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ユグドラシル

【シグトゥーナ】明けぬ闇の帳/第二話

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【シグトゥーナ】明けぬ闇の帳/第二話
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「ゲヴン。傀儡が壊れたそうだな」
「おおウォデン。そうよ、われもころりと忘れていたわ」
「あそこの神殿には剣素が置きっぱなしだろう。放っておいていいのか」
「そうよなあ。ひとつくらいでじたばたせずともよかろうが」
「……」
「心配せずとも、あれらに魔剣など作れなかろ」
「心配などしていない。貴様の呑気に呆れているだけだ」
「ふふ。心配せずとも、あれらがな、何をやってもじたばたよ」
「……」
 
 
 
 第4話 最初の町での話
 
 
 桜・アライラーは、“塔”への道を模索している在野の剣士、ブロウズに質問をしてみた。
 イリーゼ・ユークレースが、彼がスウェアの王兄セルリに似ているような気がする、と言ったからだ。
「あのう不躾な質問をいたしますがー、エルレンドという名に心当たりはありませんかー?」
「エルレンド?」
 ブロウズは首を傾げる。
「あとはセルリとかースウェアとかーそうですね夢で騎士団長をやっていたとかー……」
「???」
 ブロウズはぽかんと口を開ける。
「何だそれ?」
「……駄目ですかー……。いえ、すみません。知らないなら……」
「知らない、というか……うーん?」
「あのー?」
 首を傾げ続けるブロウズに、桜は目を見張る。何か心当たりがあるのだろうか。
「いや、色々さっぱりだが……でも何か、どこかで聞いたことがあるような……」
「何処でですか?」
 ブロウズは首を捻り続けるが、どうにも思い出せないようだった。
「うーん駄目だ。
 あのな、俺が知ってることなら、俺の知り合いも知ってるかもしれない」
「知り合い?」
「多分今は南の町にいると思う。
 酒場に居れば、その内現れるんじゃないかな」

 ブロウズが教えたのは、特異者達がこの世界で最初に辿り着いた町で、ブロウズの知り合いという二人組は教えられた通り酒場にいた。
「よう、今日もいい闇夜だな」
「やれやれ、お前は相変わらずだぜ」
「ビッグヴィルさんとベイラさん、ですかー?
 あのー、訊きたいことがあるのですがー……」
「うん? 今はとっておきの話は仕入れてないぜ?
 そうそうたったの三日前よりエールの値段が2割も上がっているんだが」
「その辺のとっておきはまた後でー。あのですねお二人が知っているかもしれないと……。
 エルレンドという名前に心当たりはありませんかー?」
「エルレンド?」
 二人はぽかんとした後、顔を見合わせた。
「さて」
「うーん」
「ほら」
「いや」
「あれは違うだろ」
「違うだろうなあ」
 知らない、という結論に落ち着きそうになっている二人に「どんなことでもいいのです」と促す。
「いやだって……俺達が知ってるその名前は、ひとつしか心当たりが無いんだが」
「隣の国の王様の名前だぜ」
「隣の国?」
「だが、何百年も昔のだ」
「えっ」
 桜は驚く。
(昔の時代の人……?)
 暫く言葉が無かったが、礼を言って立ち去る前、もうひとつだけ訊いてみた。
「あのー……その人がどんな王様だったかというのは、ご存知でしょうかー」
「さて、昔のことはよく知らないが……」
「良い王様だったっていうな」
「あの国の王様は代々そうさ」
「ああでも、側近に恵まれなくて寂しい人だったって話があったか?」
「言われてみればあったような?」

 一方イリーゼは町に戻って来たことで、ダウジングを試してみようと近隣の地図を入手した。
 桜はダウジングが塔の方角を示さないようにと密かに願っていたが、それは杞憂だった。それどころか、地図の上に垂らしたペンダントは沈黙したまま、動かない。
(エルレンド……この世界の貴方は、何処にいますの?)
 イリーゼは動かないペンダントを見つめて想いを馳せる。
 この世界で彼は、何処で何をしているどんな人なのだろう。
 聞きたいことも伝えたいことも山ほどあるのに。

 ……貴方がいないと、とても寂しい。



 吟遊詩人なら神々の話を知っているかもしれない、と葛葉 祓は考えた。
(やっぱり神々がいなくなってしまったところから世界がおかしくなってしまったんじゃないでしょうか~。
 神々の話をもっと詳しく知らないと~)
 そこで再び最初の町を訪れ、そこの酒場で吟遊詩人について聞いてみる。
「初めまして~。旅のセイズコナです~。
 吟遊詩人さんのお話を聞きたいのですが~、こちらにはいらっしゃいますか~?」
「おお、セイズコナとは珍しい。
 この町は辺鄙な田舎だからなぁ、詩人も前が見えなきゃ旅のしようもないだろうな」
「そうですか~。ちなみに、この町からお城にはどうやって行くのでしょう~?」
 セスルムニルの神殿で、書物は城の書庫にでも行かなければ無いだろう、と聞いていた。
 城に行っても中に入れる伝手は無いが、とにかく行ってみなければ始まらない。
「お城? この町からは明るくても三ヶ月はゆうにかかるよ。
 一山越えて主街道に出ればそこからは殆ど一本道だが」
「三ヶ月、ですか~」
 それはすぐに辿り着くというのは無理そうだ。
「神々については、何か知りませんか~?」
「あの塔に、この闇を生み出した神がいるって噂だ」
 知りたいのはもっと違う神のことだったが、それについては諦める。
「シグトゥーナが闇に覆われた時はどうでしたか~?」
「あの時は恐ろしかったなあ。みるみる空が真っ黒になっちまってな。
 もう三年になるのか……身体が弱い者はどんどん寝込むし、町の外に行った奴等は帰って来ないし、餌の調達も難しくなって家畜も育たないしな。
 そうだ、少し前にこの町にやたら冒険者が来ただろう、あの頃、セイズコナほどじゃあないが少し勘のいい奴等が、何か変だって言ってたな」
「変、とは~?」
「ざわざわするって言うか? 精霊がおかしくなってるのかなと言ってたが」
「……あのぅ、ちなみに世界が封じられてたなんて話を知っていたりはしませんよね~?」
「はぁ?」
 シグトゥーナは自らを封印し、スウェアという夢を見ていた。シグトゥーナの民にとっては、その間の時間は止まっていたような感覚だったようだ。
 それでも勘のいい人は、異変があったと感じ取ったのだろう。
「有難うございました~」
 祓はお礼にと酒場の主人に空猫ビールを渡す。
「おおっ、酒か! 見ない銘柄だ、これは高く売れそうだ!」
 そろそろ酒の在庫も尽きてきてな、と主人はほくほく顔で喜んだ。



 ルキナ・クレマティスに仕えるモリガン・M・ヘリオトープもまた、再び最初の町を訪れ、一般の家々を訪ねて回った。神代の詩を紡ぐ吟遊詩人を探す為である。
(神の使いと呼ばれる者達。
 神にしか扱えない魔剣。
 裏切り者と呼ばれた神々。
 神の居なくなった世界……何を調べるにしても「神」という言葉が出てきます)
 故にまずは神々について調べることにしたのだ。
 神々の時代について何か解れば、シグトゥーナの現状を打開し得る手掛かりも得られるのではないかと考えた。

 扉をノックをすると、開かれないまま中から「どなた?」と誰何の声が聞こえる。扉を開けて灯りが外に漏れるのを怖れているのだろう。
「怪しい者ではありません。失礼いたします。
 私は旅の者ですが、ある目的の為に詩人を探しております。何か心当たりはございませんか?」
「……解りません……。今は、あまり外に出ないので……」
「然様ですか。失礼致しました」
 まずは家の中に入れて貰うことからかと感じ、次からは最初から詩人の情報を求めるのではなく、「お怪我などで弱っている方はいらっしゃいませんか」と訊ねてみる。
 するとかなりの割合で扉が開かれた。黒い布の張られた入口を潜り、中に入る。
「暗いから気をつけてください」
「……? 家の中でも灯りをつけないのでございますか?」
 モリガンは精霊視によって視覚に不自由はないが、どうやら家の中でも灯りを絞っているらしい。
「油がとても高くなっていますから……中々手に入らないんです。食べるものも少ないし……」
 体調不良で倒れても、滋養が摂れないのだという。
「それで、ご病人は?」
「この『闇の抑圧』に生気を吸われて、母が寝込んでしまったんです」
 住人の母親の寝室に案内され、癒しのルーンを施す。
「これで少しは楽になったでしょうか?」
「はい。有難うございました、セイズコナさま」
 臥せった母親は顔色も良くなったようだ。
「お役にたてたようでしたら幸いです」
 滋養にどうぞとユグドラサーモン寿司を差し出す。大層感謝されたが、これも気休めだろうとモリガンは思った。
 闇の抑圧による病なら、今も精神を抑圧し続ける元凶を何とかしなければ回復などしない。
「このようになっている方は他にも大勢?」
「あまり身体が強くない人は、辛いみたいです。老人達はばたばた死んでしまったし……」
「……」

 結局吟遊詩人の居場所については有力な情報を得られなかったが、外に出たモリガンは空を見上げた。
 上空へ垂直に飛翔する。
 限界高度から他に町が見えないか探してみるつもりだったのだが、上昇途中で、モリガンの持つ広角視野が高速で飛翔してくる物体を捉えた。
(『神の使い』!?)
 素早く臨戦態勢をとる。
 大きな鷹の姿をしたブリージンガメンは、鷹の姿のままモリガンに突っ込んだ。
「くっ……」
 光を導く者の盾を構えて防ぐが、バランスを崩される。
 すかさず不可視の足場を作り出して足元を固め、堕ちた熾天の槍を繰り出した。
「ギャッ」
 呻きが上がるが、既に姿を変えてモリガンの盾にしがみついた塊が、モリガンの顔面に手を突き出す。
 モリガンは盾を離して槍を両手で持った。
 しかし攻撃を当てるより先に魔法を撃たれ、モリガンは仰け反ってそのまま落下した。
 落下途中で体勢を変え、着地に問題はなかったが、降りて見上げれば、ブリージンガメンの気配は無い。
 近くに転がっていた盾を拾い、再び上を見た。
「……空を飛んでも襲撃されるのでございますか?」
 
 
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