蒼空学園大学部のとある一室。
扉には『SST』と書かれた四角いプレートが一枚あり、その向こう側から数人の話し声が聞こえてきました。
「――さて、どう処理しましょうか」
「ささ、さすがに全部は……む、無理、ですよね……」
机に広げたプリントを眺めては溜息を零す
土岐 レティシアに、
続いてか細い声で不安そうに呟いたのは中等部所属の
近衛 紅葉でした。
同好会を発足したはいいものの、活動の具体案がなかなか出ず、
ならばと思い立ったのが
パブリックコメント――要するに外部から意見を募る目安箱だったのですが……。
「やることがないからって、こんな物を考えなしに設置するからでしょ。
蒼学だけでもかなりの量なのに、それを全世界に配信なんてパンクして当然だよまったく」
レティシアの発案から決行された目安箱に、やっぱりと苦言を呈したのは
近衛 綾紫でした。
想像以上に沢山意見が集まり、目を通すだけでもかなりの時間を要しています。
印刷した物はまだ極一部に過ぎません……。
「設置したのは先輩でしょー」
「忠告しても聞かなかったの君じゃん。そうやって他人に責任を押し付けるのはどうかと思うけど」
綾紫は適当にレティシアをあしらいながら、手元にあるキーボードを叩きます。
パソコンの画面に表示された目安箱――基、パブコメ欄を一旦閉じて、書き込みを拒否設定にしました。
「い、悪戯な書き込みも増えていましたし……ど、どどどうしましょう……っ」
「落ち着いて紅葉ちゃん。先輩が上手く捌いてくれるから」
オロオロする紅葉を後ろからぎゅっとハグするレティシア。
「君って本当、口だけだよね」という綾紫の呟きを聞いているのかいないのか、どこ吹く風のレティシアなのでした。
「――それで、部長の意見は?」
綾紫の視線は、窓辺に寄り掛かり手元にある数枚のプリントを眺めている
圷 櫂地に向けられました。
しかし、プリントに落とされた顔はなかなか上がらず、怪訝に思い今度は名前を呼びます。
「櫂地?」
そこで漸く視線が合い、いつも通り口元を緩めた櫂地はレティシアに視線を移し言葉を発しました。
「土岐はこれで、ネットの怖さを知れたんじゃないか」
「それは……はい、ごめんなさい……」
部長である櫂地にはレティシアもしおらしさを見せます。
こうなることを覚悟の上でパブコメ案を承諾したことに、レティシアもさすがに気付いたようです。
「考えが甘かったのは認めますけど……まさかこんなことになるなんて思わなくて……」
「土岐、今考えることは起きてしまったことをどう活かすかだ。――綾紫」
「今やってる。とりあえずコメントを蒼学に絞ればいいよね」
再びパソコンに向かう綾紫に、櫂地は思案気に告げました。
「……シャンバラ……いや、
タシガンだ。そちらも拾ってくれ」
「は? 何で……蒼学だけでも結構な数――……あー、とりあえず了解」
櫂地の顔色一つで何かを感じ取った綾紫は、反論を呑み込んで言われた通り蒼学とタシガンから送信されたコメントのみ抽出を試みます。
「双方リスト化したらタシガンを俺に回してほしい」
櫂地の指示に綾紫は頷きますが、レティシアと紅葉は不思議そうに顔を見合わせます。
「あの、カイ先輩。書き込みに何か問題でも……?」
「……わ、わたくしにも何か、で、できることがあればやります……のでっ」
心配そうに見てくる二人に、櫂地は「もちろんある」と告げます。
「問題かはまだ分からないが、それについては俺の方で一度検討したい。
まず二人にやってもらいたいことだが――……」
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SST部長
圷 櫂地