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Illustrator : NP

――「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」
フランスの作家、ジュール・ヴェルヌによるとされている、有名な言葉がある。
人の想像は、創造できるもの。
しかし、こういう考え方はできないだろうか。
どこかですでに「創造」されたものを、我々が「想像」している、と――


とある平原。
「……まさか、こんなところにまで出てくるなんて」
艶のある金髪を左右でまとめている少女が声を漏らした。
眼前には斧を携えた巨漢と、その取り巻きらしい緑色の肌をした小男がいる。
彼ら下卑た笑みを浮かべ、少女を凝視していた。
「だから言っただろ。こっちにいる時は、常にこっちの世界の姿になっとけって」
「うるさいわねっ! たまには元の姿に戻ってみたかったのよ。こっちに来てからずっと同じ格好だったし。
それに、そういうあんただってあたしと同じじゃない」 「あのなぁ……」
少年はため息をついた。自分だけだと恥ずかしいと言うもんだから付き合ってやったのだが、
そんなのはお構いなしのようだ。
「今は言い争いをしてる場合じゃないか。いくぞ」
「言われなくても、分かってるわよ!」
二人は左腕に装着された装置を操作し、同時に叫んだ。

「「アバターチェンジ!」」

次の瞬間、二人の姿は変貌した。
少年の手には剣。
少女の手には杖。
その出で立ちは、さながらファンタジーに登場する剣士と魔法使いだ。
「さっさと片付けるわよ!」」
少女が杖をかざし、呪文を唱える。それに合わせ、少年は魔物へと突き進んでいった。
敵は油断している。魔法に注意が向けば、それだけで隙ができる。
(……いつの間にか、俺もずいぶんこの世界に馴染んだもんだな)
魔物に向かって剣を振り下ろそうとする少年――一條 勇人(いちじょう はやと)の脳裏に、
初めてこの世界にやってきた日のことがよぎった。


* * *


「一條、帰りにカラオケ行かね?」
「悪い、パス」
一條 勇人は荷物をまとめ、早々に教室を出ようとした。
「ちぇ、付き合い悪いな」
「アイツはほっとけ。ああいう冷めた態度は、今に始まったことじゃないだろ?」
後ろの方で何か話しているようだが、放っておく。興味がないものはない。
この春、勇人は晴れて高校に進学した。それまでの日常に辟易していた彼は、刺激を求めて遠方の学校を受験。
しかし彼の期待に反し、特に何かが変わるということはなかった。
変わり映えのない日常。
本気になれるものを見出せず、ただ同じような日々を送る毎日に嫌気が差していた。
勇人は寄り道することなく帰宅した。自室に入り、パソコンを立ち上げる。
物事にあまり熱くなれない彼が、幼い頃からずっと熱中している物。それはゲームだ。
「さて、今度の新作は……っと」
定期的にオンライン、オフライン問わず気になったタイトルをチェックするのが、勇人の日課になっている。

 ――わたしの声が、聞こえますか?

ふと、そんな言葉が耳に入った。
「『三千界のアバター』か」
タイトル画面の下には、「聞こえる」「聞こえない」の二つのボタンがある。
「聞こえない」は「戻る」という意味だろう。
(年齢制限はなさそうだが……まあ、どんなものか見てみるか)
あえて「戻る」というボタンを設定しているというのは、どういう意図があっての事だろうか。
勇人は興味を引かれた。もしかしたら、これまでとは違う何かが待っているのかもしれない、なぜかそう思えたのだ。
「聞こえる」を押した瞬間、モニターから強い光が発せられ――勇人はそれに飲まれた。

勇人と同じように、偶然『三千界のアバター』のサイトを見つけた者がいた。
「まあ、ちょっとした退屈しのぎくらいにはなるかしら」
学生寮の自室で、星川 鍔姫(ほしかわ つばき)はパソコンを適当にいじっていた。
規則の厳しい女子高に通っている彼女にとってこのひと時は、数少ない心休まる時間だ。
勉強漬けの日々が苦というわけではない。しかし、鍔姫とて年頃の女の子だ。
それ以外の楽しみを見出したいというのは、ごく自然なことだろう。
現実逃避……とまではいかないが、嫌なことを考えずに済むような何かを鍔姫は欲していた。

 ――わたしの声が、聞こえますか?

画面から聞こえる、女性の澄き通る声。
それに導かれるようにして。鍔姫は反射的に「聞こえる」のボタンを押していた。
「え、ちょ、ちょっと何? 何なの!?」
発生した光に、彼女の身体が包み込まれた。


気がつくと、鍔姫は見知らぬ場所に立っていた。一見すると、どこかの街の広場のようである。
「ここは、一体……?」
はっとして、声の方を振り返る。そこには一人の少年がいた。
黒い髪は少しぼさぼさだが、目鼻立ちは整っている。彼は戸惑うように、周囲を見回していた。
(この人も、あたしと同じ……)
ふと、彼と目が合った。
「あんたも、『聞こえる』を押したの?」
少年が頷く。
「あの時、何が起こったのか分かるか?」
「分かるわけないでしょ。ほんと、一体どうなってるのよ……」
あの光は何だったのか。
見たところ、ここは日本ではない。いや、そもそも現実の世界なのかどうかも怪しい。
空にはオーロラのような模様があり、天体のようなものが浮いている。

「ようこそ、『三千界』へ」

鍔姫の耳に、聞き覚えのある女性の声が届いた。
「どうやら、あなた方にはわたしの声が届いたようですね」
歩み寄ってきたのは、裾の長いドレスを纏った水色の髪の女性だ。
彼女の口元から上は、その姿に不釣り合いなバイザーで覆われている。
「届いたって……まさか、ここはゲームの中の世界だって言うの?」
「いいえ。ですが、あなた方の住んでいた世界ではありません」
彼女が丁寧に一礼する。
「わたしは三千界の鍵守、ヴォーパルと申します。
この三千界を救う力を持った者たちを呼ぶために、世界と世界とを繋ぐゲートを開きました」
顔を上げ、ヴォーパルは三千界について説明した。

鍔姫たちが住んでいる世界――地球の他に、無数の世界が存在していること。
その世界をひっくるめて、『三千界』と呼んでいること。
そして、『三千界』が大きな危機に瀕していることを。

「三千界の中でも極めて規模の大きな世界
――大世界の秩序が一斉に乱れ、世界のバランスが崩れようとしています。
大世界の崩壊は、その世界の周辺に存在する小世界もまとめて滅ぼすものです。
このまま何もしなければ、世界は連鎖的に滅びていき、
最終的には全ての世界が消滅してしまいます。無論、あなたたちのいた地球も」
世界が滅びる。
突然そんなことを言われても、到底信じられない。
それに、
「……それで、何で俺たちなんだ?」
黒髪の少年が、疑問を口にした。それは鍔姫にとっても、気になることである。
「それは、あなたたちが『特異者』だからです」
「特異者?」
「あなたたちの住んでいる世界――地球は、三千界における『特異点』に位置しています。
本来、一つ一つの世界は完全に独立しており互いに干渉することはありませんが、
特異点である地球は、少なからず異世界の影響を受けているのです」
「影響?」
鍔姫は首を傾げた。
「はい。あなたたちの住む世界には、神話や伝説、おとぎ話といった数多くの『物語』があるでしょう。
それらはまったくの想像の産物ではなく、異世界の存在を無意識のうちに感じ取っているために生まれたものです」
「それじゃあ想像の数だけ、異世界があるみたいじゃない」
「小世界も含めれば、その通りですね」
荒唐無稽だ。
だが、女性の言葉がまったくのデタラメであるとも思えない。
現に今、どう見ても地球ではない場所に立っているのだから。
「そして、意識・無意識に関わらず、『自分の世界とは別の世界が存在している』と『確信』していることが、
異世界に干渉するために必要な条件です。
『特異点』である地球の人々の多くが、それを満たしているのです」
しかし、まだ足りない。自分たちがこの世界に来ることになった、決定的な何かがあるはずだ。
「ですが、『ゲート』の存在に気づくためにはもう一つ必要なものがあります。
それは『非日常に強い憧れを持っている』こと。
わたしの声を聞いたあなたたちにはおそらく、普通の日常を脱したいという気持ちがあったはずです」
鍔姫の傍らで少年が目を見開いた。図星のようだ。
(確かに、あたしも何かを求めていた……けど)
今は、戸惑いの方が大きい。いきなり世界を救って欲しいと言われても、思考がついていかない。
「……それで、ここはどういう世界なんだ?」
「それについては、私が答えるわ」
いつの間にかヴォーパルの後ろに、白いスーツを着た女性がいた。

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