東トリスの北方面にある辺境の森の中を、両手に大きな鞄を持った少年2人が歩いていた。
「狐さんの巣を見付けました! リグレット、この子たちをカッコよくしてあげましょー!」
「はいです! パパのお薬でカッコよくしてあげるのです!」
少年たちは鞄の中から点滴の袋のような入れ物に入った薬品を取り出し、狐の巣の中に薬品をぶちまける。
「これで立派な魔獣になるのです! アンリー、僕たちパパに褒めてもらえるでしょうか?」
「きっと褒めてもらえるよ! パパにお小遣いをもらったら、今度こそリグレットと一緒に遊びに行くんだ!」
無邪気な少年たちの会話が紡がれる横で、巣の中にいた狐たちは突然浴びせられた魔素の塊のせいで苦しみ悶え始める。
狐の身体はどんどん変形していき、強力な魔力を放ちながらまるで進化のように別の生き物と化していく。
「ふふふ、カッコよくなったね、リグレット」
「そうだね、アンリー」
巣から現れたのは、もはや狐とは言い難い風貌をした魔獣そのものだった。
□■□
――――A機関某支部建物内
「薬品で魔獣作り?」
「そうだ。クローン生成への挑戦だとかで、人体実験による殺人まがいのことをやらかし学会を追われたブレンダー元博士が、復讐と称して生物を無差別に魔獣化させているらしい」
エージェント2人はコーヒーを飲みながら話を進める。
「市民への影響は?」
「魔獣化のスピードが予想以上に早い。放っておけば……」
「なるほどな。敵は博士だけか?」
「いや、博士の息子が2人、協力している様子なのだが……」
エージェントのひとりはため息をついてから続けた。
「ブレンダー元博士の双子の息子、アンリーとリグレットは完全に父親に洗脳されていてな。自分たちのしていることがまるでわかっていない。無理もない、まだ11歳の子供だからな」
「11歳!? ……よく自分の息子にそんなことをさせられるな」
「今回の仕事、目的は魔獣化させられた狐10匹の討伐とブレンダー元博士の捕縛、そして息子たちの“保護”だ」
「上は何て言っている?」
「双子も捕縛しろという意見が多数だったが、ふたりの知能指数の異様な高さから、今後A機関で働かせれば大きな力になるだろうと言ったら『なら任せる』だと」
「なるほどな。討伐と捕縛よりも厄介なのが双子の説得、ということか」
「俺は今手が空いてない。引き受けてくれるか?」
「任せろ。俺が最高のエージェントたちを集めてみせる」