錆びた門に歓迎されて、荒れ果てた庭を抜けた先には、蔦で覆われた洋館が新たな犠牲者を求めるように待ち構えていました。
一つだけカーテンの開いた窓に人影を錯覚します。屋根に止まった鴉の鳴き声は不気味に響きます。
「ふっふっふー、まさに恐怖の館じゃな」
郊外に建てられた洋館を見上げて、
ルイズ・リックマンは満足そうに頷きます。
元々は住居として使用されていましたが、持ち主が手放した後にフェイトスターアカデミーの所有物件となり撮影やイベントに活用されています。
現在の不気味な佇まいは、ルイズが主催する『
マッドネス・ホラーショウ』のためにスタッフがおどろおどろしく飾り立てたためです。
「ホラー演出も得意ですよ、ライブはお任せください」
ルイズが神多品学園都市でスカウトした
三枝 智奈(さえぐさ ちな)が、えっへんと胸を張ります。
「何を言っておるのじゃ? MCは任せるからのう」
「ん~~!?!?!?」
「顔芸はやめるのじゃ」
ルイズはアイドルがしてはいけない顔をする智奈の頬を両手で引っ張ります。
「ふぁに、ふるんへふか」
「ほれ、今日は時間が押しておるのじゃ。さっさと中も回るぞ」
「しくしく、おうぼーなプロデューサーですよー」
泣き真似をする智奈の背中を押しながら、ルイズは洋館へと入りました。
* * *
パーティ用の大ホールは、すっかりアイドルのステージへと姿を変えていました。
しかし、一度、ディメンションシフトを起動すれば、恐怖の館が牙を剥きます。
スモッグや血糊、凶器のイミテーション、蠢く亡者、地獄の業火、悪魔の囁きなど様々な演出が仕込まれており、古今東西の恐怖が詰め込まれていました。
「ホラーをテーマにステージイベントをやってもらうのはもちろんじゃが、東館が空いておるからのう折角の飾り付けじゃ、『お化け屋敷』でも楽しんでもらおうと思うのじゃ」
「この屋敷で肝試しなんて洒落にならないですよ。何か曰く付きだったりしませんよね?」
智奈の疑問にルイズは怪しげに笑います。
「実は持ち主だった家族が非業の最期を遂げておるのじゃ。白いワンピースのよく似合う長女は家族で隠れんぼをしていると誰にも見付けられずそのまま行方不明となり、人形好きの次女は中庭の池で遊んでおると何かに引きずり込まれて水の中に姿を消し、両親は二人を探し続けるが遂に見付けられず母は病気で亡くなり父は事故で亡くなった……だが、今でも両親は屋敷の中を彷徨い二人の子どもを探し続けておる…………という設定のお化け屋敷をやるつもりじゃ」
「やめてください。今の屋敷には似合い過ぎて想像してしまいましたよ」
「安心せい……何も、何も起こってはおらん」
「意味深な言い方は禁止です」
ルイズが無言で背を向けて去るので、智奈は背筋に悪寒が走り慌てて追い掛けました。
「ふっふっふ」
「意味深な笑いも禁止です」
「…………」
「何も喋らないで意味深な顔も禁止です」
* * *
特異者である三枝智奈が中心になってワールドホライゾンから繋がる多くの世界にも宣伝が行われたため、フェスタ所属のアイドルだけでなくゲートを通して異世界のアイドルの出演も決定しました。
アイドルのファン以外にも、ホラーイベントを目的した者にも情報は伝わっていきます。
準備とリハーサルで忙しない日々が過ぎていき、そして遂にマッドネス・ホラーショウ開催の当日を迎えました――