メトロポリスの付近にある炭鉱では、ストレンジャーたちが強制労働を課せられていました。
「お前らの命に価値はない! 死ぬまで働け!」
暗い炭鉱内で、罵声を響かせているのは、武器商人の
ボーンバイトです。
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ボーンバイトはそのような謳い文句で、身寄りのないストレンジャーを誘い込み、次々と地下の炭鉱に送り込んでいました。
ストレンジャーが持つ身体能力の高さを利用して、火薬の原料となる硝石を、大量に採掘するのが狙いだったのです。
彼のビジネスは大成功を収め、ボーンバイトの名は貴族たちにも知られるほど有名になっていきました。
しかし、ボーンバイトは有名になりすぎたせいで、ストレンジャーに過酷な労働を強いる『悪党』としても知られるようになりました。
その結果、ギアーズ・ギルドから討伐の依頼を出されるはめになったのです。
「……妙ですわね」
ギルドに寄せられた報告書に目を通していた
シャーロット・アドラーが、ティーカップに伸ばした手を止めて、ふと呟きました。
経歴だけを見れば、ボーンバイトはしがない武器商人です。ましてや、ここガイアにおいては、火薬の精製技術はあまり発展していません。
「硝石の発掘だけで財を成すなんて、ありえませんわ」
一方その頃。
メトロポリスの上層では、
ブラッディローズと呼ばれる真紅の美しい薔薇が、巷を騒がせていました。
ブラッティローズは最近になって市場に出回りはじめた、新種の薔薇です。
貴族たちの間でたちまち人気の品種となり、観賞用としても、ステータスの象徴としても重宝され、高値で取り引きされています。
血のように赤く、熟れた果実のような甘い香りを放つ、ブラッディローズ。
貴族を虜にするこの薔薇ですが、次のような噂が、まことしやかに語られていました。
ブラッディローズは、死者の血を吸い上げて咲いている。
☆☆☆
「もしかして、これらは関連しているかもしれませんわ」
シャーロットは二枚の報告書を読み比べながら、ある考えを抱いていました。
それは、
『ブラッディローズにまつわる噂は本当であり、ボーンバイトが炭鉱で栽培している』
というものです。
仮にシャーロットの推察が正しいとすれば、炭鉱にいるストレンジャーたちは――。
「一刻も早く、真相を知る必要があるようですわね」
シャーロットは優美な仕草で立ち上がると、特異者たちに向けて、協力を呼びかけたのでした。