勝者(ウィナー)と敗者(ルーザー)の決闘者(デュエリスト)が戦い続ける
“勝敗の世界”エデン。
五年に及んだ膠着状態を終わらせるべく考案された「フェイタル・ゲーム」が、
ワールドホライゾンの特異者の来訪を機に実行へと移されました。
“真の勝者”を決め、その者に世界の真実と都市そのものを委ねる。
新たな体制を構築し、エデンを「やり直す」。
しかし十二星は、ある事実を隠していました。
エデンの真実へのアクセスには、「地球の特異者」が必要であること。
十二星の始祖にゾディアックシリーズを与えた“神々”の正体が、三千界管理委員会の特異者であること。
全セクターのフェイタル・ゲームが終了し、各セクターの代表者が決まりました。
その大部分はワールドホライゾンの特異者が手にすることとなり、
世界の真実をかけた最後の戦いに臨みます。
* * *
――セントラル・セクター。
現在はエアリーズ家が管理するエデンの中心部に、新たな十二星が集まりました。
「全てはここから始まった……」
ノア=エアリーズは息を飲みました。
父、シド=エアリーズを退け、彼女はエリアスを継いだのです。
十二星では唯一、ゾディアックシリーズを防衛した
ルネ=ラ・ヴィエルジュがパートナーの
カノンと共に、
ノアと
クロの隣に立ちます。
ノアが周囲を見回すと、ゾディアックを手にした特異者たちがいました。
燈音 春奈――タウルス。
コトミヤ・フォーゼルランド、
高峯 ユファラス――ジェミニ。
天津 恭司――キャンサー。
ロウレス・ストレガ――レオ。
京・ハワード――リーブラ。
焔生 セナリア――スコーピオ。
桐ヶ谷 遥――サジタリウス。
キョウ・イアハート――カプリコーン。
優・コーデュロイ――アクエリアス。
ダリル・ヴァンパイア――ピスケス。
「全員揃いましたね。それではこれより、ゲートを開きます」
フェイタル・ゲームの審判である
ヴォーパルの呼びかけに応じるように、
ゾディアックの力が集約し、“鍵”になりました。
「当初はゾディアックを継いだ人で戦って、最後に残った人が優勝、ってことだったけれど。
結局のところ“決勝戦”はどうなるのかしら?」
ルネの疑問に、ヴォーパルが答えました。
「偉界の門が開かれた影響で、中央管理棟の中は一部が『偉界化』しております。
最深部に辿り着くには、そこを突破しなければなりません」
「ふむ……アクセスするための条件は満たした。そうなると、あとは誰が最初に辿り着くか、ということになるか」
クロがヴォーパルを見上げます。
「ここから先はわたしが関与するものではありません。どのようにして“真の勝者”を決めるかは、皆様次第です」
「まぁでも、とりあえず……進まなきゃ始まらないよね」
ノアにもルネにも、他の十二星を出し抜こうという意思はありません。
ノアはこの都市と、世界について知るために。
ルネは十二星を継いだ特異者たちを見極めるべく、最深部を目指す、それだけです。
そこへ、一つの影が飛び込んで来ました。
「パパっ!?」
「……! ノア、離れなさい」
それは
シド=エアリーズの姿をしていましたが、禍々しい偉能力のオーラを纏っていました。
「…………」
シドは剣を手に取り、周辺の施設に斬撃を飛ばします。
「セクターDのフェイル・ルイナーの残骸の内にあった“破壊の意思”。
それがシド=エアリーズ様の身体を利用しているようです」
ヴォーパルがバイザー越しに分析し、事実を告げます。
「ここが壊されれば、最悪エデンの全都市機能が止まるわ。それは食い止めないと!」
ルネはすぐ、「かつての十二星」にこのことを伝えました。
* * *
「何をやっている、シド=エアリーズ。フェイルに後れを取るとは」
『都市の停止、それだけは絶対にあってはなりませんわ! 長老、あなたも困るでしょう?』
『……致命的だな。こちらも手を打とう』
かつての十二星たちは連絡を取り合い、“ルイナー=シド”に対抗すべく動き始めました。
「ザック。動けるか?」
『アダムか。……ああ、問題ない。ユージーンとルシールはまだ動けそうにないがな』
「あの二人は元々戦力として考えていない。
隠居していたレオのジジイにも連絡がついた。
カルロとクラウスは既に向かっているが……フェイルに足止めを食らっている。
手があるに越したことはない。
……まったく、ゲームが終わるまで動かずに済むと思ったんだが」
しかし一人だけ、連絡がつかない者がいます。
「
ウォルター=アクエリアス。なぜ応じない……?」
* * *
――セクターE、レオ邸。
「なるほどの。扇動者はお主の推察通り
シヴァであったと。
彼奴は偉界のシステムと決闘者を利用し、トリシューラを手に入れようとしている。
して、そのトリシューラとは何じゃ?」
木戸 浩之の報告を受け、
獅子 サイガが言いました。
「“聖具”トリシューラ。シヴァのみが扱える概念兵器。
シヴァの司る、“破壊”の概念をこちらの位相に付与、出力するためのデバイス。
超越者は存在するだけで世界を乱すほどの力を持っているから、
影響しないレベルまで力を制限しないと世界に干渉できない。
だけど神のアバターには、それぞれ対応した聖具がある。
それを用いることでアバターの力を完全に引き出し、世界に影響を与えることができるようになる。
要するに、シヴァがトリシューラを手にしたら破壊神としての力を全力で振るえるようになるということよ」
紫藤 明夜がサイガに説明します。
「かつて私たちがシヴァと戦った時、まずやるべきはシヴァとトリシューラを引き離すことだった。
恭耶の策でどうにかできたけど、代償は大きかったわ……。
完全に破壊したはずだけど、取り戻す方法がないわけではない。恭耶はそう考えてずっと警戒していた」
それが現実になろうとしていました。
「じゃが、それほどの力を持つ偉界の力など……」
「サイガ様、一つだけあります」
その時、思いがけない人物が部屋に入ってきました。
「セクターD、フェイル・ルイナーの残骸。今頃、“彼”の手の内でしょうね」
「ユニス! その姿……」
それは収監していたはずの
ユニス=アクエリアスでした。
同調者となった彼女は牢を破り、ここまで来たのです。
「そのシヴァとやらに、力を渡さないようにする。その意味で、目的は一致しているわ。
どうかしら? まぁ、止めようとしても――力ずくで向かうけれど」
「俺たちも行きますよ。同じ同調者なら、万が一の時にも対応できるでしょう」
「借りはありますが、あなたは危険過ぎますので」
御子神 ナギサと
エリザがユニスを睨みました。
「ふふ……ずいぶん頼もしいわね」
そう言って、ユニスは不敵に微笑みました。
* * *
――セクターD。
「おお、素晴らしい! これこそが私の求めていた真の偉能力です。
偉界の力と融合し、まさしく彼自身が“一つの概念”となったと言えるでしょう。
破壊という、ね」
究極の力を手にし、嬉々として振るう
ハンドレッドを見て、ウォルターは微笑みました。
彼の隣には
ウォルシンガムがいます。元々のパートナーである
ヘレナの姿はありません。
ハンドレッドは取り込んだルイナーの力を存分に振るい、フェイルを、セクターDの残党を蹴散らしていきます。
そしてついに、“外”との壁にすらも穴を開けてしまいました。
「あれは何ですかな?」
「かつてこの世界を滅ぼしたモノ、ですよ。
いえ、現在進行形でこの街を取り囲んでいますが」
穴からは
巨大な黒い手が伸びてきました。
ハンドレッドがそれを消し飛ばしますが……散り散りになって降り注いだ黒い塊が蠢き、異形の怪物へと姿を変えました。
「さて、完成した偉能力はあれにどの程度通用するでしょうか。
最後の実験と――」
次の瞬間雷電が迸り、スーツと侍女服の二人組が現れました。
ナーガと
アルマです。
「さすがに見過ごせませんな、元アクエリアス様。セクターDの残党を利用して何を企んでいるのやら。
隣接セクターの準管理者として、対処させてもらおう――アルマ」
「はい」
ウォルターへと槍先を向けるアルマでしたが、危険を感じて咄嗟に両者とも飛び退きます。
「回りでごちゃごちゃうるせぇよ。オレに用があんだろ?
ひゃははは、決闘者でもフェイルでも何でも来いよ。全部まとめて相手してやるからよォ!!」
* * *
―――???
「……さて」
シヴァは読んでいた本を閉じて立ち上がり、
霞ヶ城 光祈と
坂橋 闇鳩を見遣りました。
「私はそろそろ行くが……君たちはどうする?」
光祈は微笑み、闇鳩は顔を歪めました。
「行きますよ、結末を見届けに」
「……それしかできないからな。“傷”が癒えるまでは」
そして、彼らより後に加わった「新たな仲間」に目線を移します。
「見ておくかい、これから君の敵になる者たちを――」