黄昏の世界、ゴダム。
世界に蒔かれたスポーン因子によって、
人間を含む多くの知的生物が邪神群となり果てた、醜き世界。
この世界を訪れた特異者たちは、エミリアやイサミ、ステラ、マイケルといったこの世界の住人と知り合い、共に戦いや冒険をしてきました。
その結末にあったのは、エクソダスという計画。
それは、この腐り果てた世界を脱し、
別世界へ精神を転移しようとする試みです。
そして、それは実行されようとしていたのです。
* * *
首都ゴダム郊外、バーレット邸。
エミリアが目を覚ますと、そこには一人の老人がいました。
「あ、お爺様……」
「お目ざめになりましたか、スルターンよ」
マギウス界の泰斗と呼ばれる、
リチャード・バーレットは、
エミリアの母方の祖父であり、
眠りつづけていたエミリアはその屋敷に保護されていたのです。
「スルターン?」
「魔道書アル・アジフを手にした者に与えられる尊称だよ。
エミリア、お前はマギウスの王となったのだ」
「私はただ、お父様を……ポーリーンを倒したかっただけなのに」
そこにドリームランドの門を抜けて、
高杉大介と
川端詩織が姿を現しました。
「エミリアさん!」
「目覚めたみたいだな」
「みんな……決めたわ、お爺様。
私が命令すれば多くのマギウスを動かせるのよね?」
「無論だ。婿殿を――いや、婿殿の姿を借りた太古の異形を倒すのだな?」
「はい」
(私も協力するわ!)
そこに円錐形の巨体を揺らしながら入ってきたのは、
メガラニアからきた
ポーリーンこと本物のバーレット卿でした。
(はじめまして、女子大生のポーリーンです♪)
「お父様!」「婿殿か」
エミリアとその祖父は即答しました。
(え、何でわかるの?)
「異形になり果てたマギウスは数あれど、
女子大生を名乗る奇矯な者は婿殿しかおらぬ」
「……相変わらずバカなんだから」
(ふむ。感動の再会はこの辺で終わりにしておくか。
……我が友ポーリーンが行うエクソダスを阻止せねばならぬ。
エミリアとお養父さん。月への門を開けてくれぬか?
そこでエクソダスは行われる。
奴の持つサンの七秘聖典を抑えるための方法は用意した)
バーレット卿がハサミでつかみながら二人に見せたのは、
サンの七秘聖典のコピーであるナコト写本でした。
そしてエミリアたちはマギウスたちの協力によって、
月へと向かったのでした。
* * *
一方、首都ゴダムの政府庁舎“墓標”。
「どういうこと? 急に邪神が現れるなんて」
任務から戻ったばかりのデルタフォース隊員の
アリソンは
目の前の事実に愕然としました。
そこには石で出来た像にも似た異形が。邪神チャウグナー・フォーンです。
「召喚者もいないのに……もしかして“喚び逃げ”」
かつてバーレット卿が行った悪行をアリソンは思いだします。
そして大統領執務室では。
(君とはまともに戦っても勝ち目はないのでね。
……百柱の邪神が召喚される。エクソダスが終わるまで倒しつづけて頂こう)
ポーリーンの声が終わると同時に目の前に邪神が召喚されたのです。
「なるほどな。
たしかに百いなければ我が動き止められんだろう……な!」
ノーデンス大統領は、一撃で邪神を殴り殺したのでした。
しかし、その間にも続々と邪神は召喚され続けています。
* * *
同時期。
ゴダム中に
ガブリエル・サブロフの声が響き渡りました。
(ついにエクソダスの準備は整いました。
この腐り果てた世界を脱し、別世界へ旅立つ日が来たのです!)
その言葉にひかれ、多くの者たち――その中には多数のスポーンもいますが、首都ゴダムに集まり始めていました。
そしてミカワヤのアジトでは。
「ガブリエルの奴、エクソダスなんて……なんでやってんだ!」
マイケル・サブロフは壁を叩きつけました。
「あれは、マズいな。
……他の世界への移動ってのは莫大なエネルギーが必要なはずだ。
鍵守がいればともかく……まあ、やられたらその反動でこの世界も危ないってことだ。スポーン化の初期状態なら治療できる薬でも開発中だってのに、このままじゃ元も子もない」
境屋も苦々しい顔をしながら言いました。
そこに。
「アハッ♪ ようやく会えたね!
……なら、マイケル君、一緒に止めにいこうよ」
「
ウリエラ!……お前どうしてここに」
「だって、ガブリエル君にがどこかいったら、
私たちの結婚式に来てくれる人、少なくなっちゃうよ」
「いや、お前とは結婚しないけど……分かった。
あのクソ親父からの言葉も伝えてやんねえといけねえしな」
「わ、私もいきますぅ!」
「この太った子、誰?」
「ひ、酷いですぅ!
今度こそあの人を止めるためにクッキーをいっぱい食べているんです」
それは、ルルイエから帰還した
ステラでした。
ステラもまたガブリエルを止めようとしていたのです。
「ステラちゃんはこう見えても邪神だからな。頼りになるぜ。
……行くぞ」
マイケルはウリエラとステラ、
そしてファミリーのの精鋭と共に墓標へと向かったのです。
* * *
墓標最上部。
「来るんだね。兄さん。……だが、エクソダスは止めさせはしない
みんな、兄さんみたいに強くはないのだから」
ガブリエルはその力で鍵であるヨグ・ソトースを掲げ、力を注ぎこみました。
* * *
月面では。
「早く来ねえかなあ……みんな殺してやるのによ!」
トラペゾヘドロンボーイが頭上のミ=ゴの艦隊を見ながら呟いていました。
* * *
そして月の内部では、
バーレットが
イサミを巨大な魔法陣の上におきながら、儀式を行っていました。
「エクソダスを望む者の数も増えたな。
……新世界へたどりつき、かつ向こうの生物の体に入ったとしても、
殆どの者は耐えられず発狂してしまう。
数は多ければ多いほどよい。……この世界の証を残すために!」
その言葉を聞きながら、イサミは涙を流していました。
(僕は、この世界も、出身地も……壊したくない)