三千界のアバター

アーキタイプ

≪鏡の中のリアルな世界≫錐の廃墟~Type.S~

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≪鏡の中のリアルな世界≫錐の廃墟~Type.S~
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 ――アーキタイプ。ルイン郊外。
 守護者が2機、廃墟の中を歩いている。空を行く鳥達には林立する灰色の建物に突撃して何事もなく通過するという不可思議な風景が見えているだろう。これは、廃墟の『視認できるのに触れない』という性質から起こる現象だった。
 確かにそこにあるのに触れられない奇妙な廃墟を進むのは、アーマーゴレム改とオクトパスポッドだった。アーマーゴレム改には八神 流司ユーディット・シュヴァルツ、オクトパスポッドにはウィル・O・ウィスプエリル・アライラーが乗っている。ポッドの側面には、建築資材が括りつけられていた。これから行く先で、調査の拠点を作ろうと用意したものだ。3割の力しか出せない状態で運べる量は多くはないが。
「まあ、一応な」
 ポッドを操作しながら、ウィルは言う。
「基本は現地調達だけどな。何せ、守護者自体、鏡の中に入るか分からねえ」
 目的地は、鏡の『中』に入った先だ。守護者が鏡に入らなければ、当然、括りつけてきた資材も中には入らない。
 サブパイロット席のエリルも口を開く。
「ああ、鏡についてもまだ分からないことが多いからな。普通の鏡なら、このサイズが入ることはないだろうが」
「それに、何か有って援軍に守護者寄越して入れませんでした、じゃ洒落にならねえしな。そういう意味の調査も兼ねて……って事だ」
 前を進むアーマーゴレム改も、建築に使えそうな機材を運んでいる。
 暫く進み、2機は鏡の前に辿り着いた。2枚の鏡は、壁に埋め込まれているように見える。だが、鏡を支えているように見える壁もまた幻だ。ということは、この鏡は実際は宙に浮いているのだろう。
 アーマーゴレム改が振り向いた。僅かに頷き、つま先を鏡に近付ける。すると、ゴレム改は吸引されるように鏡にきゅるるると入っていった。鏡の枠が壊れることもなく、ねじれながら入っていったように見えるが、ゴレム改が壊れることもなく。
「入れるみてえだな」
「……そうだな。中に入って大丈夫そうなら、協会に連絡を入れよう」
 オクトパスポッドも、足から鏡に入っていく。中に入った途端、ポッドは地面に積み上がった瓦礫の上に乗ってがくがくと機体を揺らした。瓦礫は、かなりの量だった。背後を見ると、鏡も瓦礫で埋もれそうだ。前方の瓦礫から音がして視線を戻すと、瓦礫の下からアーマーゴレム改が出てくる。立ち上がったゴレム改の表面は、瓦礫でそこかしこに傷がついていた。
 ゴレム改から、流司とユーディットが出てくる。エリルとウィルもポッドから降りた。
「鏡から出た途端に、鏡が置かれていた建物が崩壊したんだ。建物の天井より、こっちの方が高さがあるからな」
「驚いたわね」
 ユーディットは言いながらも、ふふ、と微笑みを浮かべている。2人の話を聞いて、エリル達は鏡に入る前のことを思い出す。触れない廃墟が無障害だったから失念していたが、2枚の鏡は狭い部屋の中にあった。建物の高さも気にしていなかったが、3階建くらいだったと思う。
「こっち側は『触れる』のだから守護者で入ればこうなるのは自明だったか」
「このままじゃ後から来た連中が困るな。しょうがねえ、片付けるか」
 ウィルは、鏡の中で調査対象である廃墟を壊すつもりはなかった。資材が足りずに壊すとしても、最後の手段だと考えていたのだ。出鼻で壊してしまったというのに苦い思いはあったが仕方ない。壊れたのは、一棟だけのようだ。
 4人は守護者に乗り直すと、鏡の周囲の瓦礫を撤去しにかかった。
「…………」
 サブパイロット席で、エリルは考える。
(鏡の中でしか触れられん場所、か。些かワンダーランドの事を思い出しもする。全く以て物の道理が分からん場所だが、それも今に始まった話ではないか)
 拠点作りに協力しようと考えたのは、とにかくまず、安全確保をする必要があると思ったからだ。
(……とは言え、オレに出来る事は限られている)
 土木工作の類の経験も無いわけではないが、人力では時間が掛かる。機械が使えるのならば、それに頼る方が良い。
 彼は、パイロット席のウィルに声を掛けた。
「これが終わったら、オレは護衛に回る。危険度も未知数の領域だ、いつ何が起こるかもわからんからな」
「おう、分かった」
 全てが終わり、一度外に出て佐藤 良に連絡するまで、それ相応の時間が掛かった。

 待機していたトレジャーハンター達が、2枚の鏡へと向かっていく。鏡に入らないかもと危惧されていたのは、守護者だけではなかった。IFや、動物もそうだった。
 ウォークス・マーグヌムと共に調査に参加する弥久 佳宵は、アルビノマンモスの戦象、モコ君に乗っていた。もこもこした背毛の上で、佳宵は考える。
(モコ君が通れなかったらヒイコラ言いながら歩かないといけないかと思ってましたけど、よかったですね)
 そういう状況も考えていたのだが、サイズが大きくても入れると知って安心していた。
 鏡の前まで来ると、佳宵はモコ君から降りて、1人で鏡の中へ入っていった。そして、外に向かって指笛を吹く。
「モコ君! こっちです!」
 外にまで、指笛の音が聞こえたらしい。モコ君は、足からむにょおんという感じで中に入ってきた。何事もなかったように、元気に立っている。
「じゃあ、行きましょう!」
「よし、行こう!」
 佳宵は再びモコ君に乗り、ウォークスもその隣を意気揚々と歩き出す。鏡は、綺麗に片付けられた地面の上に置かれていた。壊れた壁に埋め込むように置かれていて、その壁は外のものとは違い、触れるものだった。
 それを思い出しながら、ウォークスは周囲の廃墟をぐるりと見る。
(新しく出現した廃墟……、アーキタイプでは良くある事だろうか?)
 とりあえず、まずやることは危険な生き物や道具が無いかの調査だろう。何にせよ、未知の場所というのは心が躍る。
 彼は、白い犬のきぐるみタイプのアニマルローブに、レイダーレザーを着用していた。何もかもが分からない場所だ。新種の毒虫がいるかもしれないし、出来るだけ素肌は出さない方が良いだろうと思ったのだ。
 わくわくしながら先に進む。目の前には壁が聳えていた。一目で、その壁がかなりの分厚さを誇っていることが分かる。壁は、左右に緩やかにカーブしながら伸びていた。円を描いているのかもしれない。
 少し右に進むと、近くの背の低い廃墟の周囲で、アーマーゴレム改が作業をしている。動きは早くはなかったが、探索拠点を作っているということはすぐに分かった。この辺りは空き地が多く、守護者も作業が可能のようだった。

 ゴレム改を操作して、流司はバリケード作りを始めていた。ウィルは、持ち込んだ資材を下ろすと、先程除去した瓦礫の中からバリケードに使えそうな大きめのものを運ぶ作業をしてくれていた。それを利用して、拠点として選んだ廃墟の周りにバリケードを作っていく。持ち込まれた資材の中に丸太があったので、今は地面に打ち付けた丸太で壁の補強をしているところだった。バリケードの四方には、入口を作ってトレジャーハンター達が入れるようにするつもりだ。だが、そのままでは入口から外敵が入ってきてしまう。その為、入口の前に更に壁を設置する予定だった。そうすれば、直接内部には突入されないだろう。
「ん」
 こちらに犬の着ぐるみが歩いてきているのを見て、流司は作業を中断してゴレム改から降りた。
「到着したようだな」
「もう皆も来るぞ! ここが俺達の拠点か?」
「ああ。橋頭堡となる拠点だ。思ったより屋根の残った建物が多かったから、場所には困らなかったな。中は、休憩所にできるように整えてある」
 元が廃墟なだけに天井の崩落も考えられるが、2階に上がって自分で強度を確認したところ、問題はなさそうだった。中には、ユーディットが探して持ってきたベッドや椅子、テーブルも置いてある。破損しているものは彼女が復元Ⅰで使用に耐えられる程度に直していた。
「この空間の広さも、敵性存在がどの程度の脅威なのかも現状不明。その状態で、探索にどの程度掛かるかも分からんからな」
 流司は言う。敵性存在に関しては、モンスターと呼んで差し支えない存在がいるのは確認している。しかし、それらがどの程度の力を持っているかはまだ分からない。
 また、唯一の退路があの『鏡』である以上、探索チームが動いている間、一番手薄になるのが鏡の周囲であるこの場所だ。脅威足りうる敵性存在がここにいついたら、探索部隊は干上がることになりかねない。
 周囲の警戒をしていたエリルも話に加わってくる。
「退路も不十分に確保できていない状態では、満足に調査する事もままならんだろう。橋頭堡の確保は、何に於いても先んじなければならんからな」
「まあ、敵性存在が巣穴に籠もってろくに動かないのであればそんな心配は不要だろうが、そうとも限るまい。何があるかわからん場所だ、曲がりなりにもベースキャンプとなる地点は必要だろう。探索が一瞬で終わって不要で済むならそれに越した事は無いだろうがな」
 彼等の話を耳にし、ユーディットが近付いてくる。彼女は持ってきた複数の巾着に、廃墟に落ちていた鉄片を入れて、起爆符を貼り付ける作業をしていた。簡易のクレイモア地雷だ。地雷といっても、地面に埋めるつもりはない。敵が現れたら投げつけて使用するつもりだ。
「ここに閉じ込められるような事態は避けたいですものね。何があるか分からない所では、足場を固めるのは基本だわ。それに、あの中央の壁が怪しさ全開ですもの」
 ユーディットは『壁』を仰ぎ見る。
「調査が終わったら壁の中からモンスター大行進、なんてなったら、お話にならないもの」
 流司とウォークス、モコ君に乗った佳宵も壁を見やる。
「あれは、中央にあるんですか?」
 佳宵が訊く。鏡の中に入ってきたばかりの佳宵とウォークスには、現地点が廃墟全体から見たどの辺りか分からない。
「そうだ。あそこに高層ビルがあるだろ? なんとか非常階段から上れたから、上まで行って確認した」
 流司が示した高層ビルは、壁が剥がれ落ちて骨組みが見えているところもあったが、しっかりと倒れずに立っていた。僅かだが、『壁』よりも高さがある。
「あの壁は円形で、廃墟の中央部にあると見ていいと思う。地上からだと『壁』が邪魔で良く見えないが、東西南北に塔が立っていて、その中央地点になるようだ」
「塔?」
「あの2つの塔以外にも、まだ塔があるの?」
 そこで、青年と少女の声がした。見ると、良と佐藤 日乃がこちらに歩いてきていた。日乃は、南と西にある塔を順番に見ていた。2人の後ろには、調査に来たトレジャーハンター達もいる。鏡の近くにはIFの姿もある。どうやら、全員が到着したらしい。
 
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