――イーストキャピタル、第5区
流血帝国との最前線というわけではありませんが、この区でもレジスタンスと流血帝国との戦いが繰り広げられています。
「どいたーどいたー! ぼやぼやしてると轢いちまうよ!」
戦場を疾駆する、1台の軽トラがありました。
運転席には見目麗しい女性が乗っており、その容貌とは裏腹に荒っぽい口調で運転しています。
軽トラは戦場を突っ切って、レジスタンスのバリケードまでやってきました。
「
暁食堂です! ご注文の幕の内弁当60個をお届けにあがりました!」
「洋子ちゃん、いつも済まないな。みんな腹を空かしていてな……それで申し訳ないんだが、支払いは……」
「ある時払いで構わないよ! なんなら
委員長さんや安坂さんにツケとくからさ! 戦線の維持、がんばってよね!」
軽トラの荷台に積んでいた幕の内弁当をおろすと、そう答える女性。
高山 洋子(たかやま ひろこ)は、第5区で定食屋『暁食堂』を経営しています。
洋子は、無線機で連絡を受ければどこへでも、それこそ戦場にも弁当を届けるデリバリーサービスをおこなっていました。
レジスタンスの戦線を維持するための、縁の下の力持ちの1人といえるでしょう。
委員長こと
間宮 志保(まみや しほ)は、
安坂 銃太郎(あさか じゅうたろう)と同じく、古参のレジスタンスの1人です。
洋子は、口ではそう言っていますが、ツケについては一度も請求したことはありません。
「ありがとうございましたー!」
来たときと同じく、洋子は軽トラを爆走させて帰っていきました。
※ ※ ※
「お姉ちゃん、お帰り」
留守のあいだ、暁食堂の店番を担当しているのは妹
の葉子(ようこ)です。
食堂のなかにはダンピールからネフィリムまで居り、彼女の料理に舌鼓を打っています。
リバーサイド地区の
駄菓子屋ほどではありませんが、半ば中立地帯となっているようです。
「注文が何個か入っているけど……大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。これから120個の弁当の仕込みをして……ああ、それから今月の特製弁当のメニューも考案しないと……確か冷めにくい弁当のリクエストがあったよね……」
「お姉ちゃん!?」
軽トラから降りてきた洋子の顔色は、芳しくありませんでした。
これからの予定を反芻しているうちに、倒れてしまったのです。
※ ※ ※
「レジスタンスのみんなががんばっているのに、こんな体たらくで……」
「そんなことないよ。それよりいまは休んでよ。代わりのお手伝いさんに、来てもらうから」
洋子は、疲労が溜まっていたようですが、無理もありません。
暁食堂は姉妹2人で切り盛りしており、洋子は寸暇を惜しんで戦場へのデリバリーと弁当の仕込みをおこなっています。
葉子には決して言いませんが、命の危険に晒されたことも、片手の指では足りないほど。
しかも、ツケやある時払いが基本なので、財政もいいとはいえない状況でした。
それでも洋子はイーストキャピタルを愛する1人であり、レジスタンスや祓魔師、錬金術師に弁当を提供し続けています。
そのことを察している葉子は、いまは少しでも休んでもらい、委員長伝手で数日限りですがお手伝いさんを雇うことにしました。
その伝手というのが、特異者である皆さん達です!