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Illustrator : NP

(この世界の住人か? 見た感じ日本人だが……)
勇人は女性を見た。隣には、秘書らしき人物の姿がある。
顔つきは女性っぽいが、全体的に中性的で性別が判然としない。
「私は紫藤 明夜(しどう めいや)。この『ワールドホライゾン』の管理を任されているわ。
立場的には“市長”ってところかしら。と言っても、ここには君たちよりも少し早く来ただけなんだけどね」
「ワールドホライゾン?」
「明夜さん、ちゃんとそこから説明してあげないと。
あ、私はクロニカ・グローリーです。今は明夜さんのお手伝いをしています」
小柄な少女の疑問に、クロニカが応じた。
「それもそうね。じゃ、クロニカ。説明よろしく」
「って、私がですか? ……はい、分かりました」
こほん、と咳き込み、クロニカが説明を始めた。
「ここワールドホライゾンは、三千界のどの世界にも属さない『世界と世界との境界』です。
時空間から切り離された、様々な世界との中継地点といった感じですね。この街並みを造ったのは、
私や明夜さんみたいに君たちよりも前にここに来た人たちです。とはいえ、まだまだ発展途上ですけどね」
「人が増えてくればもっと色々できてくると思うわ。若い子たちが増えたし、
『ホライゾン・アカデミー』はそろそろ動かせそうね」
明夜が口を挟んでくる。
「ホライゾン・アカデミー?」
「三千界には様々な世界があるわ。けれど世界によって、常識も働いている法則も異なる。
そういった情報を共有する場よ。まあ、学校みたいなものね」
今の勇人たちがそうであるが、ここに来た時点では何も分からない。
これからも自分たちのようにやってくる人がいるなら、そういった場が整っていることにこしたことはない。
「クロニカは、元の世界では先生やってたみたいだから、教えるのは上手なはずよ。
今現在分かっていることは大体把握しているから、何かあれば彼女に聞くといいわ」
「……丸投げですか、明夜さん」
そう呟きつつも、クロニカが手元にタブレットコンピューターのようなものを用意し、操作した
「今現在ここから行ける世界は一つ、『アルテラ』です。協力を得て、既に各地で“異変”に対処しています。
人と亜人――エルフや獣人ですね、が共存している世界。
『西洋風ファンタジーの世界』をイメージして下されば、どういうところかは分かって頂けるかと思います」
「待った。俺たちを地球から呼び寄せたんだ。だったら、こっちから地球に戻ることもできるんじゃないのか?」
なぜ、行ける世界が一つしかないのか。
その問いに答えたのは、クロニカではなくヴォーパルだった。
「今は、三千界全体が非常に不安定な状態にあります。そのため、ゲートの維持が非常に困難なのです。
『特異点』ともなれば、尚更です。三千界が安定しない限り、こちらから地球へのゲートを開くことはできません」
申し訳なさそうに、俯く。
「鍵守、もう一つ重要なことがあるでしょ」
「はい。今、アルテラへのゲートしか開いていないのは、三千界に異変が起こった時に、
『世界の鍵』が散ってしまったからなのです。わたしの元に残っていたのは、
アルテラの鍵と、あなた方を呼ぶための召喚
鍵だけでした」
「それじゃあ、手詰まりじゃない!」 少女が声を張り上げた。
「いいえ。『鍵』は、三千界において特別な力を持った――『聖具』の一種です。
それは、大世界に、それぞれ役割は異なるものの、存在しています。
『聖具』には、同じように特別な力を持ったものを引き寄せる性質があるため、鍵も大世界のどこかにあるはずです」
「アルテラにも、か?」
「はい」
鍵を見つければ、次の世界への扉が開かれる。
さらにヴォーパルは言う。「その世界で起こっている異変を解決できれば、鍵は自ずと姿を現すでしょう」と。
そして、こうも告げた。
「三千界の“神”は、あなたたちの味方です」
勇人は思考を巡らせた。元の世界に戻るために、いくつもの世界を救っていく。
まるで、ありふれた物語のようだ。だが、今自分に起こっていることは現実だ。
そして……自分は、そういうものを求めていたのではないか。
「……正直、まだ全部は信じ切れない。だが、それが俺たちにしかできないことなら――やってやろうじゃないか」
「ちょっとあんた、それ本気なの!?」
少女が勇人を見上げ、声を荒げた。
「ああ。ここでじっとしてたところで、何も解決しないだろうしな」
「でも……!」
彼女と目が合う。
勇人の強い意志をくみ取ったのか、少女も意を決した。
「……世界を救う、か。そうね、何もしないでいるよりはよっぽどマシよね」
口では不本意そうにしているものの、彼女の青い瞳には強い光が宿っている。
「そう言って下さると思っていました。しかし、あなたたちにお願いするのは決して生易しいものではありません。
無事、三千界を救うことができた時は、あなたたち一人一人の願いを一つ、叶えて差し上げます」
「できるの、そんなことが?」
「今は無理ですが、世界が安定した状態であれば使える『願いを叶える聖具』があります。
その力をもってすれば、可能です」
「どんな願いでも?」
「……はい」
それが、世界を救うことに対する見返りだ。
億万長者でも、不老不死でも、人が想像でき得る限り叶えられないものはないという。
「お二人には、こちらをお渡しします」
ヴォーパルから渡されたのは、カードスロットのようなものが付いた機械だった。
「アバター・トランスフォーメーション・デバイス。略称はATD。様々な世界を渡っていく中で、必要不可欠なものです」
「アバター?」
「異世界における姿であり、あなたたち自身がその世界の力を使いこなすために必要なもの。それがアバターです。
世界ごとに常識も法則も異なるため、その世界に適応した姿にならなければいけません。
これは、そのために欠かせない道具です」
二人はそれを装着し、明夜の案内でゲートへと向かった。


「ここが本部よ。ゲートはこの中にあるわ」
ひと際目立つ建物が鍔姫の視界に入る。
街並みに反して、中は現代的な様相だった。
「ゲートを抜けると、アルテラの西部にあるコルリス王国に出るわ。今、“異変”が起こっているのはそこよ」
歩きながら、鍔姫はゲートの説明を聞いた。向こうの世界に行っても、
特定の場所からならこちらに戻って来れるということである。
「初めて行く時はどこに出るかは分からないけど、報告を聞いた限りじゃあ、どこかの町の近くには行けるようね。
向こうから戻ってくる時は、そのATDに座標が記録されるから、同じ場所に出れるようになるわ。
戻るためのゲートは、人が集まる場所には大体あると思うわ」
明夜と話しているうちに、鍔姫たちはゲートの前へと辿り着いた。
そこには先客がいた。
「あら、境屋(さかいや)のおじ様。店の外にいるなんて珍しいわね」
「なに、ここんとこアバターを持たずにここを通ってくヤツが多いって聞いたもんでな。
ここにいりゃ確実だって思ったわけよ」
無精髭を生やした、ぼさぼさの髪の中年だった。
煙管片手に甚平を羽織り、下駄を履いた出で立ちは、この場において実に際立っている。
――只者ではない。なぜかは分からないが、そう直感せざるを得ない、雰囲気を纏っている。
「そこの若ぇの。アバターのことは聞いてるだろうが、そいつには最初から入ってるわけじゃねぇ。
『アバターの素質を持った人物』との接触が引鉄になって、登録されんだ。本来はな。――こいつを持っていけ」
彼が取り出したのは、二枚のカード状の物体だった。
「ここに、アバターの情報が詰まってる。そいつに読み込ませな。それと鍵守、まとめて渡しておくから、
今度から来るヤツには登録済のを渡してやれ」
カードを受け取り、ATDに読み込ませる。
ヴォーパルもまた、境屋から大量のカードを受け取っていた。
「こんで、そのアバターになれるはずだ。『アバターチェンジ』って言ってみろ」
「え、言わなきゃダメなの?」
「昔っから変身する時には何か言うって相場が決まってんだ」
「アバターチェンジ!」
一緒にここまで来た少年が叫んだ。彼の姿が変化し、ガントレットにヘルムが装着され、手には剣が現れた。
それを見て、鍔姫も続く。
「……まあ、別に叫ばなくてもいいんだがな」
「騙したわね!」
「その方が雰囲気出るだろ?」
ニヤニヤと境屋が笑う。鍔姫の制服の上にはローブが、手には厳つい――ドラゴンをモチーフにしていると思しき杖が現れた。
「これで準備完了ね。向こうに着いたら、王都に向かいなさい。そこに行けば、他の特異者と合流できるはずよ」
明夜、クロニカ、境屋。そしてヴォーパルに見送られ、鍔姫は一歩を踏み出そうとした。
「……そういえば、まだあんたの名前を聞いてなかったわね」
「勇人だ。一條 勇人。お前は?」
「星川 鍔姫よ」
ゲートを見つめる少年――勇人はうっすらと笑っていた。これから始まる冒険に、期待を膨らませているかのように。
「行くぞ、鍔姫」
「ちょっと、何勝手に仕切ってんのよ!」
駆け出した勇人を追いかけるようにして、鍔姫はゲートに入った。


* * *


勇人の意識が、平原に戻ってくる。
魔物の振るう斧と握り締めた剣が激突し、両手に衝撃が走った。
「なーに、ぼさっとしてんのよ?」
「悪い、少し考えごとをしてた」
「……へえ、ずいぶんと余裕ね」
棍棒を払って一歩引き、傍らの鍔姫を見やる。
「こういうことには、もう慣れたからな」
斧を持った巨漢が雄叫びを上げ、勇人めがけて飛び込んできた。
「終わりだ」
斧を受け流す。そしてそのまま一歩踏み込み、勇人は剣を薙いだ。
魔物の身体を斬る感触が伝わってくる。
敵は斧を振り下ろした格好のまま、地面に倒れた。
「これで全部片付いたわね」
鍔姫が呟く。まだ息はあるが、しばらくは動けないだろう。
「ああ。しかし、今日はもうこういう連中に会いたくないな」
「同感。……それにしても、この国で起こってる異変って何かしらね」
世界を崩壊に導く“異変”。
ワールドホライゾンからこの世界に来てしばらく経つが、まだそれが何なのか、二人は掴めていない。
 ――あるいは、ただ単に気づいていないだけなのか。
「あの市長さんの話だと、王都に行けば俺たちみたいなのがいるってことだったな。
何とかこの世界の地図も手に入れたことだし……急ごう、鍔姫」
「言われなくても、そのつもりよ」
つっけんどんな態度は相変わらずだが、この世界でずっと一緒だったこともあり、もう慣れた。

勇人たちは王都を目指して、平原を歩き出した。

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