「くそっ……どうしてこんな事になっちまったんだ」
相馬 良樹は小さく息を吐き、手持ちの銃に弾薬を込めました。
「そんなのウウェちゃんには分かんない☆ けど、アイツら倒さないとどうしようもないだろうがよ」
良樹と同じく弾薬を込めたのはウウェ・ユレです。二人は互いに背中を合わせて周囲を見回しています。
これだけ見れば大変シリアスなシーンなのですが、あろうことかどちらも水着姿をしており大変バカンスらしい恰好をしていました。
「ねえ、ヨッシー……ウウェちゃん達はバカンスに来たんだよね? 遊ぶって言ったよね?」
「あー、ほら。バカンスらしい恰好しているだろ?」
「ふざけんな!! こんな場所じゃウウェちゃんの可愛い水着も目立たないだろうが!?」
彼らの周辺にはボロボロになった家屋が建ち並び、周囲は森に覆われていました。どうみてもバカンスを過ごすのに適した場所ではありません。
そして、そこかしこから不気味な呻き声が聞こえてくる始末。ただの獣であったらどれほど良かったか。そしてどうしてこうなってしまったのか。
良樹はため息を零し、この街にやってきた経緯を思い返しました。
◇◆◇
「は? 特異者に目覚めた記念に旅行?」
「そゆこと☆ ウウェちゃんがバッチリ目覚めちゃったので祝えって感じ。連れていけどっかに、連れていかないと泣きわめくぞ。良いのか全力で駄々をこねるぞ」
ウウェは元々特異者ではなくバイナリアに住んでいたエージェントでした。しかし戦いを経ているうちに特異者として覚醒したのです。
それを祝って欲しいと良樹にお願い――もとい脅しを掛けているところでした。
「構わないけど……シャングリラにでも行ってみるか? 俺の妹が最近就職したんだ、様子も見に行きたいしな」
「良いね。シャングリラってでっかいロボットいるとこでしょ? それにヨッシーの妹が居る所って暑いとこっぽいし水浴びもできるよね? ッシャア!! 水着を持っていこいこ~!!」
そうして二人はワールドホライゾンを経由し、シャングリラの地方領・コーデリア領を目指すことにしました。
準備をしてウキウキでシャングリラへと降り立ち、コーデリア領行きの乗り合いスタンドガレオンを探そうとしていたその時――彼らは見知らぬ扉に吸い込まれてしまいました。
目映い光、荒れ狂う風。身を揉まれながら辿り着いたのはシャングリラの街並みとよく似ている場所です。
「えっ、ヨッシーはやくね? もうコーデリア領着いた感じ?」
「いや……こんな扉一つで移動できるような場所じゃないんだが」
二人が首を傾げていると、そこに飛び込んで来たのは水着姿の男です。男は慌てふためいた様子で武器を構えながらも、二人に向かって声を上げました。
「アンタ達、もしかして扉から来たんか!? 助けてくれ、今この街にゾンビが押し入ってきて大変なんだ!!」
「ゾンビって……あの?」
「わぁお、到着早々にはちゃめちゃバイオレンス☆」
「そうとも、普段より数が多くて大変なんだ――っと来たぞ、ゾンビだ!!」
三人の前に現れたゾンビ――は人の形をしておらず、水棲生物であるサメそのものでした。
動く度に腐り落ちた肉がこぼれ、シュウシュウと不気味な音を立てて宙を浮遊しています。
「サメのゾンビ……? サメのゾンビってなに!? てか浮いてるんだけど!?」
「アンタたちサメを知らんのか!? さあ早く武器を取ってくれ!! そして水着に着替えてくれ!!」
「いやサメは知ってるけどなんで水着!?」
「あいつらは水着姿のやつを狙ってくるんだ!! そいつを上手く使ってヤツらを仕留めて――っ来るぞ!!」
初老の男が声を上げるのと同時に、良樹とウウェは慌てて武器を構えました。
すると、潜り抜けた扉が目映い光を放ちます。
そんな扉から出てきたのは特異者――いえ、この地に倣うのであれば『シャークハンター』である貴方たち(水着姿)です。