●糸の一撃
ギチ……
ギチギチ……
(すり鉢をする音が聞こえるな…… 台所に居るのは2名。だが紅桔梗を作る作業に集中しているようだ)
蝉丸を装着し霊力の感度を上げた
春夏秋冬 日向は、職人達の気配に全神経を集中させ状況を把握する。
屋敷内はかなりの静けさで、職人の居場所を感知するための霊力の消耗は激しかった。
蝉丸だけでなく、ユニークエクステンダーも活用する。
(さて、俺はどう仕留めるかな)
日向が居る場所は、凛音達と一旦待機していた隠し通路だ。
残る職人が居る台所まではほぼ一直線だが、日向も焔子同様、会話をしている時の職人の“隙”に気付いていた。
(作業に集中しているから気付かれにくいか……? いや、油断は禁物だ。片方が気付く可能性もある)
さらに詳細に状況を確認するために、隠し通路を静かに進んで行く。
「やあやあ……精が出ますなぁ……」
「まだまだ沢山材料はありますなぁ……また儲かってしまいますなぁ……」
日向は探索隊が作った見取り図で見付けた、台所の天井に繋がる二階の隠し通路に出た。
(天井が剥がれている場所がある。職人の視線は二人とも下……ここから覗けばより詳細に位置が確認できる)
下の方を覗いてみると、職人達が背中合わせに作業をしているのが確認できた。
と、その時。
「はぁ~……これは参りましたなぁ……」
職人の発言に異変を察知し、日向はさらに気配を静めて様子を見る。
(気付かれた? いや、まさか……)
片方の職人は立ち上がり、床にすり鉢を置きっぱなしにして歩き出した。
(なんだ?)
「おやおや、どうされました?」
「鎮痛剤が足りませぬ…… 蔵へ取りに行かなくては」
「ああ、あれが入っているお陰で体調も良くなる優れた薬と言われているのですものねぇ。いってらっしゃいませ」
ホッと肩を撫で下ろす日向。
薬を取りに向かった職人が台所から出て、完全に気配が消えた瞬間を狙って絶影を展開する。
自身が隠れている天井に空いた大きな穴から下に着地した。
そして着地と同時に……!
ドッ
影霊糸が職人の心臓を貫く。
わずかな声すら挙げる事すらできず、職人は座ったまま砂となっていった。
「痛みを感じる暇すらなかっただろう。まあ、ゆっくり眠ってくれ……」