シナリオガイド
諦めるな、自分が何もできないと知っていたとしても
シナリオ名:凡庸の風 / 担当マスター:青砥文佳
ローランド──リスタの町で嘆息する女の子が一人。彼女の名はアキ・サラビッド。
「つまんない……母さんも父さんも……だいっきらい……」
アキは公園のベンチに座り、項垂れました。
「嘘つき……」
アキの両親はアキが冒険者になることを許してくれないのです。
父さんのような冒険者? はは、嬉しいなぁ。
冒険者? 良いけど……それよりも! ほら? この服、可愛いと思うの。アキ、着てみない? うん、似合ってる! これがいいわ!
マーセナリーかぁ……う~ん、アキにはまだ早いかなぁ、母さんも心配するし。だから、もう少ししたら父さんと一緒に行こう。ああ、約束する。もちろん! 絶対にだ。
ねぇ、アキ、好きな人はいないの? 恋はとてもいいものよ? 貴女、髪を伸ばしてみたら?
母さんも父さんもアキを愛しているんだ。冒険者にさせるわけにはいかないよ……約束? ああ、そうだな……したな。でも……父さんはこの前、魔物に足を折られたんだ……
アキ、冒険者が本当になりたいもの? お母さんとお父さんが駄目って言ってるから……なりたいんじゃない?
その剣は……小屋から引っ張り出してきたのか。アキ……君はまだ、冒険者になりたいのか? なら──
「もう、分かんないよ……」
どうして好きにさせてくれないの? どうして支配しようとするの? どうして愛を理由にするの?
「君、どうしたの?」
「え?」
顔を上げれば、長髪のヒューマンの男と、トラのファーリーと目が合いました。
「大丈夫か?」
トラ男が訊ねました。
「ええと、その……」
「悩みごと?」
長髪の男がアキに近づきました。トパーズ色のあたたかな眼差しがアキの心を揺らします。
「あっ」
アキは指差しました。男達の右腕には、紅の認識票が巻かれています。
「5等級! い~な~~!! あたしね、冒険者になりたいんだ。でも、危ないからって親に止められてて……ほんとは反発すればいいんだろうけどずーっと!! あたし、良い子だったし! なんか、大人の言うことが全部正しいような気がして自信がないの」
アキは左頬に触れます。そこには深い傷が刻まれています。
「ふぅん? じゃあさ? その傷だらけの手はなんだよ?」
ファーリーが口を開き、アキの手を見つめます。
「え? これは素振りしているだけだよ……でも、それだけなの……あなた達のように何者にもなれてない」
「うるせぇな……じゃあ、なれよ! 冒険者に!! なりたいものが目の前にあんだろう……なっちまえよ」
ファーリーが叫びました。
「でも、でも……!! あたしは……!! 駄目だよ……駄目だってずっと言われてるもん……何も出来ないし……」
「アキッ!!! お父さんが!!」
突然、アキを呼ぶ声がしました。
「え……? お母さん?」
「お父さんがね! 魔族を追って……森に入ったの!! 魔族を見た瞬間、こいつだけは俺がやらないといけないって……ねぇ、アキ、どうしよう!? お父さん、足が悪いのに……無茶なことはしないでって言ってたのに!」
「なら……あたしが……お父さんのところに……」
言いながら、アキは頬の傷を無意識になぞりました。思い出す、お父さんの姿と、一体の大柄な魔族と子猫の死体。魔族は猫を殺し、にたにたと笑っていた。肉色の瞳に土色の肌。手には冒険者から奪った、切れ味の鋭いロングソード。あの時、お父さんが魔族の鼻を削がなければ、あたしは頬の傷だけじゃすまなかったことを。
「え? アキ?」
「行くよ……お父さんと一緒に魔族を倒したい……」
「え、え? 嘘よね、アキ……?」
「嘘じゃないよ……お母さん」
「駄目よ、貴女が必死になって助けようとした子猫は死んでしまったじゃない!! 治らないままの傷は!? ねぇ、アキ!! 痛いだけの傷じゃ……足手まといなのよ!?」
「分かってる。でも!!! あたしは行く……!! お父さんのところに今、行かなかったら……あたしはずっと苦しくて……自分がずっと嫌いなままになっちゃう、から……」
「そう……なら、小屋に軽鎧と、お母さんが昔、使ってた剣を持って行きなさい。青銅と魔物の骨で出来ているから……」
「え!? あの剣、お母さんのなの……? めちゃくちゃ使いやすいなぁって思ってた……」
「アキさん!! 早く、小屋に行こう!! テオは森に!! 教会にも連絡しておいたから他の冒険者も来るはずだよ」
長髪の男が言いました。
「分かったぜ! ルイス、後でな!」
ファーリーの男が長髪の男を見つめ、すぐに駆け出しました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一人、テオは森を駆けています。ふと、瞳に芋虫のように太った四つん這いの人間がうじゃうじゃと見えました。テオは後ずさり、身構えます。だらだらとそれは涎を垂らし、明らかに人ではありません。テオは息を吐きます。
「うーん、やられたな。魔族の野郎、魔物をかき集めやがった……ん~、どうしましょうかねぇ~? 触ったらやべぇ感じがすっけど……俺は武器を持たねぇタイプなんだわ。まっ、やるしかねぇよなぁ! 冒険者なら!」
テオは四足歩行で飛び掛かってくる魔物の顔面を蹴り上げました。途端に魔物の顔が弾け、どろどろの液体が吹き出しました。テオは顔をしかめます。
「臭いな……でも、だからなんだってことだよなぁ! さぁ、来いや!」
テオは防臭マスクを素早く付け──魔物の顔を次々と殴りながら、目を細めました。身体は魔物の体液を浴び、濡れています。
「ああ、何度も再生してやがる……それに早速、身体が痺れてきたな……」
一方、森の奥地では、魔族を追うアキ・サラビッドの父親である、ラドの姿がありました。足を僅かに引きずりながらラドは、見覚えのある魔族の背に向かってこう、叫んだのです。
「おい、デカブツ!! 知ってるか? 俺だよ、俺……!! 俺がお前の鼻を削いでやったんだ……!! 光栄だったろう?」
ラドは鼻を鳴らし、振り返る魔族を見つめながら紫色の大鎌を向けたのです。
担当マスターより
皆様、ごきげんよう。青砥です。本ガイドはローランドを舞台にしております~~~~!!!
*注意事項
今回、戦闘を激しめに行う予定かつ、魔族が皆様を口汚く罵るかと思います。
以下、選択肢は二つあります。
【1】魔族との対峙
アキと長髪の男、ルイスがフィールドに登場し、アキの父親であるラドが魔族と戦い始めました。皆様は、アキとルイスより前に登場するか後に登場するかを選択することが出来ます。明記が無かった場合はGM判断となります。
【2】魔物を倒す
一人、勇敢に戦うテオのもとに向かいます。圧倒的な数に加え、魔物自体のスペックが不明となります。ただ、テオの様子からある程度、推測出来るかと思います。
◇森◆
ただの森。森に存在するものはこの森にもあります。晴天で天気が崩れることはありませんが、魔物や魔族、皆様の状況によっては足元がぬかるむこともあります。
魔族・・・数年前にラドによって鼻を削ぎ落とされておりますが、それ以外、特に問題ありません。武器は冒険者から奪った片手持ちのロングソードです。知能があり、煽るのが得意です。戦闘能力は高く、多くの冒険者達を瞬殺しています。
魔物・・・芋虫のように太った四つん這いの人間のような気味が悪い容貌で、何度か再生します。攻撃力は低めで集団で行動しています。能力は不明です。
□ NPC アキ・サラビッド
冒険者に憧れる女性。剣を持っています。どのくらい戦えるかは皆様のサポートや声がけによって変わります。
□ NPC ラド・サラビッド
アキの父親。大鎌で戦います。
□ NPC ルイス
長髪の冒険者。投擲を得意します。
□ NPC テオ
ファーリーの冒険者。素手で戦います。
□ NPC エリ・サラビッド
アキの母親。
・【1】魔族との対峙 【現在のMC参加人数:11】
「ああ、知ってる。思い出した。お前は馬鹿な娘の、父親だ……!」
|
 |
・【2】魔物を倒す 【現在のMC参加人数:9】
「英雄って言うのはよぉ……最後まで立ってる奴のことを言うんだぜ!!」
|
 |