シナリオガイド
たまには私も――暴れたくなるんですよ?
シナリオ名:絡みつく闇の残響【後編】 / 担当マスター:砂糖しろくろ
ロンバルディア旧街区に位置する《教会》騎士団新本部。
現在の《教会》騎士団における重鎮であるキアーラの私室にて。
銀縁の眼鏡を整える彼女の視線の先には、新調したブーツ型のギアがありました。
「……あたしにも、成すべき“遺志”がある」
キアーラはそれに足を通すと、《教会》騎士団の本部を後にしたのでした。
甲冑を鳴らし、向かう先。そこはギルドです。
扉付近の壁に身体をもたげる一つの影を目し、彼女は言うのでした。
「依頼が二つ、あるんだけど――――」
□■□■□
キアーラが本部へ帰還してより間もなく。
多くの騎士が集う一室では、刺すような殺気が蜷局を巻いていました。
「団長と連絡が途絶えてから、もう一週間になる……。総動員で動き出すべきなんじゃねぇのか?」
焦燥しきった騎士の一人が、室内の者らへ問います。
件の“魔女狩り”未遂で消息を絶った、《教会》騎士団長フィオーレ。
この場にいる半数以上の騎士が、苛立つのも無理はありません。
しかし一部の騎士は違いました。
冷静沈着な様相で、返します。
「そろそろ我々も、騎士団長代理を立てねばなるまい?」
言葉を放ったのは、“魔女狩り”未遂を行った張本人であるアンシアです。
フィオーレ派の者達は怒気を露わにしますが、それを制したのは入室したばかりのキアーラでした。
「みんな、落ち着いて。
……アンシアも悪い。キミ達が発端でもあるんだから」
「いやはや、怖いなキアーラ。こうして騎士の立場を追われ、ジョルジア様の従士となり反省してる」
半ば嘲笑するように言い、シンシアは椅子へ腰かける騎士――ジョルジアへと顔を傾けます。
彼女は目を瞑り黙すばかりですが、周囲の騒めきは止みません。
アレはオーディオの娘、だと。フィオーレ様は嵌められたんだ、と。
「フィオーレが捕まったのは、よっわいからジャン!」
張りつめた空気を弾くような言葉を紡いだのは、騎士であり疑惑の渦中にあるファビアでした。
その台詞はフィオーレ派に武装を握らせるに十分でしたが、一瞬の内にキアーラの旋風がそれらを弾き落とします。
「こんな時に、私闘するつもりかな?」
キアーラの瞳が鋭く向いても、ファビアは足をばたつかせ一切動じません。
代わってジョルジアが刮目し、周囲を一瞥しました。
「魔物討伐の任が来ているのではないか――キアーラ」
「……うん」
その眼光は、かのオーディオが正義を貫いていた頃を彷彿させ、たちまち古参の騎士は押し黙ります。
圧した隙を縫うように、同じく従士へ降格したオドーが立ち上がり言うのです。
「……団長の件、原因はオレ達にあるが……《教会》騎士団に今後必要なことは、“強さ”ではないか?」
「そうだな。あの時不自然に来た王国軍など、偽物だと断じ斬ってしまえば良かったのでは?」
「そっそ。――気を抜いたら淘汰されるっショ。こっちには敵も多いんだからサ」
オドーに次いで、アンシアとファビアの言葉が室内へ響きます。
到底正論ではありませんでしたが、《教会》騎士団の苦い経験が、フィオーレ派を黙らせるには十分でした。
「…………王国軍からまだ伝令は来ていない。でも、魔物討伐はなくならない」
キアーラの言葉に、立ち上がったのはジョルジアでした。
「では、決まりだな。
この度の魔物討伐は、少々難度が高いと聞いた。……私達が片付ければ、また信頼は回復するだろう?」
ジョルジアは言い残して部屋を後にします。
「……キアーラよ、今後は魔物討伐の量を倍にしても良い」
それに続くのは、新たなる風を吹かせようと画策する三人だけ。
しかしその中でキアーラが、静かにその背を追うのです。
不協和音と共に、一行は魔物退治へと向かっていくのでした。
□■□■□
キアーラとジョルジア達がロンバルディアを抜けて半刻ほど。
突如、一行の殿を務めていたアンシアが声をあげます。
「……な、なんだ……?」
普段の冷静さを失ったアンシアの瞳が向かう先。
そこには――――銀色の髪が揺れていました。
「おや。魔物退治ですか?」
巨漢であるオドーを見下ろすほどの岩へ座り込む少女。
それは《教会》騎士団長――フィオーレです。
普段と変わらぬ柔らかい語調の彼女でしたが、何かが違います。
それは――限りなく研ぎ澄まされた、殺気でした。
「少々“解放”されまして」
言うや、フィオーレは腰に据えた剣を抜き、ぎらりと光る瞳でロンバルディアを見定めます。
「……よ、予定は違うが」
アンシアの言葉に、オドーは頷きます。
そしてメイスを掲げ、高らかと叫びました。
「…………街を襲おうとは笑止千万。…………正義の下、オーディオと同じく闇へ還してやろう!!」
キアーラとジョルジアを除く一行が、フィオーレへ攻撃を始めようとした刹那。
それを凄まじい炎が弾きます。
熱の正体は、文字通り横槍を入れる形で参じた特異者、クロエでした。
「いいえ。フィオーレの相手は私達よ。街を襲うならば全力で屠るだけ。
――無論、疑わしき貴方達も許しはしないけれどね?」
クロエはキアーラへ、視線をぶつけます。
それを皮切りに、キアーラは一転してフィオーレへ背を向け、オドー達へ冷えた瞳を向けます。
「キミ達。――――下らない戯れはもういいよ」
「…………狂った団長側に着くとは……貴様も屠るのみよ」
オドーとキアーラのギアが、激しくぶつかり合います。
それを瞳に映すフィオーレは、片方の口角を吊り上げ、手元の腰へ据えたもう一つの剣を一瞥します。
「たまには私も――暴れたくなるんですよ?」
応じるように、岩陰に身を潜めていた影が二つ顔を出します。
それは殺気を濃く纏うアルノとベルナールでした。
「そこの騎士崩れは“強さ”が欲しいのでしょう。証明して差し上げますわ」
「無論……それを後学に生かす手立てはないがね」
殺意を宿す三つの闇と、《教会》騎士団へ更なる強さを求める闇の騎士達。
その一方で、一人腕を組んでいたジョルジアは歩みを始めます。
「……ど、どうしたのですジョルジア様!?」
オドーの言葉に、ジョルジアは静かに答えました。
「何をしている? 我々の任は魔物討伐。
今も苦しんでいる民のために動く。……万が一フィオーレが町を襲うならば、その時はきっちり殺す」
言い残してジョルジアは、その場を去っていきました。
幾多もの意志と遺志が交差するこの戦い、その終着点は何処にあるのでしょうか。
担当マスターより
まず初めにシナリオガイドをご覧いただきまして誠にありがとうございます。
砂糖しろくろです。
●概要
事の発端は、暴走した《教会》騎士による“魔女狩り”計画でした。
特異者達によって収束した事件。
結局その一件は情報の交錯であるとされ、襲われた集落側の庇護もあり、《教会》騎士団全体として咎められることなく終わりました。
ただし、その責任はなかったことにならず、妙なタイミングで現れた王国軍によって騎士団長フィオーレが捕縛されます。
それを追った騎士のアルノとベルナールも、消息を絶ってしまったのでした。
それから一週間ほどの後。
かつてロンバルディア襲撃事件を引き起こした、オーディオの娘であるジョルジアが《教会》騎士団に復帰し、団長不在の中魔物討伐をこなしていきました。
そして変わらず魔物討伐の任へ着いた道中、消息を絶っていたフィオーレ達が姿を現します。
しかしその瞳には殺意の光が宿っており、彼女を葬るべく一連の引き金となったアンシア達が対峙するのでした。
時を同じく《教会》騎士団の中核にいるキアーラは、特異者達へ二つの依頼を出しました。
一つ目は魔物討伐に協力してほしいこと。
二つ目は――――フィオーレを制圧することでした。
全てを止めること。――そして魔物討伐を行うこと。
それが、あらゆる歯車が負の方向へ噛み合った、この物語を終焉に導く手なのです。
■アクションパートについて
パート【1】・【2】は同戦場で行われます。
どちらかが失敗すればどちらかの難易度が大きく跳ね上がることとなります。
戦場については背の高い樹木の並ぶ湿地帯が舞台です。
遮蔽物はありますが、奇襲をかけられるほどの距離感で並んでいるわけではありません。
また、背の高い樹木が壁となり、上空からでは様子を窺うことは難しいでしょう。
前回調査パートで騎士達と交流したPLは、事態を彼らへ伝達した上で協力を要請することが可能です。
【1】フィオーレ達を鎮圧する。 難易度:8
殺意に燃えるフィオーレ達を鎮圧することが目的となるパートです。
普段の彼女達からは想像もつかないほど、好戦的な状態となっています。
これはかつて《教会》騎士団が汽化時に精神操作をされた際と症状が似ていますが、真相は定かではありません。
彼女達を連れ去った王国軍はおらず、三人のみが相手となります。
多くの謎が含まれる中での戦いですが、キアーラからの依頼はフィオーレ達の制圧です。
そこにどのような意図があるかは不明ですが、安易であったり中途半端な説得の類は推奨しかねます。
フィオーレは迎撃術に長けています。また、定石に縛られない奇想天外な動きが特徴です。
そのうえ、今まで本格的な死闘を演じている姿を見せたことはありません。
それ故情報が少なく、未知数の技を隠し持っている可能性は高いでしょう。
今までのシナリオで見せた《教会》騎士団の技を用いる可能性は大いにあり得ますので、注意が必要です。
そして最も注意すべき点として、所持の経緯は不明ですが、彼女が聖剣アスカロンを所持していることです。
アスカロンは《教会》騎士団に代々伝わる聖剣です。
かつてロンバルディア襲撃事件時に対峙した、穢れた堕剣アスカロンとは異なり、光の力を宿した正統なものです。
秘めるマナの強大さ故に、マナを身近に感じられるストレンジャーや闇のマナを扱う者は、思うように力が発揮できなくなります。
アルノは重力を纏う斧を主軸に戦います。
基本的に近接、遠距離共にこなします。力で圧していくタイプです。
鈍重なギアを扱う割には機動力がある点に、注意が必要かもしれません。
戦術的な知識は多くありませんが、兄であるベルナールや天性の戦闘嗅覚がカバーします。
ベルナールは鍔の長い《教会》特有の長剣を扱い、定石通りの戦いを得意とする騎士です。
突出した能力はありませんが、これまで多数の戦闘経験を積んできた彼の実力は古参の騎士達に肉薄するものとなっています。
定石通り故に仕掛ける戦術がそれに近い形である場合、裏を見破られてしまい成功率は低くなるでしょう。
また、奇策は苦手ですがアルノの勘によって見破られる可能性もありますので、注意が必要です。
【2】暗躍する騎士達の制圧 難易度:7
暗躍する騎士達――アンシア、オドー、ファビアを倒すことが目的のパートです。
アンシアは隊を率いることなく参戦するため、持ち前の指揮能力は活かせません。
しかしながら個の力が脅威であることは、前回のシナリオで明かされた通りです。
素早い銃撃を活かし、戦術が乱される可能性があります。
前回威力を示した通り、指先から放たれる閃光系の銃撃は、相当な速度感を有していますので注意が必要です。
オドーはメイス型のギアを扱います。
炎を主とした攻撃が確認されていますが、一撃の重さには注意が必要です。
肉弾戦でも相当な力を発揮するため、アンシアやファビアとの連携に注意が必要です。
ファビアは暗器を主として戦います。
殺意が全くない状態からの精密な攻撃、また視認外からの狙撃には十分な注意が必要です。
初見での攻撃を躱すには相当なスキルが必要になるかもしれません。
ただし、前回彼女と対峙している方は、初見への抵抗力を持って交戦することが可能です。
今回は彼女達の目的であるフィオーレの失脚を果たす絶好の機となっています。
以前とは異なり、途中で退く選択肢は可能性として低いでしょう。
【3】魔物討伐を行う 難易度:6
キアーラは特異者達へ、予め魔物討伐を依頼していました。
本来《教会》騎士団に対して依頼されていた、魔物を討伐することが目的となります。
討伐対象の魔物はドッチオーネと呼ばれ、パダーニャで恐れられる種です。
一般的に語り継がれるガーゴイルによく似た見た目をし、主に口から吐き出す水弾や溶解液が攻撃の特徴です。
ベヒーモスやギーヴルと比較すると討伐難易度はワンランク下がりますが、非常に高い知性を持つ点に注意が必要です。
数体の個体が郊外の行路で確認されており、全体の総数は確認されていません。
罠を仕掛けることでも有名で、キアーラからはそれなりの個体数がいるのではないかと、注意を呼び掛けられています。
こちらのパートでは、単独で討伐に向かったジョルジアとクロエを除く特異者NPCが味方として参戦します。
■登場NPC
登場するNPCの数が多いため、別途マスターページに記載しています。
関わる場合は参考程度にご一読ください。
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・フィオーレ達を鎮圧する 【現在のMC参加人数:13】
・目的
フィオーレ達を止める。
・動機
どうしてこうなったかは分からないけれど、フィオーレ達の殺意は紛れもなく本物。
全力でぶつかって、止めましょう。
・手段
アスカロンに迎撃術。一番怖いのは底の見えないフィオーレの実力ね。
ひとまずアルノとベルナールがいる限り、本当に殺されかねないわ。
まずフィオーレとアルノ、ベルナールの連携を切ってから、個別で戦えるような環境を構築していきましょう。
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・暗躍する騎士達の制圧 【現在のMC参加人数:17】
・目的
ファビアを止める。
・動機
折角順当に攻めていたのに、後ろからドン、なんてことは避けたいからね。
・手段
どこから攻撃するか分からない手練れなら、全スキルを探知系にしてとにかく見定める。
その結果を味方に伝播して、止めてもらおう!
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・魔物討伐を行う 【現在のMC参加人数:19】
・目的
ドッチオーネを討伐する。
・動機
本来やるべき仕事をキアーラとやらが託したんだ。
応えてやらねえとな。
・手段
前回は地の利で厄介な敵だったが、今度は魔物そのものが強いパターンか。
敵の術中に乗せられないように警戒心を高めて迎撃しよう。
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