突然の壁により仮初めの平和と情報を探り合う戦いとなった世界「バイナリア」
東トリスの境目にある危険地区には以前まで魔獣や暴走したライカンスロープたちが蔓延っていました。
しかし、
エージェントたちの活躍により一掃され、棲みついていた人々も救助されました。
棲みついていた人々の検査や回収された薬、飲食物、謎の医者に対しての尋問の結果、
危険地区の地下には再生公社や純血同盟が関係する
研究施設があるのではないか、という仮説が立てられました。
しかし、再生公社並びに純血同盟は先日の大戦により壊滅状態、研究どころではないと考えられました。
そこで
現地のエージェントたちは少人数で地下へ調査に向かうことにしました。
危険地区にあるマンホールを使って地下へ侵入すると、無機質な空間に通じていました。
筒状の廊下がいくつも伸びており、部屋には
研究に使うであろう機材や資料が置いてありました。
「地下にこんなばしょがあったなんて」
新米エージェントである
ヘンリー・ルイスも今回の調査に加わっていました。
他のエージェントが慎重に辺りを見回す中、彼だけはどんどん奥の方へと進んでいきます。
「よーし、ガブリエラさんに良いところ見せるぞ」
ヘンリーが進んでいくと、
近未来的で透明な箱がいくつも並んだ部屋まで到着しました。
その中には一人ずつ人間や魔獣と化したライカンスロープが閉じ込められていました。
「ここ、みたことある気がする」
ヘンリーは周囲をじっくりと見回していると、突然
研究員や武装した兵士が現れ彼を押さえつけました。
他のエージェントたちが助けようとしますが、皆急所を狙われ気絶していきます。
エージェントたちが動けなくなった後、
白衣の男がヘンリーを覗き込み触診のようなことを始めました。
「ん~? なぜ、キミのような子がエージェントの中にいるんだい? 魔素に敏感なのにマスクまでして。もしかして、キミは前に」
男の手つきは触診というにはあまりにベタベタ触りすぎで、終始恍惚とした表情を浮かべていました。
「それはこの際どうでもいいか、キミにはもっと相応しい姿があるはずだ。
あと
他の奴らは実験体の箱に入れておいて。で、使いたいときにでも使ってよ」
武装した兵士に指示を出すと、白衣の男はヘンリーを引きずっていきました。
* * *
白衣の後ろ姿が映ったのを最後に映像は途切れてしまいました。
さきほどの一部始終はエージェントの一人が録画しアジトへ送ったものでした。
それを見ていたエージェントリーダー、
ガブリエラ・アンダーソンは拳を握りしめていました。
「私の采配が間違っていた。再生公社や純血同盟はすでに壊滅、地下はもぬけの殻になっていると想定していたが」
彼女は冷や汗をかき、
少し取り乱しすぎている様子が窺えました。
瞳は白衣の男を捉えながらも深呼吸をして落ち着き、アジトにいるエージェントたちに説明し始めました。
「今回我々が向かうのはこの
危険地区の地下にある研究施設だ。
おそらくライカンスロープの遺伝子を持つ人間を使い、実験しているのは間違いない」
ガブリエラが映像を切り替えると、捕らえられたエージェントが送ってきた地図が映りました。
アリの巣のように
道と部屋に分かれており、下であるほど部屋は大きくなっているようでした。
「映像の時間からしてエージェントたちが捕まっている部屋、
つまり
箱の部屋はマンホールから入って比較的近いところにあるだろう。
ただし、白衣の男に連れて行かれた
『メナシ(ヘンリー)』は別の部屋にいる可能性が高い」
そして、今回の任務について書かれている画面に切り替わりました。
「君たちには
エージェントたちを救出するグループと
研究施設を調査するグループに分かれてもらう。
私は研究施設を調査するグループに回る。
どちらも
救出する、調査するだけでは済まないだろう。心してかかってくれ」
ガブリエラの言葉を合図にアジトにいるエージェントたちは立ち上がりました。