遡ること数十分。
グレート・ガーディアン特務隊並びに特異者達に対し、
オーガスタ・サンシールは作戦概要を説明しました。
「未来予測機関リミルスターに全ての情報を入力した結果、精度の高い未来が予測されました」
未来予測機関リミルスターは環境シミュレータです。入力情報が多ければ多いほど、未来を高精度で予測できます。
(※未来予測機関リミルスターの未来予測性能については、
こちらや
こちらなどをご参照ください)
「エクリプスはデザイアフレア、ヴォイド、時間の大鎌を投射してきます。
デザイアフレアは火星盾などで、ヴォイドはハーフヴォイドで、時間の大鎌は忘却の鋼の祝福で対処できるようです」
次いで、オーガスタは有翼フレアの件に触れました。
「トパーズ・ケイローンが引き連れていた有翼フレアは周囲のデザイアフレアと融合し、約100倍の数に増殖しています。
属性振動を扱うものが7体、通常のものが700体。計707体ですね。数は多いですが、C融合すれば問題は無いでしょう。
肝心要のトパーズ・ケイローンの正体ですが……」
これまでに得た文献などの情報を基にしてリミルスターが出力した予測情報は、驚くべきものでした。
オーガスタはそれを、特異者たちに伝えます。
「トパーズ・ケイローンは、分岐した未来において射手座の化身になる予定の存在です」
オーガスタは語りました。リミルスターによって整理された未来の情報を。
「不死性を持つ生物は、分岐した未来において、射手座の化身になる運命にあります。
元来、因果操作とは未来の一部を現在に出現させる技……いわば、未来にアクセスする技法なのです。
未来は常に分岐しています。しかし《未来アクセス》ならば、分岐した未来をも現在に出現させることが可能です」
将来的に、トパーズ・ケイローンは、射手座の化身《トパーズ・サジタリウス》になる予定だったのです。
デザイアフレアとはまた別の、宇宙に広がる光の道を見上げながら、オーガスタは真実を伝えました。
「射手座の力の副次効果《未来アクセス》は、ケイローンの手によって解放されました。
これにより、あなたたちは射手座の力を使うことが可能になりました。
射手座の力を使う条件は……
光道12宮の力を持っていない契約者たちです。
光道12宮の力を持っていない契約者たちだけが、射手座の力を使うことが出来るのです」
時は現在に戻ります。
惑星ゼルカディア各地にデザイアフレアが降り注ぐ中、オーガスタ大統領は指示を出しました。
「グレート・ガーディアン特務隊には各地に散らばって頂き、デザイアフレアを処理して貰います。全盛期の力を失っている貴方たちにこのような指示を出すのは不本意ですが、よろしくお願いします」
「了解」
24名から成る特務隊は飛散したデザイアフレアを処理すべく、各地に散らばりました。
オーガスタは特異者達に向き直り、こう言いました。
「なぜ特務隊を越神の太陽に向かわせないのか、疑問に感じているようですね。
あなたたちに見せておきたいものがあります」
リミルスターを通じて、予測された未来の映像が現在に映し出されました。
■予測された未来
気づくとそこは火災現場でした。
消防士は水を撒いて火を消し、子供たちを助け出していきます。
けれども、親は失われました。親も友人も家もみーんな失われました。
全部全部、失ってしまいました。
生きている限り、ずっとこんな悲しみが続く。
どうしてこの世に生まれてきたのだろう。
救い出された子供たちの心は獣のように荒み、機械のように何も感じなくなりました。
困り果てた消防士は、よその人たちに力を借りました。
子供たちの新しい親になって貰い、育てて貰うことにしたのです。
親と子が縁を結んでいる限り、火の壁が現れて親と子を火から守ってくれます。
ある人は子供の希望を聞いて学校に通わせ、無事に成人させました。
ある人は子供の希望を聞いて消防士として育て上げ、他の人たちと一緒に火を消して回りました。
ある人は子供を火の中に捨てました。
色々な形がありました。
ここは孤児院。心を獣と機械に変えてしまった子供が住む場所。
ここは火の海。決して逃れられない火に閉ざされた部屋。
「これがぼくらの太陽系」
「ぼくらがすんでいるのは」
「火の中なんだ」
「一生消えない」
「火の中なんだ」
「燃やしたのは誰」
「人間」
「人間がこの世を燃やした」
「この世は火」
「火はばらまかれた」
「火は見えない」
「安全な場所などない」
「どこに行っても」
「破滅と共存するしかない」
人の形をした白い影が二つ、炎の中に舞い踊っては煽り立てます。
トパーズ・ケイローンはゆっくりと腕を振って、風景をかき消しました。
「私に精神攻撃は効きませんよ」
気づくとそこは草原でした。
草原は夕暮れに苛まれていました。
いつ終わるとも知れない黄昏を前にして、トパーズ・ケイローンは不死性を越神の太陽に送りました。
「私は射手座の化身の役割を果たしました。私の不死をあなたたちに差し上げましょう。
どうか、これで選択し直して頂けないでしょうか」
トパーズ・ケイローンの周囲に、人の形をした白い影が二つ、舞い踊ります。
「贖罪だ」
「生まれてきた罪への」
「贖罪だ」
「きみら人間はいいよね」
「12の試練を越えれば、生まれてきた罪を購えるんだもの」
「試練が苦しければ苦しいほど」
「この世に生まれてきた罪を購える」
「否定はしませんが、肯定もしかねます。
あなたたちに幾つかお聞きしたいことがあります。
光を12個に分割して惑星ゼルカディアに放ったのは、あなたたちということでよろしいのでしょうか」
「そうだよ」
「どうしてなのでしょうか? よろしければ、理由をお聞かせ下さい」
「人の世を滅亡させるためさ」
「選ばれた人間だけが力を手にする」
「そんな仕組みがあれば」
「人は必ず疑心暗鬼に陥る」
「人は他者を巻き込んで自滅していく」
「全ては、人の世に苦しみを与えて滅ぼすためさ」
「光を12個に分けたのは、それが人を滅ぼすのに最適な数だったから」
「人間が同時に協力できるのは4人が限界」
「それ以上の人数が集まれば協力できなくなる」
「その3倍なら」
「必ず誰かが暴走する」
「3つの集団の間で多数決が発生し、互いに滅ぼし合う」
「人に光など存在しない」
「人は協力できない」
「人は殺し合う」
「ありもしないものを奪い合って」
「自滅していく」
「それが、人に与えられた祝福」
「人に光は無い」
「そうでしょうか。
私には、そうは思えません」
「お前は意見するな」
「この薄汚れた人間め。演技にまみれた道化め」
「よくも騙してくれたな」
「惑星ゼルカディアに太陽を転送させて消し飛ばそうとしたのに」
「転送に介入して妨害するなんて」
「まんまと騙された」
「何が侵略者の尖兵だ」
「嘘つきめ」
「でも、ぼくらは嘘をつかない」
「ウィルスで」
「ネクロなんだ」
「あなたたちの本当のお名前は、ネクロ・ウィルスさんというのですね。
ネクロ・ウィルスさん、この太陽系を滅ぼすのはやめて頂けないでしょうか」
「遅いよ」
「もう遅い」
「太陽系は死亡する」
「ぼくらと一緒に死のう」
「そうなのですか」
トパーズ・ケイローンは両腕を組むと、理知的な口調で喋り始めました。
「あなたの信号は、ガイア理論で説明できそうですね」
「知識だ」
「知識ばかり」
「知識ばかりに頼った賢者気取り」
「知識を追いかけてばかりの愚か者」
「賢者でも愚者でも、どちらでも構いませんよ」
トパーズ・ケイローンは訥々と語り出しました。
「私はある程度までの範囲で、時間の樹を上り下りできます」
「それで?」
「それで?」
「私は、未来を知ることができます。
未来に足を運んだ私は、ふと思いました。
なぜ、この太陽系は真の意味で滅びないのでしょう、と。
この太陽系は、願いを叶える物体によって満たされています。
ライトメタルとレフトメタル。記憶の鋼と忘却の鋼。右に揺れる心と左に揺れる心。
それらは、生命の願いを叶えます。では、なぜゼルカディアは滅びないのでしょう?」
「それは」
「なんでだろう?」
「なんでだろうね?」
「過去にしろ現在にしろ未来にしろ、自分の人生はおろか、周囲や社会の破滅を望んでいる者は一定数存在します。
願いを叶える物質が太陽系を満たしたのであれば、そういった方々が抱く破滅の願いも即座に叶えられるはずです。
しかし、太陽系は滅びていません。なぜなのでしょう?」
トパーズ・ケイローンは分岐した未来の中であなたたちを見つけて、話を締め括りました。
「『同じ願いを二度叶えることはできない』。
私なりに導き出した結論の一つです。
あなたたちなら、この意味も分かるはずです。
必ず来て下さいね」
■現在
「今の映像は、未来に起こり得る現象を映したものです。分岐するかもしれない未来も含まれています」
オーガスタは、リミルスターの映像投影を停止させました。
少しばかり複雑な面持ちで、彼女は特異者達に告げます。
「リミルスターには、エクリプスの全環境情報が入力されていました。提供元はトパーズ・ケイローンです」
越神の太陽とトパーズ・ケイローンが融合した今、両者は互いの情報を全て共有しています。どちらかがリミルスターに自身の情報を入力すれば、それらは全て特異者達に伝わるのです。
「『同じ願いを二度叶えることはできない』。
特務隊は越神の太陽を破壊することが出来ません」
オーガスタは特務隊の事情を語ると、特異者達に最後の助言を贈りました。
「越神の太陽は、人に光は存在しないと言いました。ですが、私はそうは思いません。
自分の中の光を信じてあげてください」
オーガスタは、特異者達に一礼しました。
「私はピスケス・シティを操縦して、デザイアフレアから市民を守ります。
あなたたちは、あなたたちの成すべきことを成して下さい」
エルダーサインと射手座のサインが出現し、サジタリウスの弓が稼働しました。
あなたとパートナー機体は、射手座の矢となって宇宙に飛び立ちます。
対となる射手座のサインがあなたとパートナー機体を受け止め、あなたたちを宇宙へと案内しました。
あなたとパートナー機体の目には、暗黒の宇宙と煌めく星々が広がっています。深部には、白く燃える太陽がありました。
越神の太陽を破壊する時が来たのです。