三つの島のボスたちを倒し、ついに中央の闇の島までの虹の架け橋が復活しました。早く、闇の島を光の島に戻さなくてはなりません。
女王ターニアは、この島で行方不明になっています。おそらくは、闇王ベローンに捕まっているのだと思われますが、はたして……。
「というわけで、これが最後だ。女王様を見つけだし、このパンタシアを救え」
またまたまた偉そうにパックンさんぜんねこが言いました。とても人に物を頼む態度ではありません。
とはいえ、ここまで来たら、さすがに見捨てるわけにもいきません。なんとしても、女王を助け出して、この世界に光を呼び戻さなくては。
「この島は、僕の遊び場でもあったからな。女王様とも、よくオニゴッコやカクレンボ、オハジキやアヤトリなどをして遊んだもだ。コーヒーも、スペシャルな店でよく飲んだりしたなあ」
なんだか、しみじみと昔のことを思い出してパックンさんぜんねこが言いました。
どうやら、パックンさんぜんねこと女王ターニャはとっても仲良しだったようです。ちょっと、女王様が不憫のような気もします……。
「それで、私たちは、闇王をやっつければいいの? それとも、女王様を助ければいいの?」
さて、何をすればいいのかと、友麻真央がパックンさんぜんねこに訊ねました。
「両方に決まっているだろう」
あっさりと、パックンさんぜんねこが言ってくれやがります。まったく、こいつは……。
★ ★ ★
「じゃあ、作戦会議を始めます」
ホワイトボードを前にして、友麻真央が言いました。
「まずは、地理の確認からね。はい、地図出す!」
「地理ならばっちりだから、任せてくれ」
頭にでっかいたんこぶを作ったパックンさんぜんねこが、ホワイトボードにパンタシアのマップを貼りつけました。
中央に光の島、その周りに、赤の島、緑の島、青の島の三つの島。その他にも、黄の島、紫の島、橙の島、藍の島など大小様々の島が浮かんでいます。パンタシアは、多島海ですので、様々な特徴を持った島が存在しますが、その間を流れる気流や海流は決してやさしいものではありません。島から島への移動は、魔法で守られた虹の橋がなければ事実上不可能です。
特異者たちの活躍のおかげで、赤の島、緑の島、青の島からの虹の橋が復活し、ついに光の島への道が開けました。女王様さえ復活すれば、もっと他の島へも虹の橋をかけてくれることでしょう。
「光の島の中央には、女王様のお城があるわけね。ここに女王様が囚われているのかしら」
地図を見て、友麻真央が言いました。パックンさんぜんねこが貼った地図は、あまりにもファンシーすぎて微妙な部分がよく分かりません。はたして、東西南北とか、ちゃんと合っているのでしょうか。
「こうゆうのは、だいたいでいーんだよ、だいたいで」
「ほーう、そう言うことを言うのはこの口かあ、この口かあ」
適当なことを言うパックンさんぜんねこの口を、友麻真央が指で左右に広げて睨みつけました。
「ええと、こっちの方が正確だと思うんですが……」
赤の島のにゃんこようせいさんが、パックンさんぜんねこのことを謝りつつ、新しい地図を出してきました。以前、マッピングロボットに、ちゃんと作ってもらったとのことです。
そちらの地図によると、島の中央の高台の上に大きなお城が建っていました。ようせいさんサイズからすると、巨人でも楽に出入りできるような巨大なお城です。正面玄関から広間までであれば、IFやリンドヴルムでも問題なく入ることができるでしょう。さすがに、その奥にある各部屋や通路は難しいとは思いますが。
女王の間などは奧にあるので、突入後はそれぞれの足で進んで行くことになると思います。さすがに、通路を破壊して進んだりしたら後で逆さ磔の刑でしょうし、間違いなく途中で詰まります。
問題は、どうやってお城まで行くかです。
正面にはメインストリートと城下町があります。赤の島からは行きやすいようです。ここはちゃんとした道がありますから、地上ルートでお城を目指すのに適しています。
緑の島からだと、森を抜けてお城の庭へと出られそうです。見あげるような樹やでっかい草が密集して生えていますので、空を飛んで進むのがよいでしょう。
青の島からは海岸に出ますので、お城の裏手の崖の方に回り込めそうです。
お城の裏手は切り立った崖になっていて簡単には登れません。海風も強いので、飛んでいくのも難しそうです。その代わり、断崖の下に洞窟があります。
「じつは、この洞窟は、お城の中への抜け穴になっているんだぜ」
自慢そうにパックンさんぜんねこが言いました。なんでも、よく女王様とカクレンボしたりしたそうです。
「それは便利じゃない」
友麻真央が目を輝かせました。これなら、一気にお城に攻め込めそうです。
「えー、でも、それってみんな知ってますよお。それに、洞窟は迷路になってるって噂ですから、簡単じゃないと思いますけど……」
ひらめようせいさんが、ひらひらしながら釘を刺しました。
まあ、考えてみればあたり前の話です。どちらかと言うと、脱出路にあたる洞窟の通路でしょうから、外から簡単に攻め込まれたのではダメダメです。まあ、パンタシアですので、ホントにダメダメかもしれませんが……。
「大変です。町に怪物が……」
偵察から戻ってきたようせいさんが、開口一番、そう叫びました。
★ ★ ★
「ええい、まだターニャは見つからないのか!」
城の奥にある広間で、闇王ベローンが配下の影のようせいさんたちにむかって怒鳴りました。その姿はようせいさんたちと比べて遥かに巨大で、赤の島のプラントがすっぽりと入ってしまいそうな広間の天井にまで届きそうです。とはいえ、全身に黒いもやがまとわりつき、その姿は、細部まではっきりと見てとることはできないのですが。
手下の影のようせいさんたちは、ようせいさんたちと同じような姿形ですが、全身真っ黒で、なにやらもやもやとしています。どうやら、闇王が自分の影から作り出した分身のようでした。
「いいか、早くターニャを探しだし、俺の前に連れてこい」
闇王に命令されて、あたふたと影のようせいさんたちがお城の中へと散っていきました。
厨房に行って、ちょっとお菓子をつまみ食いしてみたり。豪華な大浴場に行って、バシャバシャと泳ぎ回ってみたり。宝物庫に近づいて、セキュリティに黒焦げにされてみたり。女王様たちの部屋に行って、精巧なミニチュアドールハウスをながめてみたり。地下へと続く階段をゼイゼイ言いながらいったりきたりしてみたり。高い塔のてっぺんに行って、島の周囲を見回してみたり……。
「何? 最近我が領土を荒らしている奴らが、ここへ攻め込もうと兵隊を集めているだと?」
塔から外を見てきた手下からの報告に、闇王が怖い声で聞き返しました。
「おのれ。わけの分からない奴らを呼び込んで、俺の邪魔をしやがって。いいだろう、迎え撃ってやろうじゃないか」
そう言うと、闇王が魔法書を片手に、広間の床に蝋石で魔方陣を描き始めました。蝋石はどこかのお土産物らしく、安物で大した質ではありません。そのため、床に描いた線は所々掠れたり、文字が潰れてしまったりしています。
「出でよ、我が僕よ!」
闇王が呪文をムニャムニャ唱えると、魔方陣の中から三つのコアが串に刺さって飛び出してきました。まるで団子です。
おもむろに刺さっていた串を引き抜くと、闇王が団子を――コアたちを自由にします。
「ゆけ、この城を守るのだ」
闇王が命令すると、コアたちは城の外へと飛んでいきました。
一つは町中に落ちると、周囲にあった物を集めて変形していきました。
「合体! 聞いて驚け……」
ええと、何やら右手にハンマー、左手にドライバー、膝にドリルを持った巨大工具ロボットに変形しました。胸には、積み立てブロックで作られたにゃんこの顔がついています。背中の工具箱が開くと、中からはペンチやキリやノコギリなどの小型工具ロボットたちが現れて周囲に展開しました。
一方、森では、巨木の虚(うろ)の中にコアが飛び込んでいきました。すると、虚が唇のようにうねうねと動き、突如大量の蔓草を吐き出しました。それは、もの凄い勢いで森中に蜘蛛の巣のように広がっていきました。一見するとただの蔓草のようですが、網のように迷路を作って敵を待ち構え、絡みつこうとうねうねしています。さらに甘い香りでフンコロガシやバッタやカブトムシなどの巨大な虫たちを引き寄せると、頭に双葉を飢えて操り始めました。
海岸に落ちたコアからは、無数の触手が砂浜から生えてきました。見た目はイソギンチャクのようにも見えますが、触手は恐ろしく長く細く、後から後から無数に飛び出してきて周囲に広がっていきます。さらに、その触手は適当な塊で集まると、クラゲになったり、シャコになったり、ウニになったり、サメになったりと、様々な海の生物に擬態していきました。
★ ★ ★
「じゃ、帰ろうか」
あっさりとパックンさんぜんねこが言いました。
「待たんかあ、ごらあ!」
そうはさせるかと、友麻真央たちがパックンさんぜんねこをぼっこぼっこにします。
「じょほうひゃはを、はふけはけれはいけまひぇん。ひんふぁ、はんはってふがない」
「ええい、何言ってるか分からんわー!」
ロープでグルグル巻きにされて椅子に座らされたパックンさんぜんねこを、友麻真央がフライング二文キックで吹っ飛ばしました。
「とにかく、闇王を倒せば、パンタシアも平和になるんだ。そうすれば、俺にもいろいろと御褒美もあると言うものだ。というわけで、お前たち、頑張れ」
素早い復活を見せて、パックンさんぜんねこが言いました。何やら、手柄の独り占めや、漁夫の利をいろいろと狙っているようで油断なりません。
「女王様を助けるのが先でしょ! まったく、しかたないなあ……」
そう言うと、友麻真央は、特異者たちを率いて出発しました。