人が闇に抗う世界、ローランド。
かつて魔王に支配されていた国がありました。
しかし他の国、他の世界の人間が協力することで魔王を滅ぼし、その国を取り戻すことができました。
落ち着きつつある世界では、ある者は真実を、ある者は宝を求め、奔走していました。
* * *
「どうして……自分はこんなに上手くいかないんだ……」
暗い森の中、一人の男がうなだれています。彼の声が虚しく木々に吸い込まれる中、長いローブを纏った人物が現れました。
「なんて哀れな転生者。可哀想な人には、これを授けてあげよう」
フードの奥から静かな声が響き、長い袖から紫色の水晶が現れました。
「これを使えば、意のままに操ることができる。どう使うかは、その人次第」
男は震える手で水晶を受け取りました。彼が見つめ続けていると水晶は怪しく光り、すっかり魅了されてしまいました。
* * *
プリシラ公国南部の、とある町。そこにあるギルドでエルフの少女が声を上げていました。
「1つくらい『チキューの情報』が報酬の依頼とかないんですか!?」
「あまり受付の方を困らせちゃダメだよ」
エルフのキヨラが騒ぐ中、隣にいたアライグマのファーリー(獣人)のラスクンが優しくたしなめました。
今までチキューの情報を集める旅をしていたキヨラでしたが、さらに情報を得るため本格的に冒険者として活動を始めました。
しかし、事態は難航しているようです。
「うーん、情報が報酬の依頼、ですよねぇ」
苦笑しながら受付嬢が帳簿をめくっていました。しばらくして、彼女は1枚の依頼書を見せました。
「少し前に依頼されたものなのですが、こちらはいかがでしょうか?
この町の近くにある森で強くて独特の香りのする植物を採取し、村まで届けてほしい、というものです。
報酬はその植物を使った特別な飲み物の作り方、とのことです」
受付嬢の説明にキヨラは瞳を輝かせました。
「もしかしたら地球に関することかもしれません。この依頼、受けます! 依頼者が150歳っていうところも、ちょっと親近感が湧いちゃいましたし」
「そういう理由でいいのかい。まぁ、この依頼なら僕でもできそうだし」
頭を抱えつつも、ラスクンも頷きました。
* * *
一方、その町付近にある森の奥、白い翼を持つエヴィアンの少女が植物を探していました。汗を拭う姿は真剣そのものです。
「……あの葉っぱ、どこにあるんだろう。早くしないと、大婆様が……」
少女が探していると、彼女の目の前に人影が立ちはだかりました。しかし、その男はどこか異様でした。
男は全身鎧を着ているようですが、腕や脚の部分に大きな車輪らしきものがついていました。
「あの、突然で申し訳ないんですが……オレに乗ってくれないか?」
目が虚ろに曇った男が思いがけないお願いを口にしました。
そして、男が四つん這いになれば車輪が地面につき、乗り物に見える状態になりました。
「本当はバイクに転生して、かわいい女の子に乗られたかった。そのスピードで無双したかったぁ」
男がうめくように告げました。少女は羽根を震わせ、一歩下がりました。それでも彼は続けます。
「結局ただ足の速い人間に転生したけど、せめて女の子に乗ってほしかったんだぁ。ねぇ、オレのお願い叶えてくれない?」
「ごめんなさい、お願いを聞くことはできません!」
少女は拒絶しながら逃げ出しました。男の目が憤怒に染まると同時に、兜の中央にある紫水晶が輝きました。
「ただ乗るだけなのに! こうなったら意地でも乗ってもらうぞ!」
男が声を上げると、地面が揺れました。そして、背後から4体の見上げるほど大きな岩の魔物が現れました。
魔物も四つん這いになり、少女を追いかけていきました。
少女は翼を持つものの、遠くまで逃げることはできません。
「わたしには、やらなきゃいけないことがあるのに……」