ユヴェーレニアが生まれて少ししてから、ドラゴンの長はドワーフに言います。
「ドワーフよ、どうか聞いて欲しい。我々ドラゴンが死んだら、その亡骸を鉱山に囲まれた平地に埋め、墓標を立てて欲しいのだ」
「墓標、ですか?」
「ただ戦い、ただ死んでいく。それはあまりにも寂しい。我々は戦士としても、お前達の友としても名を残したい。死んだドラゴンの名を刻んだ墓標を立てて欲しいのだ。そして時々死んだ仲間の事も思い出して欲しい。材質は問わない、どんな作りでもいい。頼めるか?」
ドラゴンからの珍しい頼み事に、ドワーフ達は胸を叩いて応えました。
「お任せ下さい! 貴方達の戦士としての誇りは私達が守りましょう。墓標は特別な宝石で作ります。貴方達の働きに相応しい、燃える火のように煌めく朱い宝石で……」
◆◇◆
それは、ドワーフが見付けたユヴェーレニアの謎のひとつです。
大昔、一人のドワーフがユヴェーレニア大山脈で仕事をしていたところ、不思議な模様が刻印された鉄の扉を発見します。
その扉は長い間固く閉ざされていました。
しかしある時、別のドワーフがその扉に何度か開かれた形跡を見付けます。
「私の祖父も知らないと言うが、確かに開かれた形跡はある」
「しかし、今は開けられない。鍵も無いのに固く閉ざされているのだ。開いたら何か悪い事が起きるのでは?」
「ふむ……」
ドワーフは扉の事を気にしつつ、しかし触れる事は無く日々の生活に明け暮れていました。
ドワーフとドラゴンは非常に仲が良かったため、自分達が発見したものでドラゴンに迷惑をかける事を恐れました。だから、なるべく扉には触れないようにしていたのです。
◆◇◆
ワールドホライゾンでユヴェーレニアの存在が明らかになってから、数日後の事です。
ユヴェーレニアに住む老ドラゴン・ウォリアーから“ある依頼”が届きました。
「大盗賊エルダーの蛮行を止めて欲しいのだ」
大盗賊エルダー、それはいつしかユヴェーレニアに現れた謎の人物です。
突然どこかの世界から、娘と共にユヴェーレニアに飛ばされたとエルダーは話したそうですが、それも本当の事か分かりません。
「彼が現れたあの日、エルダーとその娘は我々と友になった。彼は貧しかったが、心優しい神父だった。安物のカソックに身を包み弱い者に寄り添う彼が、我々は大好きだった。しかし、私の娘のせいでエルダーは狂ってしまった」
その日、エルダーとその娘・ビアンカはドラゴンの住処へ案内されたそうです。
「丁度その日、私の妻が産気づいていた。そして悲劇は起こった」
なんと、ビアンカは生まれたてのドラゴン……ウォリアーの妻の出産を目撃し、生まれたばかりで混乱状態にあったウォリアーの娘に食い殺されてしまったのです。
「この世界のドラゴンは、唯一気性が荒くなる瞬間がある。それがこの世界に生まれた時なのだ。……とんでもない事をしてしまったと後悔している」
娘の亡骸を見たエルダーは発狂し、そして次第におかしくなって行ってしまったのです。
ユヴェーレニアを訪れた事を後悔し、酒に溺れ、いつしか現実逃避のために悪事に手を染める様になりました。
「盗賊となったエルダーは、ドワーフが発掘した鉱石や必死に磨き上げ作り出した宝石を盗むようになった。その行為もどんどん酷さを増して行った。今では、手下を使って我々一族の子どもドラゴンを捕らえ、殺し、そして貴重な資材として各世界へ売り飛ばすような事を始めた」
ウォリアーは大きな身体を窄め、頭を可能な限り低くして特異者達に懇願しました。
「エルダーを止めてくれ。これ以上あの男が壊れないように、少しでもあの男の名誉が守られるように――――」