三千界のアバター

イーストキャピタル花火大会+α

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イーストキャピタル花火大会+α
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 2人組の女性が、談笑しながらすれ違っていく。自転車に乗った男性が、彼女の脇を通り過ぎていく。
 廃校舎に行く道すがら、サキス・クレアシオンはこの辺りの空気の変化を直に感じ取っていた。以前に来た時に廃れていたのは、校舎だけではない。人気のない周辺一帯も、荒廃の最中にあった。
 だが、今、サキスが感じている空気はそうではない。ここには、人の匂いが、日常があった。街中や他の住宅地には到底及んではいないが、ここもじきに、当たり前に人が利用する場所となるのだろう。
(花火大会の日になったら、今より人が増えるんだろうな)
 そんな事を考えているうちに、サキスは廃校舎に辿り着いた。校門を抜け、昇降口から中に入る。約100体の屍鬼の死体を運び出したあの日から、校舎の時は止まっていた。屍鬼を倒すことで付いた赤黒い汚れは、消えることなく廊下に、壁に、天井に、付いている。
「この辺りは後回しかな」
 メイド服を着たサキスは、階段を上りながら周囲の状態を確認し、どこから手をつけていこうかと考える。彼女は、掃除をする為にこの廃校舎を再訪した。日常を取り戻していく中で魔獣や別の屍鬼が住み着かないように、と思ったのだ。そのうち取り壊されるかもしれないが、そうなったとしても、血が付いた廃材など誰も見たくないだろう。
 上へ上へと進み、階段の終点――屋上の扉の前で足を止める。扉は派手に汚れていた。
「ん、ここをまずきれいにしようかな」
 ここの屋上に花火を見に来る人がいるかもしれないと聞いていたので、屋上は最初に掃除をするつもりだった。だが、まずはここからやっていった方がいいだろう。ここも、だ必ず人目につく。
(屋上はどうなってるのかな……?)
 ノブに手をかけると、扉はあっさりと外側に開いた。白い、金属製の手すりがぐるりとついた、どこにでもありそうな屋上だ。
 思っていたよりもこちらはあまり汚れていなかった。コンクリートが見えている範囲の方が、ずっと多い。これなら、あまり時間をかけずに掃除を済ませられそうだ。
 それだけ確認するとサキスは校舎内に戻った。近くの教室から箒とちりとりを持ってきて、最初に、扉前のスペースや階段に落ちているごみ(あえてごみの詳細は伏せるが)を取り除いていく。それを終えると、次に持参した仕込みモップで汚れを落としにかかる。完璧主義な彼女は、汚れが完全に落ちて、物騒なことが起きたなどとは想像も出来ないレベルになるまで汚れと向き合い、掃除を続ける。
 廃校舎全てが綺麗になるまで、何日でも掃除をする気だった。
 できるだけ音を立てずに、静かに進める。
 そして、サキスが屋上を綺麗に掃除し、他の場所へ移動した頃――

 廃校舎内で掃除をするメイドさんの存在に気付かないまま、邪神 水希は屋上への扉を押し開けた。
 何の変哲もない屋上の真ん中で、彼女は実験をするつもりだった。その舞台として、この廃墟はちょうどいい。花火の見物に利用されるらしいことも、『好都合』だった。
 行いたかったのは、アバターについての検証だ。水希は最近、異世界アバターへの認識を少々改めないといけないかなと思っていた。
 彼女は、アバターの能力について、
『メインアバターが適応アバターならサブが異世界アバターでも、サブアバターの能力は100%』
 と考えていた。その上で、
『メインアバターが異世界アバターでサブアバターが適応アバターならどうなるか』
 と疑問を持った。また、装備品が適応アバターだったらどうなるのか。
 メインアバターをアルテラのアーライル、サブアバターをセフィロトの魔人とした水希は、悪魔ダンタリオン(魔器・憑依)を憑依させていた。
 その状態で、彼女は唄を口ずさみ始めた。魂の永遠の安息を願う唄を。
 屋上で唄を歌っても、校舎内まで声は届かない。花火大会でも何でもないこの日、校庭にも人の姿はない。学校の敷地外を通る人はいるが、そこまで聞こえることはないだろう。
 誰にも聞こえない、自分だけの耳に届く唄を、水希は屋上で歌い続けた。
(花火大会の日は、少し派手に実験しよっか)
 そう、思いながら。
 
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