「よっしー、お願いがあるんだけどぉ☆」
可愛らしい女性の声が機関の某支部に響き渡りました。
声の主はウウェ・ユレ。機関に属するエージェントの一人です。
「……何やらかしたんだ?」
それに応えたのは、彼女と同じく機関に身を置いているエージェント。相馬良樹です。
彼は大げさにため息を落とし、胡乱な目をウウェに向けました。
良樹がそういった態度を取るのも無理はありません。
ウウェの『お願い』というのは往々にして厄介ごと絡んでいるためです。
「ハァ? 可愛くてつよ~いウウェちゃん☆ が、しょうもないミスなんてやらかすわけないでしょ、人手不足だから手伝ってほしいだけだっつうの。アタシの表の仕事知ってるだろ」
「あー……カフェだったか?」
「そ、働いている子が有給消化したり、外せない用事があったりするみたいでさあ。一日だけシフトが空っぽになっちゃって、まともに店がまわらないんだよね」
良樹は少しだけ考える素振りを見せました。
「確か、お前のカフェって……」
「そう、エージェント達の情報交換の場としても使われているトコロ☆ 表向きは普通のカフェだけど、みんなが『仕事』で使ってるから、そう易々店じまいもできないってワケ」
ウウェの経営しているカフェは一般にも開放されていますが、エージェント達のデータ受け渡しの場として、あるいは情報共有の場として使用される事があるようです。
「ってことは、何かしらの『仕事』と、人手不足の日がかち合ってるってことだよな」
「そゆこと☆ うちのエージェント達が『仕事』をしやすいようにしてほしいんだよね。あとは……スパイが居たら困るでしょ☆ あやし~やつを探ったり、攪乱してほしいってワケ」
「本音は?」
「うちの店の評価落としたくない!! 普通に働いてくれる子も大募集。なんならそっちも本命☆」
「……はぁ」
少なからずとも『仕事』が絡んでいるのならば、良樹として断る理由はありません。
少しだけ嫌そうに――いえ、かなり嫌そうな顔を浮かべ、彼はそれを了承しました。
◇◆◇
「あのさ、ウウェ……」
後日、ウウェの経営しているカフェに良樹の弱々しい呟きが落とされました。
「あ、よっしー。今日はウウェちゃんのこと『メイド長』って呼んでね♡」
メイド長ことウウェは満面の笑みで、可愛らしいメイド服の裾を軽く摘まみました。
その前には絶望を煮詰めたかのような顔をした良樹――メイド服の男が顔を覆っています。
「メイド喫茶って話は初耳なんですけど!?」
「うん、さっき言った☆ ……ま、仕事は仕事だよ。キッチリ働いてもらうからな?」
「お兄さんお婿にいけない……」
「彼女もいねークセに何言ってんだこいつ……」
◇◆◇
・相馬良樹からの援軍要請
「あ~、その。カフェ……人手不足で、手伝って欲しいんだ。普通のカフェなら声はかけないんだけど、何せエージェント達の交流場だからさ。良ければ手伝って欲しいんだ。制服はこちらで用意するらしい。何の制服だって……? うん、来てみれば分かると思うな……」
・ウウェ・ユレからの援軍要請
「はろ~☆ ウウェちゃんだよ♡ ちょっとぉ、うちのカフェが人手足りなくてぇ……ライカンスロープの尾も借りたいってワケ。客のチップはぜ~んぶ懐に入れていいから、カフェと『仕事』の手伝い、よっろしく~!!」