※※本シナリオはMC参加ポイント「200ポイント」のプライベートスペシャルシナリオです。※※
ローランド。プリシラ公国のはずれの街。
そのエヴィアンのあるひとつの田舎町はここ十数年、街の名物と呼ばれるような天候現象がありました。
「ほら『落歌の雨』だよ」
今夜の宿を求める年若い観光客を街の女が引き止めます。
“それ”はすぐに聞こえてきました。
不思議なことに空から歌声が聞こえてきます。そして、その声に続くように雨が降ってきました。
雨宿りしていきなと戸惑う観光客に女は自分の家へと招きます。
女が言うには、もう十数年この現象が続いているそうです。
そして、歌声が終われば、自然と雨もやむのでした。
…※…※…※…
異変は、ひとりの男が死んでから起こりました。
いつものように空から歌声が響き渡り、そして、止まらなくなったのです。
当然とばかりに歌声と共に降り出した雨も止むことがありません。
しかも歌も雨もまるで叫び声のような激しさでした。
川の水位よりほんの少し高い位置にあった道は家屋と共に半日もせずに流され、街の道は殆ど失われています。
翼があるから良い、という話ではありません。
ずっとずっと雨が止まないのです。水辺で住み良い場所となれば水捌けもほどよく機能していたでしょう。それも連日連夜の豪雨にどう太刀打ちできたでしょうか?
下流側の被害はどれくらいでしょうか?
避難に遅れ、木々にしがみつくように雨風を凌ぐ街の人々は冷えて軋む翼を広げる気力もありません。ただ観光に訪れただけの他種族の者達もいつまでも体力が続くものではありません。
近隣より水難救急救助の要請は各所に伝わっているでしょうが、激しくも冷たい雨に慈悲はありませんでした。
…※…
「おい、あんた、助けてくれ!」
居ても立ってもいられずひとりで洪水の中を水を掻き分け歩く相手にエヴィアンの若い男が縋り付きます。
「頼むよ、助けてくれ。親父が連れてかれた! 次は俺の番なんだ!」
酒に溺れて勝手に喧嘩をふっかけ勝手に死んだ父親は自業自得だが、自分までも同じ運命は辿りたくないと青年はわめきますが、助けを求めた手は乱暴に振りほどかれました。
誰も彼も死にたくはないでしょう。
ゆえに、
「頼むよ、助けてくれよぉ。母さんを殺したのは親父で俺じゃないんだ……頼むよ、助けてくれよぉ」
青年の声は雨風にかき消されるほどに弱々しく虚しいものでした。
ひとり逃げ出すことに気後れした相手が振り返った時には青年の姿はそこにはありませんでした。
遠く遠く水に流されていくのを見送るしかなかったのです。