『覚悟は出来たか?』
ゼノスの言葉に対し、《ベル》に乗る
八神 流司はこう返しました。
「覚悟なら既に出来ている」
『そのようだな。お前たちはゾディアックバトルをどう思う?』
「どういう意味だ?」
真意を図りかねる特異者たちに対し、ゼノスは言いました。
『この惑星のライトメタルとレフトメタルの総量は、55:45となった。ライトメタルをあと5%減らせば、ひとまずの危機は去る。
ゾディアックバトルとは、ライトメタルとレフトメタルのバランスを取るための手段という訳だ』
どうやら、ライトメタルとレフトメタルの総量が惑星ゼルカディアに重大な影響を及ぼしているようです。
しかし、なぜゼノスがゼルカディアの真実の一端を教えてくれるのかは不明です。《クレフ》のコックピット内で、
桜・アライラーがゼノスに問いかけました。
「どうして私たちにそんな事を教えてくれるですー?」
『真実を隠したままでは、公平ではないからな。これを受け取れ』
ゼノスの駆る《ライトニングレオ・ヒューマノイドフォーム》の頭頂部から微かに光が発せられ、特異者達の鋼獣にデータが送信されました。
データを受け取った特異者達は、それが
鋼獣を人型に変形させるためのメモだと知りました。
ウイルスが含まれているかどうか確かめるべく、特異者達はデータをスキャンしてみました。ところが、何の異状は見当たりません。正真正銘、それは『ゼノスからのプレゼント』以外の何物でもありませんでした。
「何がしたい」
流司が問います。ゼノスはフン、と鼻で笑いました。
『スポーツは誰にとっても公平なものだ。そうだろう?』
《デルタドラグーン》に乗る
ジェノ・サリスが、ゼノスに言いました。
「ゼノス……お前がこの世界の何を知っているのかは関係ない。俺たちは俺たちの手で真実を見つける。余計な手出しはするな」
『そうか。ならば、期待して待つとしよう』
ゼノスはそう答えると、ライトニングレオの背中に【バイアクヘー】を実体化・装着させ、野生の鋼獣たちの傍を駆け抜けて荒野の彼方に去っていきました。
一方、予選の3位決定戦の舞台となった海岸沿いでは、謎の機体が迫っていました。
「あの機体は……?」
上空を飛翔する謎の機体は、チーム・トライアンブラー達の前に降り立ちました。全身から冷気を噴出させて着地したその機体を見て、
サキス・クレアシオンが呟きます。
「グリフォン型の……邪神群……?」
サキスの言う通り、その機体の姿形は地球で言う『グリフォン』に似ていました。装甲の色は銀色ですが、全身から黒いオーラを漂わせています。
グリフォン型邪神群は、外部スピーカーを通じて両チームに語りかけました。
『やっほー! 僕は、マイス・レイター!
相棒はアフームグリフォンで、名前はガンザークって言うんだ!』
外部スピーカー越しに伝わったその声は非常に幼く、声変わりしていないであろう事が窺えました。
グリフォン型邪神群に搭乗するパイロットに向け、
西澤 刹那が問いかけました。
「マイス様、私たちに何か御用でしょうか?」
『トレミーカップ本戦で、僕たちは正々堂々と試合を妨害するね!』
「何言ってんだ、こいつ」
朝倉 蓮が容赦の無い突っ込みを返す一方、サキスは冷静に相手の狙いを分析しました。
『試合の妨害……バトルフィールドに乱入してくる……?』
『ピンポーンピンポーン! 大正解ー! 僕、バトルフィールドに突っ込んで皆と遊ぶんだー!』
《アフームグリフォン》が《ブレードウィングスラスター》からエネルギーを噴射させ、その場から飛び立ちます。パイロットの幼さを表すかのように、アフームグリフォンはぐるぐると回転しながら上空を旋回してみせました。
「バトルフィールドにはエネルギーシールドが張り巡らされている! 部外者は乱入できねぇぜ!」
『それが出来るんだよねー! 僕とガンザークなら!』
西澤は眉根を寄せました。イドの外部スピーカーを通じて、上空のアフームグリフォンに問いかけます。
「なぜそのような事をするのですか?」
『だって、その方が面白いじゃん! それに、こうした方が
ガイアリベリオンの仕事も出来て一石二鳥なんだよねー!
えーと、ゼノスとサイレントノッカーだっけ? あいつらと
エンブリオ・コーポレーション製鋼獣は全部纏めてギッタンギッタンにするから! じゃあ、そういう訳でまたねー!』
アフームグリフォンは身を反転させると、チーム・トライアンブラー達の前から去っていきました。
マイスの発言は余りにも一方的でした。蓮がぼそりと呟きます。
「子供の悪戯にしちゃあ度が過ぎてるな」
「乗っている機体が機体ですしね」
アフームグリフォンは邪神群です。通常の鋼獣や邪神眷属よりもスペックが高いのは明白な事実です。
「マイス様は本当に試合を妨害する気でしょうか」
「絶対やるだろうな。なんか分かっちまうんだよ。ああいう奴のやりたい事って」
シニカルな蓮の発言に対し、サキスは呟くようにして言いました。
「ガイアリベリオン……気になる……。ワールドホライゾンの皆に連絡するね……」
こうして、サキス達からワールドホライゾンの特異者達に救援要請が送られたのでした。