荒れ果てたゴダムの大地。
どんな草木も育たぬ荒れ果てたこの荒野ですが、そのど真ん中には緑に溢れる森が育っています。
人々はこの森の周りに住み、恵みを受けながら暮らしていました。
森は恵みをもたらし、この森には女神が住んでいると人々は口にしています。
ですが、それは今までの事でした。
森から現れた触手を持つ怪物。
それが人々を襲いだしたのです。
「邪神を討ち滅ぼせーっ!」
「俺達の森を返せーっ!」
今では森の入り口に武装した村人達が集まり、今にも攻め込まんとしています。
しかし、彼らは精々邪神の配下を撃退するのが限界で、迂闊に攻め込めば容易に犠牲となってしまうでしょう。
「皆さん、落ち着いて! 相手は邪神ですよ!」
誰も犠牲は出させまいと、
川端 詩織はその身を挺して村人達を制していました。
「さっき、変な仮面を付けた人が森へ入っていっちゃったし、大丈夫なんでしょうか……」
詩織はつい先ほど、ピエロの仮面のような物を顔に付けたスーツ姿の男が森へ入っていくのを確認しています。
只ならぬ雰囲気と風貌によって、話しかけることは出来なかったのですが、その姿は非常に印象的でした。
「ば、化け物が出たぞー!」
村人の1人が声を張り上げると、森からは触手の蠢かせる小型の化け物の姿が無数にありました。
形容しがたいその姿は、無機質の様に蠢き、村へ、村人達へと向かってきています。
「ど、どうにかしないと……!」
詩織はこの状況で村を守るためにも、知り合いの特異者達へと急ぎ連絡を取るのでした。
―――――――――――
恵みをもたらす豊穣の森。
一切の光が差し込まないこの森の最奥では、形容しがたい邪神のモノと思われる触手が蠢いていました。
木々を這い、迷い込んだ者を絡め取ろうとするそれからは無機質な恐怖さえ感じます。
しかし、そこに邪神の姿はありません。
「ふむ、一体どうしたのでしょうかねぇ」
仮面を付けたスーツ姿の男はその状況を見て、何か考えているようでした。
「ねぇ」
「おや?」
突如、何者かに話しかけられ、視線を送った先には一糸纏わぬ姿をした黒髪の少女が座り込んでいました。
「貴方?貴女?ううん、あなたがほしいの」
甘美な声と共に、すり寄ってくる少女からは逆らい難いものを感じます。
まるで、悪魔の誘惑の様な。
「おやおや、私にその気はありませんよ? 黒き豊穣の女神『シュブ=ニグラス』さん」
―――シュブ=ニグラス。
名前を言われた少女は少し眉を動かしますが、特に狼狽えた様子は見せません。
「あなたの苗床になる気はないんです。それでも、これから来る人たちならわかりませんけどね?」
森の、闇へと消えていく彼をシュブ=ニグラスは止める気配は全くありません。
まるで興味を失ってしまったかのように。
「ですが、彼女無くしてこの森はない。 貴方達はどうしますかね? ふふっ……」
男は狂気を感じさせる笑いを、仮面の奥から響かせていました。