ローランド、ある嵐の夜の日に、
「確認いたしました」
教会に一報が届きます。
…※…※…※…
その館は嵐の日の夜ににわかと姿を現すそうです。
毎度必ずというわけでもなく、嵐の夜に現れたり現れなかったりするそうです。
館は――広くて白い庭に囲まれた館は、囲う立派な門扉をこしらえつつも施錠はされておらず、激しい雷雨から避難するには丁度いい場所でした。
「一晩凌ごうぜ」
そう言って別れた人は消えた館と共にそのまま帰ってくることはありませんでした。
難を逃れようと訪れる人を帰さない館は、そんな白い庭に囲まれた館は、何年も何十年も何百年も前から教会の監視対象でした。
行方知れずになった人を迎えに行こうと冒険者も多く向かっています。
そして、未だ誰も帰ってくることはありませんでした。
けれども教会は結果に屈することもなく、今夜も館の出現を確認すると、勇気ある者に声を掛けるのでした。
…※…※…※…
最初はひとりではありませんでした。
しかし、激しい雷雨に視界を奪われ、門扉に辿り着く頃は、ただひとりとなってしまいました。
鍵のかかっていない門は簡単に開きます。
白い庭を抜けた先に館があります。
恐ろしい嵐の夜です。
忍び込む館の中は真っ暗闇でした。
この場所に居るのは、ただ自分ひとりです。
雨と風に混じって、館の扉が開く音が聞こえます。
「あれ? 先客?」
そう問いかけてきた声は不思議と『安心』できるものでした。
ひどく強い雨と風だと降りかかる災難に愚痴り、館に鍵がかかってなくてよかったと声の持ち主は喜び、そうだろう? と同意を求めます。
そして「どうせなら冒険をしよう」と、無人の館の中をふたりで探し回ろうと提案してくるのでした。
灯りはつきませんが、そうして真っ暗闇の中をふたりで歩き始めました。
途中、暗くて姿を確認できない相手が質問をしてきます。
どこに住んでいるのか。
どんな風に毎日を過ごしているのか。
自然は好きか。
都市はどうだろうか。
神様は信じている?
魔神は嫌いだよね。
人は好き?
家族は優しいか。
隣人は気難しい人か。
真っ暗闇の館なんてわくわくする?
早く晴れて欲しいね。
胸に抱く秘密はやはり内緒だったりするか。
救いたい人はいる?
じゃぁ、許せない人は?
世界は幸せだと思うか。
後悔はある?
嬉しいことは?
他にもたくさんのとりとめもない質問攻めに呆れていると、相手は「知りたくて」と照れているようでした。
一方的な質問に耐えてると、それなりな時間潰しになったのか気づけば風の音は止んでいました。
探索していても、暗い中で何か発見できたというわけでもありません。
仕方ないので玄関まで戻ります。
嵐が去ったらしく、外は晴れていました。
夜明けが近いらしく空も白み始めています。
「帰ろうか」と囁く声に頷いて、白い庭を抜けて門扉へと向かおうとして、
そして、
どうしてここに自分が立っているのかわからなくなってしまいました。
白い庭の空白に、目的は奪われ、そして手段だけが残されます。
もうすぐ朝日が昇ります。
白い庭の館は夜明けとともに消えゆくものでしたが、それさえ思い出せません。
考えている内に、光が強くなるにつれて、足元から兆しも痛みもないまま石化が始まろうとしていました。
そして、未だこの場には、ただひとりです。
振り返ろう。そう行動する時間で、館は朝日を浴びて消えましょう。