――可愛いジェーヴィ。いいかい、外に出てはいけないよ。
妻が事故で亡くなってから、男は毎日口癖のように娘にそう言った。
どうかわかっておくれ、と。
もしお前にまで何かあったら、私は生きていけないから、と。
「…はい。もちろんですわ、お父様」
その愛情を知っていた。
その悲哀を解っていた。
だから、少女は頷くしかなかった。
お気に入りの本をぎゅっと胸に抱き締めて。
擦り切れそうなほど読んだそれは、もう内容をそらで言えるくらいだったけれど。
「わたくし、お部屋で本を読んだり、お歌を歌う方が好きですもの」と微笑んだ。聞き分けのいい子供の振りをした。
――ああ、いい子だ、愛しいジヴ。お前は私とイリアの大切な宝物、何に代えても守ってみせるとも。
まるで己に誓うように何度も繰り返し、父親は愛娘を抱き締め、何度も頭を撫でた。
その肩越しに窓の外の青空を眺めながら、少女は言いかけた言葉を飲み込む。
(…でも、お父様、わたくし――)
本当は、ちっとも“いい子”じゃないのです。
裸足で草原を歩いたり
木に登ったり
おやつの時間でもないのにお菓子を食べたり。
夢の中ではいつもそう。
この本の中のお姫様のように。
いい子でいたくないのですわ、お父様。