★ ニブノス
ニブノスでは統治機構改革案が承認され、過半数に到達しなければ1位2位の決選投票になる大統領選挙、各小惑星単位の大選挙区で争われる連邦議会選挙が行われようとしています。
その主要アクターの一人、ニブノス平等党党首
ディーハルトは側近を集めて尋ねました。
「今度の総選挙はたして、大統領選挙に出るべきだろうか? 勝ち筋は第一回投票で2位につけて、2位3位連合で上回るときだが、正直な所勝算が薄い。負けてしまえばただの人だ。評議員でも連邦議会代議士でもなくなる。それで党内を治め得るだろうか?」
「出ないとなれば、どちらかの陣営に恩を売って副大統領か、連邦議員選挙出馬ですね、アリの選択肢だとは思いますが……」
ディーハルトは評議員としてニブノス政界に関わってきたゆえに、交渉による決定により評価を置きがちでした。
「やはり執行権力と中央軍の指揮権は大きいです。やはり大統領をとりにいくべきです」
首長として平等党を支える幹部の一人は別の意見を言いました。
「まずは何にしても相手が持ってくる条件次第か」
側近の間でも意見が割れたことで、ディーハルトはひとまずそう言って場を収め、ニュースをつけて情勢を確認します。
ニュースは
クレソン・ナム派の連邦議員立候補者の顔を伝えています。クレソンの渾名にあやかった「ニブノス恒星党」はブレドム和平条約の承認を欠席して名前を売った評議員と、ニブノス政界において政治に縁遠かった女性を、各地で立候補させ連邦議会での勢力躍進が期待されていました。
ニブノスの将来を担う勢力を決める総選挙にて、それぞれのアクターはどのように戦いどのような結果を生むのでしょうか。
★ ニブノス領、学園都市
「海賊がやってくる? ここに?」
報告を受けた学園長、
トスタノ・クニベルティは驚きの声をあげました。トスタノの驚きに対し、淡々と学園外洋警備を担当する
ロンバルト・コッペルは言いました。
「はい、98戦役時に連邦政府は海賊にブレドムの通商路破壊を依頼しており、その謝礼として、戦後に海賊に拠点を提供するという約束を交わしていたそうですが、戦争終結にともない、その約束を履行すべく、この星を接収するという通達が海賊団の連名で来ました」
「冗談じゃない。ここは僕が借金して、みんなで切り拓いて作った星だ。海賊に渡せるかよ!どっかよそにいけよ」
「なにしろ、ここは博打と女とお宝という海賊好みの詰まった都市ですからねぇ……既に市内に偵察部隊が武器を持って入っているらしいです」
「お宝ってのは、ここのロステクのことかい?」
「なんでも、伝説的海賊がここらの宙域に昔、しばらく使わないロステクを隠したとかなんとかいう噂が流れているようで、画期的なエンジンがあるらしいですよ?」
「あったらとっくに見つけてるよ。迷惑な噂だなぁ。それで連邦軍には通報したんだろ? 出動してくれるんだろうね?」
「連絡はしたのですが、どうもここらを管轄する東辺艦隊の歯切れがわるいですね。約束自体は有効だそうですし、有力海賊の中には巡航艦クラスの船を持っているものもいます。関わって怪我したくはないようです」
「ああもう!僕からも中央に動くよう言っておく! あと学長権限での都市内外の警戒レベルを最大まで引き上げて!各地から引き抜ける戦力は全部任せるから、なんとかしてよ」
はたして、学園都市は迫りくる危機を乗り切れるでしょうか?
想定される海賊団戦力(最大値)
巡航艦 2~3隻
駆逐艦 10隻前後
フリゲート 20~30隻
★ブレドム
「大変なことになりましたよこれは……」
エリノス=ブレドム連邦王国総理大臣
クラウス・和賀は、国内の著しい動揺に頭を抱えたい気分でした。
というのも、テロリスト、
レフ・ダヴィド率いるテロ組織「オリョール」がテラフォーミング期の隕石破壊反射衛星砲<インドラの矢>を占拠し、稼働状態に持っていったためです。
「ディアウスの諸君に告げる。これが最終決戦だ。ボクはキミたちの魂の輝きを見てみたい。ボクが放つ破壊の光と、どちらが眩しいか、ここで決着をつけようじゃないか」
レフはブレドム全土にそう放送し、結果としてディヤウス市民は<インドラの矢>によって焼き尽くされる恐怖に怯え、あるいは逃走を図り、あるいはシェルターへと避難しようとし、あるいは暴徒となって人もまばらな市街を略奪しようとしていました。
ただ、
苺炎・クロイツの作り上げたネットワークにより、ジャヴァーリ周辺は比較的混乱は少なく済んでいます。
摂政
マハル・エリノスは、苦悩の表情を浮かべる和賀に向かい、静かに告げました。
「あなたはブレドム首相として、成すべきことを成しなさい。私は、摂政として成すべきことを成します。私はこのジャヴァーリ王宮に残り、市民を鼓舞します。賊の悪意などに、決して屈したりしないことを示すためにね」
「しかしそれではエリノス王室が!」
和賀は狼狽しますが、マハルは温かみのこもった優しい声で言葉を継ぎます。
「貴方たちは幾度もの国難を乗り越えてきました。この国難も、貴方たちの力で克服できると、私は信じています」
「……はい、摂政殿下、仰せのままに」
和賀の顔に気力が戻ります。彼はこの国を、争いのない平和で豊かな国へとする理想を抱いていました。時に挫けそうになりながらも、彼はそれを乗り越え、政治家として一回り成長していたのです。
「具体案は統合参謀会議で図ります。オリョールは確実に討伐してみせます」
はっきりとした決意のこもった言葉に、マハルは満足そうに告げました。
「よしなに」
マハルの頷きを受け、和賀は摂政公室を退室しました。
和賀の退出後、マハルはひとり、窓から見えるジャヴァーリの空を見上げて呟きました。
「私は、もう大事なものを何一つ失うつもりはないわ――私自身も含めて」
★ラジェンドラの処遇
「で、私をどうするつもりだね、列公会議議長、ケセルリア大公、
ヘルムート・ラスドア」
ジャヴァーリ監獄の面会室で、
アラディブ・ラジェンドラ――前憂国士官会総帥にして、<インドラの矢>の爆破キーを持っている男は、目前の老人に問いただしました。
「私に恩赦を下せば、いつだってキーは渡す。だが、特殊尋問では私は口を割らんぞ。できる限り抵抗して、オリョールとやらに時間を稼がせてやる。無駄な時間を使っていていいのか?」
ラジェンドラの煽りに対して、ラスドア大公は深く沈思黙考していました。
やがて、彼が口を開きます。
「勅命でない限り恩赦はできぬ。マハル摂政殿下に図らねばならん」
「はっ、貴様も時間稼ぎか! 言ったろう、時間はないと! 手続き論にこだわっている場合か!」
それでも、ラスドア大公はラジェンドラに背を向け、立ち去っていきます。
そして彼は呟きました。
「判っている。ブラフかもしれないとはいえ、奴の取引に乗ればより有利になる可能性はあることを。だが――」
彼の胸にを様々な感情が去来します。矜持と実益、憎悪と理性。それらの相克に、彼はまだ答えが出せずにいました。
★外交戦
「くそっ、ニブノスとのFTA協定前にこんな事件なんて、ついてないなぁ」
エリノス=ブレドム連邦王国外務大臣、
烏丸 秀はぼやきました。アレイダ切っての外交官として知られる彼も、狂気のテロリスト相手には自らが何事もなしえないことを理解していました。
「まぁ仕方ない、内々のこととしてとっとと済ましてもらおう。外交はそれが片付いてからじっくりやればいいさ」
彼は、彼の戦場で戦う気でいました。
★苦悩する大連立政権
「<エキドナ機関>アルか……ライアーめ、こんな面倒くさいものを作り上げるとはネ」
エリノス=ブレドム連邦王国内務大臣、
ジャック・リーは呟きました。王政社会党の大物、厚生大臣
焔生 たまが
イレーネ・シェーンブルグSS少将と組んで作り上げた、非合法の巨大変異種研究機関は、ブレドムの枢要部に食い込んだ巨大な爆弾でした。
「断固叩き潰しましょう!」
厚生庁長官、
信貴・ターナーが腕力家らしい意見を示します。
リーは髭をひねり、考え込みました。リスクとリターンを天秤にかけているのです。
ですが、やはりまだ結論は出ませんでした。
★エキドナ機関
「内務省に嗅ぎつけられるとは失態ですね。だけど、今更排除できるものでしょうか」
アルカイックな笑みを浮かべ、たまは呟きました。傍らの裸体のイレーネが答えます。
「ロルフ大公殿下次第だ。あのお方は潔癖だから、事が完全に露見すると私も君も失脚する。防諜措置を万全に取らねば。私は本国に返り、機関のことが耳に入らないよう、大公殿下の周辺で工作する」
「それは素敵な提案です。では、あなたが帰る前に、精一杯愛し合いましょう」
たまはイレーネを押し倒し、ベッドの中へともつれ込みました。
★棄民船団
「この<ラストオーダー>、移民船とはいえ多少の攻防力は持っておる。それも近地球圏技術のな、ブレドムずれの三流宇宙艦隊に負ける気などせんわ」
カカカ、と艦橋で大笑しながら、
ゲルハルト・ライガーはうそぶきます。彼の持つ棄民船団は10万人級移民船100隻、殆どは非武装船ですが、10隻ほどの艦は近地球圏技術の駆逐艦並の武装をしており、それぞれ1隻あたりがブレドムのフリゲート10隻に匹敵します。さらには、旗艦<ラストオーダー>は、航海中のチューンにより、ブレドムが誇る旗艦戦艦<ラクシュミー>と同等の火力と射程と性能を保持しています。
「それに我々は1千万の強制移民を抱えている。ブレドムずれが、この人質を抱えた我々に勝てるかな? ンン?」
ライガーの脳裏には、勝利のヴィジョンが、そして漫然と生きている者たちが焼き払われる情景が、くっきりと見えていました。それに陶酔したように、ライガーは両手を上げ、誰ともなしに告げます。
「今こそヒトの魂の解放を、業火によって成し遂げん! 愚者共よ、三界すべて火宅と知るべし!」
その後に続く哄笑は、広い艦橋内に響き渡りました。
※棄民船団「ラストオーダー」のほとんどは単なる強制移民です。冷凍睡眠状態に置かれているため、反抗ができない状態です。
ただ、旗艦「ラストオーダー」に船団運行機能が集約されているため、少人数での船団掌握が可能となっています。
★しあわせのカタチ
そして、当のレフはと言うと、
エルミリア・ライガーと、ゲームで遊んでいました。
「やっぱりレフは強いね?」
ゲルハルトが作った「世界征服ゲーム」は、前宇宙時代の地球を統一するというものです。
「こんなちいさな惑星の上でも無数の人々が争っていたんだもの、クレギオンの幸せなんて、やっぱりそれぞれの持つ時間の中にしかないのかなぁ」
エルミリアがそう呟くと、レフは透明な笑みを浮かべました。
「ボクは――君に会えて、一緒の時を過ごして、初めて”分かち合う幸せ”を知ったよ」
意外な言葉にエルミリアは顔を赤くします。
しかし、レフはこう言葉を継ぎました。
「だけど、それでも許せないモノはある。許せないヒトがいる。だから、ボクは最後まで戦う」
レフの、いつになく真剣な表情に、エルミリアは驚きます。
そして、レフはいつになく不安そうに問いました。
「君は、最後までついてきてくれるかい?」
その答えは、熱烈な抱擁でした。