交易都市ステイティオ。
久しぶりだなと声を掛けられた
宮澤 理香子は数人の部下と
ロゼール・ヴィオネを引き連れた
リゲイト・バリスに同じく久しぶりと挨拶を返します。
「今時間ある? 暇だとより好都合なんだけど」
「暇になったばかりだけど、どうしたの?」
理香子は先程受けた依頼を終わらせたばかりで午後からは予定が空いていました。これから早めの昼食を観光気分で楽しんでから帰ろうとしていたのを簡単に説明するとリゲイトは「よかった」と満足そうに言います。
「ちょっと人手が足りなくてね、手伝ってほしいんだ」
「急な話ね」
「そ。俺も急な話で難儀してるんだ。なに、難しいことはお願いしないよ。その昼食はこちらで奢るから、周辺の建物についての調査を請けてもらいたい」
事情を聞いて理香子は首を傾げます。
「それは私ひとりでは難しそうだから応援を呼んでもいいかな?」
「内緒にしてくれるのなら構わないよ」
「貴族の間で流行っているのは本当なの?」
「流行っているというより、先にも言ったけど急速に広がっているんだ。手が負えなくなる前に拡大を防ぎたいんだよ」
「危ないお薬? 違法な? でも、どうしてステイティオ?」
「まず薬物かどうかも疑わしいが俺のいとこがどうやらそれっぽいって言っててね。ステイティオは大きな交易港だけあって窓口も広く栄えててお忍びに足を運ぶ者も多いんだよ。想像しているよりももっとね。ただ、ちょっと懸念を覚えるくらいは対象が限られていて、そのせいで俺も大っぴらにできなくて困ってるんだ」
「貴族がスリルを求めて危険な遊びに興じていると?」
「そういう単純な理由であることを祈るよ。
じゃぁ、できるだけ目立たずでお願いできるかな?」
御貴族様は繊細だからと、民間ではなく貴族の間で広がりつつある事柄に苦虫を噛み潰したような顔でリゲイトは呟きます。
どうやら内々で処理するには規模が大きくなりかけているらしいのです。
…※…
「それにしても」と理香子は周りを見回してリゲイトを眺めます。
「何人か魔導騎士の姿が見えるわ」
ロゼールを始めに、以前の鹿狩りの時に挨拶を交わした魔導騎士達が何人かリゲイトの部下として紛れ込んでいました。武装も周囲に溶け込むような無難なものを着込んでいるのを見るに彼らはどうやら非公式で動いているようです。
「どうにも元素の乱れがあるらしくて。こればっかりは俺では対処できないんだよ」
自他共に認める魔法嫌いのリゲイトではありますが、この場にいる魔導騎士達は彼なりのツテを使って協力してもらっているのだろうと伺えます。
「噂によると服用すれば人間に内在している元素が乱れるらしいんだよ」
「それもその薬と関係あるの?」
「突き止めたい所さ」
少なくとも関連性はありそうだとリゲイトは苦く笑いました。