※※本シナリオはMC参加ポイント「200ポイント」のプライベートスペシャルシナリオです。※※
ローランドのある辺境の地。
「放浪者よ。行くのか?」
「はい。出かけようと思います」
「そうか……」
「鱗の君、麗しき貴女よ。私が居なくなると寂しくなるようになったのですか?」
「……リーラレストよ」
「その名前で呼ばないでください」
「……」
「すみません。レジストに呼び出されたのが思ったより不快だったみたいです。貴女に当たるつもりはありませんでした」
「もう日が暮れる。夜は一層と魔物が徘徊しているぞ? 最近は……」
「そうですね。最近は山賊がこのあたりに出没していると聞いています。道中出くわせば厄介でしょう」
「日の出を待って……出立は遅らせられぬか?」
「至急と届いていますからそれはできません。それに私より鱗の君よ、貴女自身の事をまずは考えなさい。山賊が徘徊しているのです。村が襲われるのも時間の問題でしょう」
「何者がいつ来ようが対応は変わらぬよ。知っていよう? 小細工は苦手じゃ」
「そうですか。気は保てますかと案じてあげられない私を許してください」
「心にもないことを言うでない。ただな? これも実験ならば任せよ。おまえとのあの約束の日とは、まこと昨日の事のようで……忘れようもないのだ。おまえが見届けてくれるなら……好きに全うできようぞ」
それが数日前に交わされた彼と彼女の会話でした。
…※…※…※…
ローランドに幾つ在る教会のひとつ。
夜が明けてしばらく経ちますが教会内はまだまだ慌ただしいものでした。
人員の確認と指示があちらやこちらで間断なく飛び交っています。
騒がしいのは、魔物絡みの事件が別々の場所でほぼ同時に発生したからです。
始まりは夜中のことだったようです。
ひとつは。発見は行商の者で、早馬が辺境の地に魔物とゾンビの群れが出現したのを報せてきました。
ひとつは。発見も報せもある貴族の主人からのものでした。
ふたつの事件は関連性は全くありませんが、偶然であるにしても同時に多発したことで教会の対応はとにかく人員を掻き集めることから始まったのです。
時間はもうすぐ正午になろうかという頃にやっと教会の要請を請けた冒険者達は、それぞれの現場に到着することでしょう。
…※…※…※…
ローランドのある貴族の屋敷、離れ。
「リーラちゃん。こんな所に居たの。至急ってお願いしたじゃない? おかげで孵化しちゃったわよ。で、なんで足枷つけて地下牢になんか押し込められているの?」
「レジスト……それはすみませんでした。孵化したといいますが、貴方の蟲でしょう? 回収しないのですか? 私は、……山賊に捕まって即日売り飛ばされたんです」
「どこの馬の骨かわかんない女の体(はら)から生まれた子なんて愛せないわー。口に入れるなんていやーよ。 ……奴隷として売られるなんて傑作だわ。リーラちゃんの見かけはただの人間だものね。昔からよく間違われるの、毎回笑えるわ。それよか逃げればいいじゃない」
「……大型の魔物が多くの動く屍と共に出現したという噂を耳にしました」
「あらま話をはぐらかす。そうよ、辺境で大きめの魔物が大量のゾンビと一緒に出たみたい。屋敷(ここ)とその魔物の対応で教会はしっちゃかめっちゃか……なあに、焦ってるの?」
「……、見届けると約束を、して……まして」
「あらま関係者なの。もしかしなくても実験中? でもリーラちゃんは逃げる気ないんでしょ?」
「……奴隷に身をやつしてしまって身動きが取れません」
「天下の魔人様は人間の奴隷になっちゃったから逃げることもできないんですって、わざとらしすぎて聞いて呆れるわ。下手な言い訳ね。困ってないなら助けないわよ? それに仮に助けるとしても先にあたしの用事を片付けてからね? 協力しなさいな?」
「……レジスト。私は――」
「ああ、なるほど。わかったわ? その魔物がリーラちゃんの言ってた鱗の君ね? ――そう、
『人族を集めて生ける屍に変えて自分の楽園を造ってる』っていう例の竜族の雌!」
「……レジスト」
「なのに逃げないの! 約束までして? ええ、いいわ。気が変わった。任せて? 薄情なリーラちゃんに代わって、あたしが様子を見に行ってあげる」
「レジスト」
「大丈夫よ。リーラちゃんの実験場だものね? 悪いようにはしないわ」
「レジスト」
「ただの魔人風情が、お黙りなさいな」
「……」
「あたしのお願いを蹴ったのはリーラちゃんよ? どっちにしろ獣に堕ちたんだから手遅れ。何もかも手遅れ! だから、 ――あとはわかるわよねぇ?」
「…………ッ!」
利害の一致はされずに、こうして彼は彼と別行動となりました。