「え、ええ?? えええ???
何これ? 何これ?? 何これ??」
ヘルヴェルは、今自分がいる場所が解らずに混乱していました。
見知らぬ部屋に一人立ち竦んでいると、突然勢いよく扉が開かれました。
「大変よ、フロージ!」
「ひえっ!?」
「魔剣でヘルタがヤバいのよ!」
飛び込んで来た女戦士にヘルヴェルは飛びあがって驚きましたが、彼女は構わずまくし立てます。
「は?」
「ああごめん、ちょっと慌ててたわ。つまりあんたの魔剣よ、フロージ」
女戦士はヘルヴェルをフロージと呼び、何の疑問も持たずに話しかけてきました。
「魔剣? ……でも私魔剣持ってない……」
そういえば、何処でなくしてしまったのか、渡されていた魔剣も持っていません。
「あんたが魔剣を壊したのは知ってるってば。
ヴァニルがヴェルンドに剣素の作り方を伝授してたのよ。魔剣の素が揃ったの。核になるのはグンドゥルよ」
「うん?」
「でもヘルタが、これ以上誰も魔剣にさせないって言ってヴェルンドを殺してしまったの」
「ひぇ?」
「まあ気持ちは解るからね、誰もヘルタを責めなかったけど……ていうかヘルタ生きてたのね!? びっくりしたわ。
自分の魔剣はどうする気なのかしらあの人」
「はぁ……?」
「それはともかく、ヴァニルがもういない以上その魔剣が最後になるわけよ。
あんたが貰うしかないでしょ!?」
「うぇぇ!?」
「……ん?
何かあんた様子が変ね。いつものカリスマとオーラはどうしたのよ」
「か、カリスマ!?」
「しっかりしてよ、リーダー。
んん? なぁに、そのチビドラゴン。妖精好きから乗り換えたの?」
ここに至って初めてヘルヴェルの様子に首を傾げた女戦士は、その肩に乗せているぷちドラに気付きました。
「へ?」
「あんたいつも『さっさとこの戦いを終わらせて今度は妖精達を集めたウハウハな国を作るんじゃあ!!!』とか滾ってたじゃないのよ」
「はあ!?」
「まあ今はそんなことはどうでもいいわ。
とにかく伝えたからね、さっさとグンドゥルのところに行きなさいよ。
ヘルタが邪魔してくるかもしれないけどあんたなら楽勝でしょ。
あたしは相手にならないからゲヴンの援護に行ってるわね!」
女戦士は言うだけ言って慌ただしく部屋を走り出て行きました。
「あっ……そ、そんなぁ」
口を挟む余地もなく再び一人取り残されたヘルヴェルは、呆然と立ち竦みます。
ふと窓の外を見て、そこに特異者達の姿を見つけ、窓から飛び出して助けを求めたのでした。
女戦士が胸の前に広げた両手の間を、刃の無い剣が浮いていました。
「消えろ、ザコども!」
刃は女戦士の纏うオーラから、幾本もの炎の鞭のように放たれ、闇の魔物達を次々と絡め取って滅して行きます。
「やれ、見事な手際よな、グローア」
「褒めてないで手伝えー!」
呑気に称えるゲヴンを振り返って、女戦士グローアが叫びました。
「ゲヴン様!」
呼び声にゲヴンは振り向きました。
彼女のもとに、二人のウルヴヘズナルの姉妹が駆け寄ります。
「フノス、ゲルセミ、何をしていやる。逃げよと申したであろ」
「嫌です! ゲヴン様が戦い続けるのに、私達だけ逃げろなんて」
「私達だって最後まで戦います!」
「これ以上の犠牲は無用よ」
「犠牲だなんて。私達はゲヴン様に心と名前を与えて貰って自分というものを得たんです。
皆ゲヴン様に感謝しています。逃げるなんてできません!」
「果てさせる為に与えたものではないわ」
頑固な姉妹に、ゲヴンは溜息を吐きました。
「……ぬしらの命はぬしらのものよな。好きにするがよかろ」
「まあいいじゃない、戦力は多い方がいいわ」
けろりと笑ってグローアが言いました。
「とにかく、奴を倒さないことには収まらないのよ。
今度こそ……エギスヒャルムのクソ野郎はこのあたしがぶっ潰してくれるわ!」
◇ ◇ ◇
ヘルヴェル達を過去に送った後、男は少し反省していました。
「寝起きでイライラしてて、何の説明もしないまま奴等を送り出しちまった……。
うーんしまった、折角力を使い果たしてまで過去に送るんだからあれもこれもやらせればよかった」
……反省していました。
ひとしきりぶつぶつと悪態をついた後で気を取り直し
「さて、あのガキ共がが戻ってくるとして……」
自分がそれまでにすべきことは、と暫く考えて、彼は深々と溜息を吐きました。
「魔剣だよな……とにかくアレを取りに行かないと。ああクソ、精核か……」
建物の外へ出て、そこに広がる森を見渡し、彼は再び深い溜息を吐きました。
「……死ぬほど面倒くせえ」
ウルヴヘズナル達が神殿と呼ぶ建物の中で男が覚醒したのと同時に、樹海を覆っていた魔力が消え失せていました。
「これも、あの侵入者達の仕業なのか?」
樹海のウルヴヘズナルを束ねる一族の長、ヘイズレクは、一族の者を全てアジトに戻すように命じました。
「人間どもが精核を目指すなら、地下に入って来るだろう。
精核のある場所に繋がる道は一本のみ、あとは迷うだけだ。
総勢で連中を阻め。地下に入って来たなら生き埋めにしろ」
その頃チビ達は、まさにその精核の場所に繋がる唯一の入口に入ろうとしていたのでした。