「はぁ、サメ……ですか」
イマイチ事態が飲み込めない、そんな声が湖畔のほとりに落とされました。
声の主は相馬 良樹。路銀を稼ぎながら旅をしている外法の者です。
「そうなんだよ。おかげで祭りだってのに人がいやしねえ」
良樹の目の前には屈強な男が一人、困り顔で良樹の言葉に返します。
男の後ろにはお祭りでよく見かけるような露店があります。
周囲にも同じような店が並んでいるので、祭りはそこそこ大きな規模だという事が分かりました。
ですが、観光客らしい人はまばらです。
まさか祭りが行われているだなんて到底思えないほど閑散としていました。
「そこの湖にサメの魔物が沸いちまってな」
まったくどこからやってきたのか。男はぼやきながら、直ぐ傍の湖に目を向けます。
湖は大きく、対岸までには距離があります。
水は透き通り、陽光を受けてキラキラと反射していました。
そんな美しい水面には、いくつか不穏な尾びれが浮かんでいます。悠々自適に泳ぎ回るさまは、まるで湖の主だと主張しているかのようでした。
「だからよお、兄ちゃん。助けてくれねえか。あんたドラグナーなんだろ? サメ退治して、ついでに露店でなんか買っていってくれよ」
言われ、良樹は困った顔をします。
何せ愛機は修理中。
修理を待とうにも祭りの期間中には到底間に合いません。たとえ修理が間に合ったとして、祭り会場が近いためドラグーンアーマーの出撃は難しそうです。
「せめて日付をずらすとかはできないのか?」
そうすれば大がかりな掃討戦も可能です。
しかし、男は眉をぐっと寄せてしまいました。
「そら困るよ。この祭りは一つの村で行ってるもんじゃないし、貴重な収入源なんだ。日付なんてずらしちまったら、仕入れたモンも駄目になっちまう」
工芸品ならいざ知らず、足が早い食材なども多くあるそうです。
仕入れし直すにも時間や資金が掛かってしまうので、なんとか今の時期に行いたい、男はそう呟いて言葉を続けます。
「赤字になっちまったら今年の冬を越すのにも苦労するってもんよ。うちの村だけじゃない、よその村だって……」
男の声はひどく疲れ切っていました。よほど切実な問題なのでしょう、快活そうな表情は陰るばかりです。
「分かった、何とかしてみるけど……あのサメって、退治っていうくらいだから人を襲うんだよな」
「おう、そうとも。特に、
水着の人間に襲いかかる種類なんだ」
「……なんで?」
良樹は間抜けな声を上げ、湖を泳いでいる背びれに目を向けました。
◆◇◆
「あ~、あんた。祭りに興味はないか? いや、湖にサメが出てしまったとかで、祭りに人が来なくて困っているらしいんだ。良かったらサメ退治をするか、祭りに参加していってくれると嬉しいんだ」
サメ退治をして安全を確保するか、祭りに参加してお金を落としてほしい。
良樹からの援軍要請はそのようなものでした。
そうして一通り説明を終えた良樹は、やや間を空け「あー」と伝えづらそうに言葉を続けます。
「あと……なんかこう、今回のサメなんだけど……退治に来るのなら水着で来てくれないか……違う違う俺の趣味じゃない!! 今回のサメは何故だが水着の人間を襲いにくる種類らしいんだ。いや、俺に聞くなよ。俺だってなんでだか聞きたいくらいだよ……」
何故水着なのかはさておき、良樹はあなた方に声を掛けてまわります。
ヘンテコな援軍要請ですが受けるか受けないかは、あなた次第です。