――イーストキャピタル、エマヌエル祓魔学院。
「夜会?」
奥戸 星良(おくど せら)から一通の手紙を見せられた
ミネルバ・クリスティは、訝しげな顔をしました。
手紙の内容は、イーストキャピタル郊外に住む吸血鬼の亡命貴族が主催する夜会――仮面舞踏会の概要です。
「これ、定期的に開催されてるのよ。表向きは、イーストキャピタルの人々と親交を深めるためという事になっていて、主催者は毎度見知った人に招待状を送っているようだけど……あまりいい噂を聞かなくてね。
毎回、参加者の中から行方不明者が出ているって話なのよ」
「……すごくきな臭いわね。でも、どうしてそんなに怪しいパーティが野放しにされているのかしら?」
星良の話によれば、主催者はレジスタンスのスポンサーであり、活動資金や対吸血鬼武装の提供などを行っている人物という事でした。
また、彼は錬金術師でもあり、イーストキャピタルの人々に協力する代わりに、ある程度自由に研究を行う事を許されているというのです。
「そういった事情から、教会も確固たる証拠を掴まない限りは下手に動けないのよ。
実際、彼のおかげでレジスタンスの戦力は増強された、なんて話も聞くわ。
その一方で、未だに流血帝国と繋がっていて、こちらの情報を本国に流しているという疑いもかけられている。
……それに、教会も皆が皆清廉潔白な人間ってわけじゃないわ。招待されている教会関係者は“反教王派”が多いみたいだし、今の教王を引きずり下ろすために彼のコネクションを利用しようとしている可能性もあるわ」
星良は前々から内情を探ろうとしており、どうにか招待状を受け取るところまでこぎつけたようです。
「私の紹介という形でなら、他の人も入れるわ。
最初の受付で全員主催者には顔を見られるけど、会場内では仮装が必須。
あと気をつけるべきは、
・顔は絶対に隠さなければならない。
・相手の素性を探ってはいけない。自分から明かしてもいけない。
・武器を持ち込んではいけない。
この三つのルールには従うこと。
主催者の機嫌を損ねたら、真相を探るチャンスはなくなるわ。
武器については、持っていた場合は最初に受付で取られる事になる。
夜会中はずっとそこにある事になるわね」
ミネルバに目配せをします。
「主催者の吸血鬼――
クラウス卿の機嫌を損ねさえしなければ、必ずチャンスはあるはず。
そっちは私が何とかするから、ミネルバは“新入生”が無茶しないよう見ててくれると助かるわ。
招待された人の中には、“まっとうじゃない人”も少なくないはずだから。
おそらく、クラウス卿は夜会が佳境に入ったら何らかの形で動くはず。
隙を見つけたら、合図を出すから」
この夜会の事は、ミネルバからワールドホライゾンの特異者たちに伝えられる事となりました。