悪に勇気や想いの力で戦い続ける世界「ロディニア」
中流から下流層が住むアンダープレートでは、貧しくも協力し合いながら人々が暮らしています。
瓦屋根の家が建ち並ぶ中、淡い光を放つ妖精の少女がその間を通っていきました。
そして、周囲を見回しながら奥の方にある倉庫に入っていくと、その中には無数の紙の本が並んでいました。
「やぁ、
ベルル。またマンガを読みに来たのかい?」
奥の棚からここの管理人である
アオタツ・サエキバラが声をかけます。
「ええ、わたしの住んでる場所では読めないしマンガのことさえ口にはできないから。それで、また新しいマンガ読みたいんだけど」
「そう言うと思って用意しておいたよ、どうぞ」
アオタツが少女マンガをテーブルに置くと、さっそくベルルは読み始めた。
「ベルルは読むのが相変わらず早いね」
「だって、面白いしこんなにたくさんあるし少しでも多く読みたいの」
瞳を輝かせるベルルにアオタツが微笑みます。
「ある本全部がマンガってわけじゃないんだけどね。昔書かれた物語の本とかもあるし」
アオタツが持っている本だけでなく、並ぶ本の大半が薄茶色になっており年季が入っていました。
「中にはサイボーグやミュータントを倒すような小説もあるし、アコライトだけではなくヴィランにも見つかればタダでは済まないものばかりだよ」
そして、大きく深呼吸をしました。
「データで残す方が安全だが、
紙を使った本このであることが大事なんだ。それに、僕はこの独特の匂いと本に囲まれている感覚が好きだし」
「わたしもここが大好き。やっぱり『図書館』はこうでないと」
「図書館だなんて。ここは本を集めているだけの場所だよ」
ベルルとアオタツが笑いあっていると、アオタツとともに本を管理している男性が駆け寄ってきます。
「大変です。ヴィランたちがこちらへ向かっているとの情報が」
「分かった。皆は入り口を塞いでくれ。ベルルは裏口から」
アオタツがベルルを逃がした直後、穴が開くようなノック音が倉庫中に響き渡りました。
男性数人が扉を押さえようとしますが、抵抗もむなしくサイボーグたちが侵入してきます。
「何の用だ? ここには貴方たちが望むようなものはないはずだが」
「いや、聞いたぞ。お前たちが秘密裏に資料を集め、反逆を企てようとしていることを」
サイボーグたちのリーダーが部下に指示を出しました。
「
研究に使えそうなものは回収、それ以外は燃やし尽くせ!」
その声と同時にサイボーグたちがズカズカと倉庫に入っていきます。
「反逆なんてするつもりはない。僕たちはただ
本を守りたいだけなんだ」
アオタツは敵の前に立ち塞がりますが、呆気なく突き飛ばされてしまいました。
倒れている間にも本を乱雑に出され、不要と判断されたものは火炎放射器で燃やし始めていました。
アオタツは立ち上がると、倉庫内にいた人々に声をかけていきます。
「裏口からすぐ近くの小川に本を投げ入れてくれ!」
アオタツからの指示に皆驚きました。
「僕たちだけで安全な場所まで運ぶには時間がない。水には濡れてしまうが、燃えてなくなってしまうよりはマシだ」
皆は言われた通り持てるだけ本を抱えると、
裏口から飛び出し近くにある流れの遅い小川に本を入れていきます。
アオタツもサイボーグたちの様子を窺いながら本を運び出しました。
「・・・・・・強奪ならともかく、なぜ燃やし尽くすような真似まで」
* * *
一方、先に裏口から出たベルルが逃げていると、仲間の妖精たちに囲まれました。
「なんで、みんなここにいるの?」
「あなたがここに通っているのは知っていたわ。もし、それがママ(カリーミア)やアコライトの耳に入ってしまったら・・・・・・」
「だから、
サイボーグたちに『あの倉庫で反逆を計画し、それに必要な資料を集めている』って噂を流したの」
仲間たちが申し訳なさから目を逸らします。
「でも、それはあなたのためなの! あの倉庫にベルルが通っていた証拠をなくせば、ママに聞かれても『マンガなんて読んでない』って言えば済む話なんだから」
仲間が訴えると、ベルルは倉庫へ戻ろうとしました。
「バレたら危ないことくらい分かってた。それよりも
大好きなマンガが燃えちゃうのはもっとダメ。マンガ読んだことないからそんなことができるのよ。わたしはアオタツさんたちを助けに行く!」
すると、妖精たちがベルルの周囲に集まり、魔法をかける態勢になりました。
「マンガよりベルルの命よ。
こちらもできるだけ手荒なことはしたくないの!」
「好きなことしていいってママが信じている神様は言っているんでしょ? なんでその好きなものがマンガっていうだけでこんな思いをしないといけないのよ!!」