――西部海岸地帯。
次元嵐を引き裂いて、牡牛型鋼獣
イドル・グガランナが浜辺に到着しました。
イドル・グガランナのコックピットから出てきたのは、黒いドレスを纏い、腰に剣を吊るした女性です。
潮風に金色の髪を靡かせるこの女性の正体は、
オーガスタ・ルゥナライズ。前回、ZP01のイルミンスールから情報を送り付けてきた人です。
「ここがゼルカディアバース第二の世界、【ヒュペルボレア】か。
結界すら張られていないとは不用心な。これでは他の世界から侵入し放題ではないか」
「文明もそれほどには発展していませんね。ほぼ原始時代のようです」
「道場破りするぞ!」
「道場破り!? そこの現地住民さん、危険です! 離れて下さーい!!」
オーガスタの弟子である少年が見つめる先にいるのは、
夕季 イヴェットでした。
☆ ☆ ☆
夕季 イヴェットが創造炉で結晶刈りをしていると、突然、牡牛型鋼獣がヌッと現れました。
牡牛型鋼獣の頭部に乗っているのは、黒ドレスの女性です。
「たーのもー!」
「どなたですか!?」
いきなりの訪問者です。しかも相手は人間です。
かつてないほどびっくりするイヴェットに、黒ドレスの女性は胸を張って答えました。
「我が名は
オーガスタ・ルゥナライズ!
来たる脅威、第四世界【光の庭(リヒト・ガルテン)】との戦いに備え、我々第一世界【クロノ・ガード】は、第二世界【ヒュペルボレア】との同盟を望む!」
オーガスタ・ルゥナライズさんの発言に対し、イヴェットは混乱しました。
「ええ……? 第二世界? ヒュペルボレア? クロノ・ガード? 何を言っているのかちっとも分からないよぉ!」
雰囲気から察するに、【ヒュペルボレア】というのは、この楽園の名称のようです。名前が無いのは困るので、今後、【ヒュペルボレア】と呼ぶことになりそうです。
対して、【クロノ・ガード】というのは、
オーガスタ・ルゥナライズさんの出身地なのでしょう。
「まあ、同盟を結ぼうが対立しようが、我々は同じ道を行くのじゃがな。
見たところ、そちらには指揮官らしい者もいないようじゃ。ならば我々も適度に力を貸す程度に留めさせて貰おう」
「ちょっと待って、話を進めすぎ! お付き合いするならまずは友達からって言うじゃない!」
「そうじゃろうな、そうじゃろうな。お互いを理解するには、戦うのが一番じゃ」
「ええっ!? そうなの!?」
「鋼獣乗りは、鋼獣で勝負すべし!
――模擬戦の始まりだ! 乱戦形式で行くぞ! 準備が整ったらかかってくるがいい!」
「どうしてそうなるのぉぉぉぉぉぉ!?」
オーガスタさんはイヴェットの声に耳を傾けず、勝手に話を進めていきます。
オーガスタさんは、「ハーッハッハ!」と高笑いしました。
「おっと、報酬の話をしていなかったのう!
模擬戦に付き合って貰った場合、報酬を差し出そうではないか。我からの報酬は、ゼルカディアバース第四世界【光の庭(リヒト・ガルテン)】の情報だ。
……近い内に攻めてくる敵の情報ぐらい欲しいじゃろう? フフフ、さあ、かかってくるが良い!」
そんなわけで、【ヒュペルボレア】で奇妙な乱戦が始まったのでした。
果たして、特異者たちはこの乱戦で何を得られるのでしょうか。