“灰色の世界”ガイア。
この世界は「ギア」と呼ばれる機械が発達し、文明を支えていました。
始まりは、そのギアにまつわる一つの噂でした。
ギアの起源となる
七つのオリジナル・ギアがあり、
それらを搭載した七体の汽人――
「起源の七体(オリジナル・セブン)」が存在する、と。
結論から言えばそれらは実在し、「起源の七体」を手に入れるために暗躍する者たちがいました。
ワールドホライゾンの特異者は現地のギアーズ・ギルドと協力し、
星導士(ウィザード)として起源の七体を守るべく戦ってきました。
しかし“黒幕”にとって重要なのは、
メグ(M.G)――マリア・グレイただ一体であり、
彼女は
究極の越界聖具「アーカーシャ」の鍵だったのです。
アーカーシャを手にし、ガイアだけでなく、三千界をも手に入れんと目論む黒幕の名は
レオンハルト・シュヴァルツ。
ライン帝国の現皇帝レオンハルト一世です。
自国の首都を生贄とした狡猾なやり方で彼は世界を揺さぶり、アーカーシャを呼び覚ましました。
しかし、アーカーシャの器となったメグは今も内側から抵抗を続けており、皇帝の前から姿を消します。
アーカーシャが転移した場所。メグにとって馴染みの深いそこへ、皇帝はすぐさま向かいました。
その場所は――。
★ ★ ★
――ヴィクトリア連合王国、メトロポリス最上層「ホワイト・タワー」
連合王国の星霊機関「クイーン・ヴィクトリア」が置かれた塔の中は、混乱に陥っていました。
「管理室に突如、膨大なマナの反応が発生。星霊機関に異常が起こっています」
『原因は分かってるわ。わたしが直々に対処します』
ギアーズ・ギルド総本部の通信室に、総代表
シェリー・バイロンの声が響きました。
原因とはすなわち、アーカーシャの出現です。
『……とはいえ、わたしの力でも長くは抑えられないわ。
他国の星霊機関の力を借りた上で、“彼女”を引っ張り出す必要がある』
総代表からの言伝を受けたギルド職員は、各国のギルドに連絡を行いました。
それが終わった直後、突如通信ができなくなります。
「なんだ、マナが阻害されているのか?」
「そのようです。メトロポリスの各所でギアに異常が発生。交通機関も乱れております」
アーカーシャの影響は、すぐに階層都市全体に波及していきました。
★ ★ ★
――メトロポリス上空。
「さあ、迎えに来たぞ。我が花嫁よ!」
アレクサンダー社製の最新型高速スカイシップから、レオンハルトは側近の汽人――
リンクと
レヒトと共に飛び降り、
ギアの力で空間を裂いてホワイト・タワーに飛び込みました。
時を同じくして、『界賊』
グリムが乗るノーチラス号もまた、船の力でメトロポリスまで飛んできました。
ウィリアム・ヘルシングと
ウルフマンはノーチラス号を降り、アーカーシャの元を目指します。
「いいんだぜ、ウルフマン? 無理に来なくたって」
「メグをこっちに引っ張り戻すんだろ? そりゃすげぇ怖いさ。
けど、ちゃんと俺が生きてるってのを見せてやんなきゃな」
ウルフマンがにっと笑いました。
『あーあー。聞こえるかい、ウィル?』
「その声はサンジェルマンか?」
『うん、聞こえるってことは、君はもはやこっち側ということだね』
サンジェルマンはウィリアムに状況を説明しました。
『今、世界中でギア……いや、マナを用いたもの全般が変調をきたしている。
だが、例外的に影響を受けていない物がある。
この世界の外側から来た者――特異者たちと、その所有物だ。
だが、この世界の外側から持ち込んだ力は、アーカーシャによって異物として拒絶される。
ろくな力を発揮できない。
まぁ、この世界でウィザードとして活動している者にとっては何の障害にもならないだろうさ』
「つまり、まともな戦力になるのはごく一部ってことか」
『我らが盟友たちにもこの声は届いているだろうね。
今、この状況を打開できるかは特異者の皆にかかっている』
サンジェルマンは既に、
シャーロット・アドラーを介してワールドホライゾンにもこのことを伝えていました。
★ ★ ★
――メトロポリス第三層、第三区。
「シャロ、後ろだ!」
「はい!」
シャーロット・アドラーと
ジェーン・モ―スタンは緊急事態への対処のため、
第三層へ来ていました。
そこで遭遇したのは、
汽人の暴走です。街を巡回していた汽人兵だけでなく、
貴族の召使い、人型ではない区警察の警備ロボなど、異常をきたしているものは多岐に渡ります。
「多くの方は自宅に籠っていますが、外に出ていた方は『ニュー・セントラル・シアター』に避難してもらっています」
「第二区は?」
「『メトロポリス星導学校』に」
「……ったく、普段安全な上層が危険地帯になるとか、勘弁してほしいぜ」
その時、遠方――第四区から火柱が上がり、凄まじい熱波が第三区まで飛んできました。
「なんですの、あれは……?」
「
アグニだよ。
アレクサンダー社製の義体と汽人会の研究成果を利用した、“神”のアバターを宿した汽人」
いつの間にかシャーロットとジェーンの前に、
サンジェルマンと
クラリス・バルサモ、そして
アドルフ・ワーグナーが立っていました。
「ニュー・セントラル・シアターの方は私の旧友が守りに向かった。グリムというのだがね。
あとは暴走している汽人たちと――あれを止めるだけだよ」
「そのために、あたしを呼び戻したのね。まぁ、今まで何をしていたのか問い詰めたいところだけど……」
今度は七色の光がアグニのいる場所に降り注いだ。
「あれは
ヴァルナだ。面倒に面倒にが重なったってわけだ」
「あなた誰ですの……?」
「……説明は後だ。あれを放っておいたらやべぇ。俺たちが止めに行く。
あんたらは、この世界の住人だ。街の方を見てやれ」
★ ★ ★
――メトロポリス第二層、第七区。
「やぁ、お迎えご苦労さん」
シャーロットとジェーンが不在となったギアーズ・ギルド第七支部を急襲した
ペコは、
ブレイク・マグノリアを連れて外に出ました。
押収されていたブレイクの杖型ギアを手渡します。
「まぁ、特異者以外突然ギアが使えなくなるなんて思わんよなぁ。
さて、上が面白くなってるようやし、“アグニ”の成果確かめたらさっさとおさらばしよか。
……次は連邦あたり行ってみるかね」
メトロポリスの各地で騒ぎが大きくなる中、世界各国でも動きがありました。
★ ★ ★
――パダーニャ王国首都、ロンバルディア。
「教皇か。騎士団のこともずっと放っておいて、今更何なんだよ?」
「猊下ですよ、げ・い・か! 教会のトップ直々に、フーリアを連れてきてくれってお願いされたのですから」
フィオーレを筆頭とした《教会》騎士団と、起源の七体の
フーリアは、
教皇の命を受けロンバルディア大聖堂へやってきました。
「レオンハルトをぶっ殺すのが先だってのに」
「この仕事は、フーリアにしかできないことなのです」
フ―リアのオリジナル・ギアを星霊機関に接続し、霊脈に働きかけてマナをコントロールする。
アーカーシャに働きかけ、同じ起源の七体の一人をこちらに戻すために。
しかし、大聖堂の扉を開いた時、そこにいたのは――
「待ってたっスよ!」
ただ一人、生き残っていた敵である
バルメでした。
「盲点だったっスね。まさか星霊機関が教会にあるなんて。
でも、教会とギアの関係を考えれば、誰も見向きもしないっスもんね。
まぁ、こっちにも“人間としての意地”があるっス。
ってなわけで――“中身は”もらうっスよ!」
★ ★ ★
――コロンビア合衆国、ヨークシティ。フロンティアタワー。
「よぉ。ずいぶん痛々しい姿になっちまったなぁ」
「それはお互い様でしょう?」
トレント・ゴアは
ノーマ・クラブトゥリーを連れ、
ヨークシティの高層ビル、フロンティアタワーにやってきました。
目的は星霊機関『J・D』にノーマが触れることです。
特異者たちの戦いで深手を負った
ケイ・フリーマンは全身に包帯を巻き、
隙間からは焼けただれた皮膚が見えます。
しかし、ギア摘出装置のあった左腕だけは、異形と化していました。
「世界の安定化のためには、星霊機関とギアによる包括した世界管理システムが要る。
ノーマ・クラブトゥリー。あなたのオリジナル・ギアは新世界の礎となるのです」
「そんなん知るかよ。大将をこんなにしたんだ。覚悟しな」
その頃、ゴール共和国では“輸送王”
クローデル卿の手引きで、
マーヴェルがルーヴルの星霊機関へのアクセスを行っていました。
その一方、瑞穂皇国では既に
皇 蒼のギアが敵の手に落ちており、奪還は困難となっていました。
★ ★ ★
――ライン帝国、グロースベル王宮。
「環様、トワ様! 桜華さんは?」
ウィリアムと別れ、帝国の聖霊機関『カイゼル』の対応に回った
瑞野 春緒は、
トワイライト、
水元 環と合流を果たしました。
「……ただの一族内の争いだ」
「星霊機関『カイゼル』を押さえる。そのために、ワタシの力がいる、と」
クーデターに紛れて潜入した特異者の情報により、星霊機関が王宮にあることは分かっています。
「俺はトワを星霊機関まで送り届けるよう言われただけだ。
足を引っ張るようなら切り捨てる」
「わたくしも、皆様も……おかげさまで、強くなりましたわ。その心配はいりません」
その直後、王宮の廊下が“影”に飲まれました。
――ちゃんとお留守番はしないとなのです。
星霊機関に向かう特異者達の前には、王宮の使用人――親衛十汽の生き残りが立ちはだかります。
★ ★ ★
「はっきり言うわ、恭耶。あなたは間違っている。その世界に生きている人たちは、世界の添え物じゃないわ」
桔梗院 恭耶と
桔梗院 桜華の間に入り、
紫藤 明夜は言い放ちました。
「お久しぶりです、桜華様。昔はお世話になりました」
「すっかり大人やね、明夜ちゃんも」
その後ろでは、
桔梗院 咲耶と
キョウ・サワギが向かい合っています。
「お兄様ラブなのは構わないが、いい加減成仏してくれたまえ」
「あら、キョウちゃん。あなたが身体を渡してくれてもいいのよ?」
「いいのかい、明夜。こんなことをしていて。俺たちの問題は、この世界の行く末とは関係ない。
……が、お婆様――超越者は敵だろう?」
「バカね、恭耶。だから私がここであなたを止めるのよ。私たちは、こういう時のためにいるんだから」
★ ★ ★
「究極の越界聖具が誕生し、世界が――三千界が変わろうとしている」
メトロポリスの一角で、一人の男が呟きました。
「神のアバターも降りてきた。はは、面白くなってきたね」
その場違いな男が立っているのは、メトロポリス星導学校の正門前でした。
それを見つけたノエルが言います。
「ちょっと、何してるんですか田中さん! 危ないですよっ!」
「フフ、分かってないなあ。
ここはオンラインゲームなんだから危なくなんてないのさ!」
田中全能神は
世界を勘違いしていました。