西オデッサにはユベルニアという街がありました。
ユベルニアのカフェ、そのテラス席では二人の『男女』が向かい合っています。
相馬良樹とウウェ・ユレです。
二人は笑顔を携えながら、ティータイムを楽しんでいました――が、どうやら楽しそうなのは表情だけのようです。
「はー。どうせならもっと可愛い子とお茶したかったなあ」
「ヨッシー、頭だけじゃなくて目も悪いの? こーんなにかわいーウウェちゃんを見て何か思うところないワケ?」
「お前の事……ずっと前から大嫌いなんだけど、どうしたらいい?」
「えっ、愛の告白……? やだも~、ヨッシーってば。釣り合う訳ねーだろ。現実見ろや」
「そっかー、ウウェは頭だけじゃなくて耳も悪いのか~」
二人は笑顔のまま罵り合っています。
どうして仲の悪そうな二人がお茶をしていたのか、それは二人の職業が関係していました。
「って、ちっがーう。アホの相手している場合じゃなかった。ウウェちゃん失敗、失敗☆」
「え〜本当? 嬉しいな、俺も同じ事を思ってた♡」
「キッショ♡ ……ところで今回の任務、分かってる?」
ウウェは表情を切り替え、飲んでいたメロンソーダのストローを良樹の方に向けました。
「今回の任務は……確か、強硬派の物資を奪う事だったな――」
そう、二人はA機関に所属しているエージェントです。
A機関より下された任務を遂行するため、テラス席で会話をしながら不審な車が通らないかどうかチェックしている所でした。
二人が飽きもせずに罵り合っている、その時――大通りに一台の大型トラックがやってきました。
丁度カフェの前にある信号に捕まり、大量の排気ガスをまき散らしています。
「ウウェ、あの配送トラック――」
「――こんな街中走るのに要らないくらいでっかい馬力つんでんね。そんなに重たいもんでも積んでいるのかな~、たとえば……鉄の塊みたいなおっもーいやつ」
「だろうな、準備頼む」
「おっけ、会計は任せたよ☆」
ウウェはカフェから飛び出していきます。
残された良樹も伝票を手にレジまで向かい、可愛らしい店員のお姉さんに鼻の下を伸ばしつつ会計を済ませました。
彼が外に出ると同時に、ウウェは大型のバイクをカフェの前に横付けします。
「どーぞ、ヘルメットだよ」
良樹はウウェの投げたヘルメットを受け取り、後ろに乗り込みました。
「変なところ触ったらぶっ飛ばすぞ☆」
「平たすぎて腹かどうか判別つかなかったら申し訳な――急にスピード出すんじゃねえよ!!」
そうして二人はトラックを尾行し始めました。
尾行してから暫く経った頃、トラックが止まったのは山間にある大型倉庫です。
レンガ造りの倉庫が建ち並んだここは、久しく使われていないはずでした。
「なあ、ここって確か閉鎖されてなかったか」
良樹は物陰から倉庫の様子を窺っています。その隣にはウウェの姿もありました。
「うん、だからここをアジトにしたんだろーね。でも……うーん、倉庫がでっかいから二人だと厳しそー。さっきのトラックだけ奪うにしても、強硬派が沢山いたらキッツいね」
倉庫はとても大きな造りをしています。
強硬派がここを拠点に選んだという事は、それなりに規模の大きなアジトという意味でもありました。
「……人を呼ぼう」
それはどちらからともなくこぼれ落ちた提案でした。
◆◇◆
・ウウェ・ユレからの援軍要請
「やっほー、あたしウウェ!! 手が空いているエージェントさんがいたら力かしてほしーなー☆ あのねあのね、なんでも強硬派が物資をため込んでいるらしいの、よかったらそれを奪う手伝いをしてほしいな、ついでに強硬派も叩いちゃお☆ よっろしくー!!」
・相馬良樹からの援軍要請
「相馬良樹だ。現在、強硬派のアジト前にいる。物資の強奪を頼まれていたんだが……どうにも敵の数が多そうで人手が足りない。良かったら任務を手伝ってくれないか? 場所はユベルニアから少し離れた所にある場所だ。今は使われていないところなので民間人を巻き込む危険性もない。もし、手が空いていたら……今回の任務を手伝って欲しい。頼んだよ」