人が闇に抗う世界、ローランド。
かつて魔王に支配されていた国もありましたが、
他国や他の世界の人間が協力することで魔王を滅ぼし、国を取り戻すことができました。
現在では、ある者は落ち着いた世界を享受し、ある者は探求心のままに行動していました。
* * *
ヴュステラント連合国首都、ザンテンブルク。
砂船が停まる駅の近くに小さな料理屋がありました。店内の奥では数人の店員が客にバレないようにサボっていました。
一方、カウンターでは新人の店員が一人で注文を受けたり料理を作ったりあくせく働いていました。
その特徴的な髪型と吊り目の新人にカウンターにいた客の一人が声をかけました。
「あ、あの、デザトリアンお嬢様だよね? なぜ、こんな小さな料理屋に」
「よくぞ聞いてくれましたわね! そんなに聞きたいのならお話して差し上げてもよろしくてよ?」
「あ、いや、そこまで」
「ワタクシは今、妹のサンドリオンと一緒に暮らしていますの。姉妹そろって生活できることは大変嬉しいことですわ。
でも、ワタクシたち両親から追放されておりますから、お金は持ち合わせておりませんの。
ですので、今はこうしてお仕事しているんですわ!」
渋々聞いてくれる客に対し
デザトリアン・カルネールが意気揚々と語っていると、
突然何者かにドアを蹴破られました。
入ってきたのは、
鎧の兵士やマントを身につけた人物たち。彼らは武器を突きつけながら、彼女を脅迫しました。
「今すぐありったけの食材を用意しろ!」
デザトリアンは言われたとおりに食材の入った箱を渡すと、鎧の兵士たちは出て行ってしまいました。
店の外を見ると、他の料理屋や食材を売る店からも鎧の兵士たちが出てきて、手には食材の入った箱がありました。
しばらくすると、デザトリアンが働く店の主人が戻ってきました。
「おい、仕入れたばかり店の食材が全部ない! ドアも破壊されているし。店番していたのは誰だ!?」
店の惨状に主人が怒りながら問いかけると、店員たちがデザトリアンを指差しました。
「お前か新人! せっかく雇ってやったのに・・・・・・今日限りでクビだ!」
「そんな、またですの。もう少しお話を聞いてくださらないかしら。
それか、せめて今日分のお給料はくださらないと」
デザトリアンが懇願するも彼女は店から閉め出されてしまいました。
「こんな理不尽!・・・・・・は、もう慣れましたわ。でも、またお仕事探さないとですわね」
* * *
とぼとぼと砂船の駅の方面へ進んでいくと、そこには先ほどの鎧の兵士やマントの人物たちがいました。
鎧やローブには「葉」の印が描かれ、大きな旗には
『オールグリーン教』と書かれていました。
そして、その中心には
教祖を名乗る男が今まさに演説をしています。
「首都に住むアナタたちは外の惨状を見たことがありますか?
緑がなく全てが砂となった世界を。元々は緑に覆われた自然豊かな場所だったはず。
なのに、なぜか? それはこの『砂船』が原因だと我々は考えました。
砂船が排出するものや動力源が外の世界を砂漠にしてしまったです!
砂漠化は皆が困るはずなのに、一時的な便利さと金のために作った偉い人間は目をつぶっている。
さらに利用する人間がいるからと、砂船を発展させては砂漠化は加速してしまう。
我々『オールグリーン教』はそれを阻止するべく立ち上がりました!
砂漠化を防ぐため、共に砂船を断絶し廃線を訴えましょう!!」
教祖が拳を突き上げると、
マントの信者たちが一斉に砂船に食材を投げつけたり持っていた道具でキズをつけたりしました。
当然駅員や警備の人間も近づこうとしましたが、
鎧の兵士たちに阻まれてしまいます。
鎧の兵士たちの中には「下位個体(ローエンド)」の機械族も混じっているようです。
「なんてトンデモないことを訴えているのですの! 全然違いますのに」
遠くで話を聞いていたデザトリアンは演説の内容に驚いていました。
転生者である彼女は砂船と機関車の動力源が違うこと、砂漠と砂船に因果関係がないことに気づいていました。
しかし、
近くで聞いていた人々は賛同するように拳を上げ、砂船の破壊行為に参加していました。
「早くなんとかしなければ。でも、さすがにワタクシ一人ではどうすることもできませんし」
彼女が考えながら観察していると、教祖の胸元に違和感を覚えました。
そこには
紫水晶のように美しく怪しい光を放つ首飾りがありました。
「あれはまさかサンドリオンと同じ・・・・・・」